【公認会計士論文式試験 財務会計論】超直前チェック 実務家が出題する論点の特徴とは?


金融商品の時価情報の開示

金融商品の時価情報の開示については、2008年に公表された「金融商品の時価等の開示に関する会計基準」に基づいて、時価評価されていない金融商品の時価を注記で開示することになります。一方、2019年に公表された「時価の算定に関する会計基準」では、時価評価される金融商品について時価の算定の方法が規定されることになりました(まだ、本適用とはなっていません)。本試験でこれらの会計基準の中身が問われることはないと考えられます。しかし、「時価評価」という技法そのものは実務上、非常に重要なテーマです。したがって、皆さんは「時価評価」というテーマで「横串を刺す」ような出題については十分に気をつける必要があります。

「金融商品の時価等の開示に関する会計基準」と「時価の算定に関する会計基準」の2つの会計基準と受験論点の接点を考えた場合、問われる可能性のある論点には以下のようなものが挙げられます。

① 割引現在価値

② 金融負債の時価評価

③ 金銭債権の時価評価

実務では、時価評価を考える場合に基本的な方向として、「(類似する市場も含めて)市場価格が入手できるかどうか」が最初にあり、次に「キャッシュ・フローが固定されていれば割引現在価値による時価の算定」となります。したがって、債権や社債など、市場価格が入手できなくても、キャッシュ・フローが固定されていれば、割引現在価値によって時価を推定することが比較的容易といえます。割引現在価値による時価の算定で重要なことは、「リスクを考慮する」という点です。仮に、将来キャッシュ・フローが固定されているとすれば、分母の割引率にリスクを反映させることになります。具体的には、金銭債権(資産)であれば、債務者側の信用リスクなどが考慮され、金銭債務(負債)であれば、自社の信用リスクなどが考慮されます。なお、「時価の算定に関する会計基準」では、負債の時価評価に関して、「負債の不履行リスクの影響を反映する」こととされています(第15項)。これは、自社の倒産以外にも債務を履行できない事由が存在するためです。

ここで負債の時価評価に関して、「負債のパラドックス」という問題点を押さえてください。負債を割引現在価値で時価評価する場合、自社の信用リスク(負債の不履行リスク)が高まれば、割引率が上昇するため、負債の金額は帳簿価額よりも小さくなり、評価益が計上されるという問題点です。平成26年第4問問2では、自社が発行した社債について割引現在価値による時価の推定とその問題点について問われています。

次に、金銭債権の時価評価については、金銭債権についても時価評価の是非それ自体、会計理論上の議論は多くあります(リスクからの解放や、事業投資と金融投資の論点など)。まずは金融商品基準の第68項を必ず参照してください。そのうえで、時価情報の注記の世界では、金銭債権についても時価評価をすることになるわけですが、留意すべき点は「短期間で決済されるならば簿価は時価と近似している」という点と、仮に時価評価する際には「貸倒引当金」との関係が問題となります。制度上、貸倒引当金は過去の貸倒実績率などの合理的な方法で貸倒見積高を算定しているわけですが、これは、債務者の信用リスクを考慮しているとは限らないという点で、厳密には時価評価のアプローチと異なります。また、貸倒懸念債権のキャッシュ・フロー見積り法についても、測定時点のリスクを反映した割引率ではなく、「当初の約定利子率」を用いて割引をしていますので、これも時価評価のアプローチとは異なります。

金融商品の時価情報を注記により開示する際に、時価評価されていない金融商品を時価評価することになりますので、受験上も上記の点について問題意識をもってください。

最後に、時価評価といった資産負債の測定全般に関しては、概念フレームワークも参照にしてください。概念フレームワークが出題される場合、財務報告の目的や純利益、クリーン・サープラス関係など、典型論点は当然として、やはり「資産負債の測定」が非常に多く問われる傾向にあります。苦手な人も多いかと思いますが、いま一度、概念フレームワークにおける資産負債の測定に関する議論は確認しておいてください。

〈執筆者紹介〉
井上 修(いのうえ・しゅう)
慶応義塾大学経済学部卒業。東北大学大学院経済学研究科専門職学位課程会計専門職専攻修了、会計学修士号(専門職)。研究分野はIFRSと日本基準の比較研究、特別損益項目に関する実証研究などであり、2020年度に博士号(経営学)を取得見込み。
福岡大学「会計専門職プログラム」では、現役の大学生が多数、公認会計士試験や税理士試験簿記論・財務諸表論に在学中の合格を果たしている。本プログラムから平成30年度は10名、令和元年度は5名が公認会計士試験に合格。

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