並木秀明
合格発表
12月には、税理士試験の合格発表がある。多くの受講生ならびに読者から合格の報告があるはずである。うれしい涙も、哀しい涙も、あることと思う。先生をしているものとしては、喜怒哀楽のすべてを受け止めなければならない。しかし、合格者には、やはり「おめでとう」である。今年、不運にも不合格だった人も、将来の自分のために、友人の合格を称える度量をもちたいものである(つらいけど)。しかし、合格した人は『会計人コース』を読んでいないだろうなぁ。現在の執筆時(9月下旬から10月上旬)は、合否のほどはわからないが、この場を借りて、受講生ならびに読者の人へ「お礼」を言わせていただく。ありがとう、そして、おめでとう。
歯医者へ行く
風邪のおまけかもしれない。頬っぺたが視線に入るようになった。太ったわけではない。歯の根が化膿し腫れてしまったのである。忘れていた歯痛が蘇る。これは相当痛い。舌でさわる、指で押す、冷たい水を患部に運ぶ、タオルで冷やす。すべて気休めであることは、過去の経験から知っている。覚悟して、怖い歯医者に行くことにした。待合室まで響くガガー、ウィーン、シューの音で相当にまいってしまう。治療中の脳天へ突き抜ける神経の痛みは簡単に忘れるものではない。異次元世界、それが歯医者の待合室である。「並木さん」と呼ばれて、心臓の高鳴りは最高潮に達する。それはずっと昔のことであるが、歯茎に麻酔の針を刺したまま相撲の優勝決定戦を見に行ってしまった先生がいた。恐怖の始まりはそのときだったのかもしれない。
受験勉強の成果を確認
「三丁目の夕日」という映画があった。この映画は見る世代により感慨が相違するにちがいない。この世界を知らない世代はCGに感動し、この時代を実体験した世代は走馬灯のように過去の記憶が蘇ってくるにちがいない。映画の3丁目は夕日に染まっていたが、私の膝は舗装されていない道(ごろごろ道と呼んでいた)の小石につまずいて、いつも「赤チン」で染まっていた。自宅の真空管テレビ、ダイヤル式の黒電話と赤い公衆電話、給食のコッペパンと粉ミルク、お祭りのアセチレンの匂いとあんず飴、ゴジラを観た映画館、窓口で買う電車の切符と駅員さんの切符ハサミ、小学校の木造校舎と便所(トイレではない)と石炭ストーブ、小鮒を釣った小川、自宅から学校までの複雑で怪奇な通学路…、とりとめなく思い出す。脳みその奥底に埋もれていた記憶が因果の糸に引っ張られて引き出される。脳みそは大変に上手くつくられているようだ。
受験勉強は、この脳みその記憶のつながりを利用するために行っている。この時期には、相応の会計知識も蓄積されているはずである。たとえば、「資産」という会計用語から、因果関係のある会計用語を引っ張り出す練習をするとよい。資産から浮かんでくる会計用語は、流動・固定の分類、貨幣性・費用性、取得原価、実現主義、費用配分等々である。簿記なら目次の論点から仕訳の形式を浮かべる練習をする。切り離された単発の記憶より、連鎖の記憶は長く忘れないものである。
<執筆者紹介>
並木 秀明(なみき・ひであき)
千葉経済大学短期大学部教授
中央大学商学部会計学科卒業。千葉経済大学短期大学部教授。LEC東京リーガルマインド講師。企業研修講師((株)伊勢丹、(株)JTB、経済産業省など)。青山学院大学専門職大学院会計プロフェッション研究科元助手。主な著書に『はじめての会計基準〈第2版〉』、『日商簿記3級をゆっくりていねいに学ぶ本〈第2版〉』、『簿記論の集中講義30』、『財務諸表論の集中講義30』(いずれも中央経済社)、『世界一わかりやすい財務諸表の授業』(サンマーク出版) などがある。
※ 本稿は、『会計人コース』2019年12月号に掲載した記事を編集部で再編成したものです。
記事一覧
第1回:恋と愛と会計人コース
第2回:生きていくために必要な力
第3回:筆記具蒐集
第4回:勉強の成果
第5回:合格発表から年末年始
第6回:覚える、忘れる、思い出す
第7回:海外旅行でのエピソード
第8回:出会いがもたらしたもの
第9回:タイムマシン
第10回:季節の変わり目
第11回:本試験までの勉強
最終回:試験日までの最終アドバイス