今日の状況は社会の在り方を問う機会


安酸建二

今日の状況は社会の在り方を問う機会ともなっている。

「移動の自由を苦労して勝ち取った私のような人間にとって、こうした(移動)制限は絶対に必要な場合にのみ正当化される」

コロナウイルスの拡散に伴う人々の移動制限について、ドイツのメルケル首相は同国の国民に向けた演説の中で上のように述べた。(彼女は旧東ドイツ出身である。)

日本でも緊急事態宣言が出されているが、日本では移動や外出の自粛が強く要請されているだけで、諸外国のように国家権力に基づく制限がそれらにかかっているわけではない。

我々が持つ移動や外出の自由は依然として保障されている。
このような時だからこそ、我々の権利や自由を実感を伴って考えることができるはずである。

今日の状況は仕事の在り方を問う機会ともなっている。テレワークとか在宅勤務であっても、ほとんど支障がない業務もあるはずである。

こうした業務をこなすためにわざわざ通勤する必要があるのかと考える人も出てこよう。在宅勤務でも十分にこなすことのできる業務の存在は、人々が職場という一カ所に集まって仕事をする意味を問う。
このような時だからこそ、仕事の在り方を実感を伴って考えることができるはずである。

今日の状況は企業の役割を問う機会ともなっている。企業が営む経済活動は、我々が収入を得る上でも消費を行う上でも、我々の生活に欠かすことのできないものであることがはっきりした。

「企業は社会の公器である」

という松下幸之助氏の言葉は、今あらためて再評価されるべきである。

このような時だからこそ、企業の社会的役割を実感を伴って考えることができるはずである。

【執筆者紹介】
安酸 建二(やすかた けんじ)
近畿大学 経営学部 教授。鳥取県生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了、博士(経営学)。
流通科学大学商学部 講師、助教授、准教授、近畿大学経営学部准教授を経て現職。
【主な学術著書】
安酸建二. 2012.『日本企業のコスト変動分析』中央経済社.
安酸建二・新井康平・福嶋誠宣編著. 2017.『販売費及び一般管理費の理論と実証』中央経済社.


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