
松岡俊(株式会社マネーフォワード執行役員 グループCAO)
【編集部より】
2027年から新リース会計基準が強制適用となります。対応に追われている企業は多いのではないでしょうか? 本連載では、新リース会計基準を早期適用したマネーフォワード経理本部の実例を解説していただきます。
第1回:改正の概要と早期適用をした理由
第2回:リースの範囲はどこまで?
第3回:新リース会計基準の導入が困難な理由
第4回:IFRS第16号導入プロジェクトの教訓
第5回:【実践】プロジェクトの可視化
第6回:【実践】知識のインプット
第7回:【実践】意思決定の加速とリース期間の決定方針
第8回:【実践】契約書の網羅的な洗い出し
第9回:【実践】全社連携と監査法人との協議
第10回:【実践】システム対応とその他の影響の考慮
「誰が、いつまでに、何をやるのか」WBSの作成
「新リースプロジェクト」(以下、プロジェクト)において最初に作成され、その後の活動の中心となったのがWBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)です。
WBSは単なるタスクリストではなく、壮大なプロジェクト目標を具体的かつ実行可能な作業単位まで分解し、各タスクに担当者と期限を明確に割り当てることで、「誰が、いつまでに、何をやるのか」を完全に可視化するツールです。
これにより、プロジェクトの進捗を客観的な事実として追跡し、潜在的な遅延やボトルネックを早期に特定してプロアクティブに対処できる体制が整いました。
<参考: 当社WBS上の主なタスク>
| 新リース会計基準 | ||
| 1 | 基準理解、社内解説コンテンツ作成 | |
| 1 | 1 | 基準、実務指針読み込み |
| 1 | 2 | eラーニング視聴:プロジェクトメンバー基準理解 |
| 1 | 3 | 社内向けドキュメント作成 |
| 1 | 4 | 説明用スライド作成 |
| 2 | 会計方針の設定 | |
| 2 | 1 | 解約オプション、延長オプションの整理 |
| 2 | 2 | 割引率の設定 |
| 2 | 3 | その他、要決定事項の方針決定 |
| 3 | 対象契約の洗い出し | |
| 3 | 1 | 調査対象科目の洗い出し |
| 3 | 2 | 『マネーフォワードクラウド契約』、Boxから契約書収集 |
| 3 | 3 | 本運用後のリース契約抽出検討 |
| 4 | 早期適用検討 | |
| 4 | 1 | 金額影響の試算 |
| 4 | 2 | 報告様式のフォーマット作成 |
| 4 | 3 | 対監査法人説明 |
| 4 | 4 | 影響額試算後、減損チームへ共有 |
| 4 | 5 | 経営陣に説明し、早期適用の意思決定 |
| 5 | 開示 | |
| 5 | 1 | P/L,B/S表示の方針決定 |
| 5 | 2 | 最終開示資料のVersion0を作成 |
| 5 | 3 | 科目の新設検討 |
| 5 | 4 | 全グループ会社への科目登録 |
| 5 | 5 | 開示項目の整理 |
| 6 | システム検討 | |
| 6 | 1 | 暫定対応としてスプレッドシートで計算シート作成 |
| 6 | 2 | 新リース対応プロダクトのチームと要件定義、ディスカッション等 |
| 7 | 連結 | |
| 7 | 1 | グループ間取引の連結相殺仕訳の検討 |
| 7 | 2 | 連結パッケージの作成 |
| 8 | グループ会社への展開 | |
| 8 | 1 | 経理本部内での勉強会開催 |
| 8 | 2 | グループ展開用のリース契約抽出&判定シートの作成 |
| 8 | 3 | 各社へ判定シートを配布し、各グループ会社で対応してもらう |
| 8 | 4 | グループ連結の影響額試算 |
| 8 | 5 | 連結パッケージと社内マニュアルの英語化 |
| 8 | 6 | 海外グループ会社への展開 |
| 8 | 7 | 連結パッケージへの入力方法の説明 |
| 8 | 8 | 持分法適用会社等への適用要否検討 |
| 8 | 9 | Multibookから海外拠点へのレクチャー(新規モジュール) |
| 9 | J-Sox | |
| 9 | 1 | 内部監査室頭出し |
| 9 | 2 | 3点セット作成 |
| 10 | 税務 | |
| 10 | 1 | 会計上の仕訳イメージの税務チームへの共有 |
| 10 | 2 | 税会不一致の実務対応(補助科目を分けるのか等)相談 |
| 11 | 予算への織り込み | |
| 11 | 1 | 経営企画への頭出し |
| 11 | 2 | 予算への織り込みオペレーションの検討 |
| 11 | 3 | FY26予算への織り込み |
| 12 | 月次運用の構築 | |
| 12 | 1 | 新規リース案件把握オペレーションの構築 |
| 12 | 2 | 更新リース案件把握オペレーションの構築 |
| 12 | 3 | 解約リース案件把握オペレーションの構築 |
| 12 | 4 | 社宅情報の把握オペレーションの構築 |
| 12 | 5 | 仕訳イメージの整理 |
WBS作成の効果
これらのフェーズは単に時系列に並んでいるだけでなく、それぞれが相互に依存しながらプロジェクト全体を構成しています。
たとえば、「会計方針の設定」が遅れると、続く「移行仕訳作成」が滞るのは明らかです。
また、開示検討が進まず、必要な開示情報の粒度が定まらなければ、情報収集の前提となる連結パッケージや科目マスタの設定も停滞します。
WBSによってこの依存関係が明確になることで、プロジェクトマネジメントの精度は飛躍的に向上しました。
ここからは、個別のタスクについて特に重要な要素について1つずつ解説していきます。
【著者プロフィール】
松岡 俊(まつおか・しゅん)
株式会社マネーフォワード
執行役員 グループCAO
1998 年ソニー株式会社入社。各種会計業務に従事し、決算早期化、基幹システム、新会計基準対応 PJ 等に携わる。英国において約 5 年間にわたる海外勤務経験をもつ。2019 年 4 月より株式会社マネーフォワードに参画。『マネーフォワード クラウド』を活用した「月次決算早期化プロジェクト」を立ち上げや、コロナ禍の「完全リモートワークでの決算」など、各種業務改善を実行。中小企業診断士、税理士、ITストラテジスト及び公認会計士試験 (2020 年登録)に合格。











