非常時にこそ真価が問われるプロフェッショナル


鈴木 一水

1 経済活動停止の会計・税務への影響

 新型コロナウイルス感染症対策としての外出自粛、移動制限、在宅勤務、休業などの要請によって生じる経済活動の停止は、組織の経済活動を記録し、それを情報として提供する会計に、また、一人10万円の特別定額給付金、休業手当、休業協力金などの支給といった所得再分配措置は税務に、それぞれ影響する。

2 有事に求められる新たな会計・税務業務

 平時の会計・税務業務は、ある程度定型化された作業の繰返しが多いけれども、現下の非常時では、日頃の定型作業以外の新たな業務が求められる。

 たとえば、休業協力金や雇用調整助成金の給付を受けるための証拠資料として帳簿記録は不可欠であり、公認会計士、税理士および組織内会計担当者などの会計専門職が、正確な帳簿を迅速に作成できてこそ、これらの制度は機能する。
 また、国や自治体によってさまざまな休業補償や中小企業の資金繰り支援あるいは納税猶予などの措置が設けられつつあるが、地域ごとに異なる制度に関する情報の収集と分析そして助言も、特に中小企業を顧客として抱える会計専門職に期待される役割になる。
 あわせて、企業の資金繰り状況を分析し、適切かつ適時に助言することも、重要な仕事になる。

3 業務基盤の変化

 さらに、定型作業の前提としていた組織、慣習、取引形態、業務プロセスなどの業務基盤自体も激変しつつある。

 在宅勤務や遠隔会議の浸透、基幹業務システムや会計情報システムの連携さらには共有による常時監査や電子申告の推進、その他の業務プロセスの変化は、会計・税務業務における働き方だけではなく、その基盤となる内部統制にも影響し、新たな統制上の不備を生じさせるおそれもある。
 
 こうしたさまざまな緊急事態に対して、個別に臨機応変の対応できなければ、プロフェッショナルとはいえない。

4 終息後の新常態への対応準備

 もっと長い目で見れば、終息後のいわゆる新常態(ニューノーマル)への対応準備も、プロフェッショナルには欠かせない。
 
 個別の業界内での常識や経験が通用しなくなる新常態の下では、新たな発想やビジネスモデルが必要になる。その際に、多種多様な業界やビジネスモデルの企業との会計・税務業務を通じて蓄積された知見が役立つ可能性は大きい。
 また、給付金等の支給によって悪化する国や地方の財政を再建のための増税も、将来的に不可避であろう。
 将来の税制改正に関する意見発信、情報の分析および企業への助言も、会計専門職にとっての重大な任務となる。

 このように、新型コロナウイルス禍による経済の衰退と社会の荒廃を食い止め、いち早く復活するためには、会計専門職の仕事を通じた貢献がきわめて重要である。
 プロフェッショナルは、非常時にこそ真価が問われるのである。

<著者紹介>
鈴木 一水
(すずき かずみ)
1959年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科教授、日本会計研究学会理事、税務会計研究学会副会長、財務会計基準機構理事・適正手続監督委員会委員長、防衛装備庁契約制度研究会委員、野崎印刷紙業株式会社取締役、近鉄グループホールディングス株式会社監査役、博士(経営学)、公認会計士、税理士。
<主要著書>
『税務会計分析─税務計画と税務計算の統合』森山書店、2013年
『税効果会計入門』同文舘出版、2017年
『日本的企業会計の形成過程』共著、中央経済社、1994年
『会計とコントロールの理論─契約理論に基づく会計学入門』共著、勁草書房、1998年
『国際会計基準と日本の会計実務―比較分析/仕訳・計算例/決算処理(三訂補訂版)』編著、同文舘出版、2011年
『連結会計入門(第6版)』共著、中央経済社、2012年 他多数


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