【経済ニュースを読み解く会計】 企業グループの「営業利益」はどこまで?<後編> 持分法投資利益と企業グループの「営業利益」


小阪敬志(日本大学法学部准教授)

【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験・公認会計士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!

前編はコチラ

企業グループの業績と持分法

今日、M&Aなどを通じて、親会社を頂点とする集団(企業グループ)を形成し、グループとして経営を行うケースが増えています。グループ全体の財政状態や経営成績は、親会社の個別財務諸表だけを見ても把握できるものではないため、別途、企業グループ全体を対象とした連結財務諸表が作成・開示されます。

この連結の範囲には、親会社のほか、親会社によって「支配」されている子会社が(原則として)すべて含まれます。子会社の連結では「全部連結」という方法が採用されており、子会社の損益計算書に計上されている収益・費用は、親会社の収益・費用と合算する形で表示されます。結果として、営業利益や純利益についても、企業グループ全体で獲得した金額が表示されることになります。
子会社が親会社の「支配」下にあり、一体となってグループの経営を担っているという実態を反映した手続きといえます。

これに対し、親会社(投資企業)が「重要な影響力」を及ぼす企業が、関連会社です。関連会社もグループの経営の一端は担いますが、「支配」ほどの強力な結びつきがあるわけではありません。このため、関連会社は全部連結ではなく、「持分法」と呼ばれる連結手続きによって、その業績の一部を「持分法投資利益」という収益項目(または「持分法投資損失」という費用項目)によって取り込みます[1]

【図表1】では、「全部連結」と「持分法」による、業績開示の違いを整理しています[2]。「全部連結」と「持分法」を比較すると、いずれも連結損益計算書(P/L)上の利益の金額は同じですが、その構成要素として表示される収益・費用の内容に違いがあることがわかります。

持分法投資利益は「営業利益」を構成しない?

「持分法」では被投資企業の業績を「持分法投資利益」という1つの項目で表現することになるため、損益計算書のどの区分に表示すべきか?という論点が生じることになります。現行のIAS1号では、営業利益の開示やその内容が区々となっています。このため、IFRS適用企業の連結P/Lからは、関連会社の活動を企業グループの営業活動の一環と見るか否かについての、各企業の姿勢がうかがえます。

2023年4月1日から2024年3月31日までの1年間に決算日を迎えるIFRS適用企業を対象に調べたところ、185社[3]が持分法投資利益または損失を計上しており、このうち①持分法投資損益を「営業利益」の計算過程に含めていた企業が51社(約27.6%)、②含めていない企業が116社(約62.7%)、③「営業利益」の区分を設けていない企業が18社(約9.7%)ありました。
このことから、持分法投資利益を企業グループの営業利益の一環と見る企業も相当数存在していることがわかります。

次に【図表2】は、持分法投資利益・損失の計上額が大きかった企業を、それぞれ10社ずつリストアップし、各社が①~③のいずれに該当するか整理したものです。IFRS18号では持分法投資損益が「投資」区分に計上されることになるため、①の企業にとっては、「営業利益」への影響が大きく、逆に②の企業にとっては、影響は小さいといえるでしょう。他方、そもそも「営業利益」を表示していない③の企業には、このような影響は生じません(新たに損益区分を設ける必要がある、という影響は生じますが)。

ちなみに、日本の会計基準では持分法投資損益は「営業外」損益項目とされ、営業利益の計算には影響しません。IFRS適用企業も移行前は基本的に日本基準を適用していたわけですから、②の企業が多いのはこういった背景も関係しているかもしれません。

関連会社の位置づけをどう見るか

「企業グループの『営業利益』はどこまで?」というテーマは、「関連会社の業績を企業グループの営業利益の一部とみるかどうか」という問題であるとも言い換えられますが、この関連会社の捉え方については、IFRSと日本基準との間で違いがあります。IFRSは「支配」概念を重視していて、親会社の支配が及ばない関連会社(に対する持分法)と、支配が及ぶ子会社(に対する全部連結)とを明確に区別します。持分法投資利益を連結上の営業利益から除くことを明確に規定した背景には、「関連会社の活動を企業グループの営業活動とはみなさない」という姿勢がうかがえます[4]

これに対して日本では、子会社株式と関連会社株式を「事実上の事業投資」と位置付ける金融商品会計基準など、子会社と関連会社の類似性に言及した記述がみられますが、日本基準でも持分法投資利益は連結上の営業利益に含められません。
表示上ではIFRSと整合する一方で、関連会社の捉え方には相違が見られるのは、重要な論点といえます。その意味では、上記の①のような企業群が存在することは、研究の観点からは非常に興味深いです。しかし、IFRS18号が適用される2027年以降になると、そういった事例が観察できなくなる点は、残念です。

今回のコラムでは、(適用開始時期は先になりますが)IFRSの新しい業績開示を検討してみました。受験との関係では、日本基準における損益計算の構造や関連会社の位置づけ、全部連結と持分法の違いといった論点が、関心が高まるトピックとなる可能性があります。

皆さんも、会計ニュースをきっかけに普段の学習で関連する論点の再確認をしてみると、新しい発見があるかもしれません。


[1] 厳密には、関連会社の資本に対する持分額を、投資勘定に反映するという側面も持ち合わせています。

[2] 説明の便宜上、P社のA社に対する持分比率を100%にしていますが、そのような場合は通常A社が子会社に該当するため、持分法は適用されない点にご注意ください。

[3] eolを用いて、上場企業を対象に「持分法投資」および「持分法による投資」をキーワードとして全文検索を実施し、有価証券報告書に投資利益、投資損失または投資損益のいずれかの記載があった企業の件数です。なお、米ドル単位で財務諸表を作成している企業1社は、除いています。

[4] 単純に「営業利益を比較可能にするため」という目的であれば、持分法投資利益を営業利益に「含める」という方法でも統一できたはずです。


<執筆者紹介>
小阪敬志(こさか・たかし)
日本大学法学部准教授。中央大学在学中に公認会計士試験に合格。中央大学大学院を経て2012年日本大学法学部助教に着任。その後,専任講師を経て2018年4月より現職。主な研究テーマは企業結合。『検定簿記講義1級(商業簿記・会計学 上/下巻)』『テキスト上級簿記(第5版)』(いずれも中央経済社)等を執筆。
小阪敬志


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