飛田 努
COVID-19が中小企業に与えたインパクト
日本国内に中小企業や小規模事業者と呼ばれる事業者(ここでは一括して中小企業と呼ぶ)が357.8万ある(2016年現在)。COVID-19は、当然これらの企業に大きなインパクトをもたらしている。
東京商工リサーチが5月13日に発表した調査によれば、2020年4月の全国企業倒産は743件であり、前年同月比15.2%の増加、サービス業や小売業を中心に倒産が緩やかに拡大しているという。
また、「倒産扱いにならない廃業を選ぶ事業者も多く、事業継続をあきらめる「隠れ倒産」はより多い」(2020年5月18日付日本経済新聞)とも言われている。
ある中小製造企業の管理会計システム
筆者が研究対象とする中小企業の管理会計実務は、産業ごと・企業ごとによって異なる特徴がある。
ある中小製造企業では、事業承継した経営者が、技術者でない自分にできることは何かを考え、社内にある記録を自らかき集め、スプレッドシートにデータを入力して製造原価を算出することから始め、管理会計システムを整備した。
また、リーマン・ショックの際には大きな売上減に見舞われたが、新たな目標管理システムの導入を図り、管理会計システムとの接合を図りながら時間をかけて組織内部に浸透させていった。
近年では、1時間あたりの付加価値を重要業績指標することで、その最大化はもとより、「働き方改革」の流れのなかで効率化を推進し、労働時間の短縮を図った。その結果、過去最高収益と利益を達成できた。
この企業では、平時に安定的に経営を行うのはもちろんのこと、危機であるからこそ平時に戻ったときの経営をよりよくするための仕組みの導入を図り、管理会計システムをよりよい方向に磨き上げた。
ただ、忘れてはならないのは、この管理会計システムも極めて原始的な「記録をつける」ことから始まったのである。
よりよい管理会計システムを創るために
この事例は当該企業のものであり、普遍性を欠くものかもしれない。しかし、多くの中小企業を見ていくと、良好な経営成績を残している中小企業では、①経営者が経営状態を把握するための判断基準を持っている(必ずしも売上や利益とは限らない)、②その基準を組織成員にも見えるようにするために自ら管理会計システムを設計(アレンジメント)する、③経営者自らが組織成員に対して設計したシステムの構造・目的を明確に伝えることができ、組織成員もある程度理解できている,という3つの特徴が見えてきた。
優れた管理会計実務を行う中小企業経営者は、経営状況を判断するための尺度を、日々の活動と体系化された管理会計技法(理論)から紡ぎ出して形にしている。彼らは経営をよりよい方向に導く管理会計システムを創るデザイナーでもある。