【解答】
③、⑦、⑧、⑨、⑩
【解説】
財務諸表論のような出題形式となってしまいましたが、減損会計のつぶ問の最後に簿記論の計算でも間違えてしまいそうな論点、もしくは今まで扱うことのできなかった論点を広く確認するため選択式としました。
①・②・③
将来キャッシュ・フローは見積りとなるため、複数のシナリオのキャッシュ・フローを発生確率とともに見積ることがあります。この際、各確率の加重平均(期待値)と最も発生確率が高いもの(最頻値)のいずれも採用することができます。例えば、次のAのケースでは20百万円としても妥当であり、そもそも手間を考えれば2%や5%程度しか発生確率がないパターンを見積る必要はないでしょう。それに対して、Bのケースで発生確率が最も高い30百万円とするのは、30百万円未満となる計60%を無視するため、あまり妥当とは言えません。そこで、期待値と最頻値のどちらを用いるかについては、実態に合わせてより適切な処理となるよう企業に委ねられています。本試験ではこの扱いを直接問う計算問題も出題実績があります。
発生確率A | 発生確率B | |
10百万円 | 2% | 30% |
20百万円 | 93% | 30% |
30百万円 | 5% | 40% |
③について、保守的に少ないキャッシュ・フローとすることは、必ずしも将来キャッシュ・フローの見積りを適切に反映したものとは言えません。例えば、Aのケースで10百万円でもよいのか?ということにもなってしまいます。そこで、③は認められません。
④
土地は半永久的に使用できるため、仮に割引を一切行わないものとすると割引前将来キャッシュ・フローが無限大となってしまいます。そのため、21年目以降のキャッシュ・フローは20年目の回収可能価額に直して割引前将来キャッシュ・フローに含めることになります。
⑤
回収可能価額はとにかく高い方を用いるため、正しいです。正味売却価額を用いることで使用価値と比べて減損損失が少なく(=帳簿価額が大きく)なりますが、その分は使用に応じて減価償却費として処理することになります。
⑥・⑦
正味売却価額を下回る金額とするのは下げすぎのため、認められません。そのため、結果的に減損の兆候がない資産に減損損失が配分されることもあります。具体的な計算は本誌10月号の問題5(90ページ)を参照してください。
⑧
費用の発生順序として、減価償却費は使用等に応じた費用を決算で一括して計上するものであるのに対し、減損損失はある一時点で発生したものを費用として計上するものです。そこで、期末に減損処理を行う場合には、時間の順番として先に期首~決算の減価償却の処理を行い、その後に期末時点の減損の処理を行います。
⑨
販売用不動産は棚卸資産となるため、減損会計が適用されません。また、(財務諸表論の論点ですが)商品評価損を計上する場合もただの市況の変化ならば売上原価となります。
⑩
減損処理にあたり、資産の金額を直接下げるのではなく、減価償却累計額と同様に減損損失累計額勘定を設定して間接控除する処理もあり得ます。ただし、洗替え法の採用は認められていません。
つぶ問は、2018年9月号~2019年8月号までの連載「独学合格プロジェクト 簿記論・財務諸表論」(中村英敏・中央大学准教授/小阪敬志・日本大学准教授)に連動した問題です。つぶ問の出題に関係するバックナンバーはこちらから購入することができます。