【論述に強くなる!財表理論講座】第6回:棚卸資産会計①



全31回のプログラムで、税理士試験・財務諸表論に強くなる! 
論点ごとに本試験に類似したミニ問題を用意しました。まずは問題1にチャレンジし、文章全体を何度か読み直したところで問題2(回によっては問題3も)を解いてみましょう。そして、最後に論述問題を解いてください。


長島正浩
(茨城キリスト教大学経営学部教授)

まずは問題にチャレンジ!

通常の( ① )で保有する棚卸資産は,( ② ) をもって貸借対照表価額とし,期末における ( ③ ) が( ② )よりも下落している場合には,当該 ( ③ ) をもって貸借対照表価額とする。この場合において,( ② )と当該( ③ )との差額は( ④ )として処理する。
通常の( ① )で保有する棚卸資産について,( ⑤ )による簿価切下額(前期に計上した簿価切下額を戻し入れる場合には,当該戻入額相殺後の額)は( ⑥ )とするが,棚卸資産の製造に関連し不可避的に発生すると認められるときには製造原価として処理する。

問題1  
文中の空欄( ① )から( ⑥ )にあてはまる適切な用語を示しなさい。

問題2 
( ③ )とは何か,内容を説明しなさい。

解答

問題1

① 販売目的
② 取得原価
③ 正味売却価額
④ 当期の費用
⑤ 収益性の低下
⑥ 売上原価

問題2

「正味売却価額」とは、売価(購買市場と売却市場とが区別される場合における売却市場の時価)から見積追加製造原価及び見積販売直接経費を控除したものをいう。

基本的な考え方

・時価には、正味売却価額再調達原価がある。

・前期に計上した簿価切下額の戻入れに関しては・当期に戻入れを行う方法(洗替え法)と行わない方法(切放し法)のいずれかの方法を棚卸資産の種類ごとに選択適用できる。

・収益性の低下による簿価切下額(前期に計上した簿価切下額を戻し入れる場合には、当該戻入額相殺後の額)は、注記による方法又は売上原価等の内訳項目として独立掲記する方法により示さなければならない。

金や銀などの鉱産物は、販売可能な市場が存在することを前提として、従来から、生産完了時点での市場価格に基づいて収益を認識する生産基準(収穫基準)が適用されていた。

論述問題にチャレンジ!

棚卸資産の簿価切下げはなぜ取得原価基準に属するのか?

取得原価基準を将来の収益を生み出す有用な原価、すなわち回収可能な原価だけを繰り越そうとする考え方であるとみれば、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とする評価基準は取得原価基準に属する。

正味売却価額が下落しているとなぜ切下げなければならないか?

棚卸資産について収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合には、品質低下や陳腐化が生じた場合に限らず、帳簿価額を切下げ、取得原価基準の下で回収可能性を反映させるように、過大な帳簿価額を減額し、将来に損失を繰り延べないために行われる。また、このことにより、財務諸表利用者に的確な情報を提供することができるものと考えられるからである。

簿価切下げによる棚卸評価損はなぜ売上原価となるか?

収益性が低下した場合の簿価切下額は、販売活動を行う上で不可避的に発生したものであるため、売上高に対応する売上原価として扱うことが適当と考えられる。ただし、簿価切下額が、販売促進に起因する場合には販売費と考えられるが、販売促進に起因するという意味を拡大解釈し、本来販売費として処理すべきではないものも販売費とするような濫用のおそれがあるため、認めていない。

〈執筆者紹介〉
長島 正浩(ながしま・まさひろ)
茨城キリスト教大学経営学部教授
東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。簿記学校講師、会計事務所(監査法人)、証券会社勤務を経て、資格予備校、専門学校、短大、大学、大学院において非常勤講師として簿記会計や企業法を担当。その後、松本大学松商短期大学部准教授を経て、現在に至る。この間30年以上にわたり、簿記検定・税理士試験・公認会計士試験の受験指導に関わっている。

※ 本記事は、会計人コース2020年1月号別冊付録「まいにち1問 ポケット財表理論」を編集部で再構成したものです。

〈バックナンバー〉
第1回:キャッシュ・フロー計算書
第2回:1株当たり当期純利益
第3回:金融商品会計①
第4回:金融商品会計②
第5回:金融商品会計③


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