村上昌志
【編集部より】
公認会計士に登録するための最終試験である「修了考査」。令和5年度(2023年度)修了考査の合格発表によると、受験者数1,958人、合格者数1,495人(合格率76.4%)とのことでした。
働きながら受験勉強で、また繁忙期もあり思うように勉強時間をさけないこともあるかもしれません。また、受験者数自体が多くないので、情報が限られているという声も聞きます。
では、合格者の方々はどのように学習を進めたのでしょうか。環境の異なるさまざまな合格者の方々に合格体験記をお寄せいただきました(随時掲載)。ぜひ参考にしてください!
まずはホッとした気持ち
修了考査に合格して、まずはホッとしました。
今まで本当に長い道のりを歩んできたのでこのような心情でした。
詳細は後述しますが、公認会計士試験に合格するまでに多くの時間を要し、さらに合格した後も長い道のりでした。
また、多くの監査法人では、修了考査の合格が昇格要件にもなってきます。
たとえ私のように前職での経験があっても、「公認会計士」でなければ監査部門で原則昇格はできません。
本当に合格できてよかったです。
修了考査は公認会計士試験の裏試験
まず、修了考査を受験するには、原則以下の要件をクリアする必要があります。
・公認会計士試験(短答式)に合格
・公認会計士試験(論文式)に合格
・実務経験3年
・実務補習所に3年通い、膨大な講義単位を取得
・実務補習所の考査10回で平均60%以上
・実務補習所の課題論文6回で平均60%以上
このように、とんでもなく厳しい道を潜り抜けて、ようやく受験することができる試験です。
それにも関わらず、修了考査自体の難易度も高く、本当に大変な試験でした。
膨大な範囲からの出題
修了考査の試験範囲はとてつもなく膨大です。
税務実務だけでも「法人税、所得税、消費税、相続税、贈与税、地方税、国際課税、組織再編税制、グループ通算制度など」ととんでもない試験範囲です。
仮に納得いくまで勉強するなら、数年間専念して勉強する必要があるかもしれません。
しかし、修了考査の受験生の多くは社会人なので、そんな時間はありません。
いかに「効率的に短期集中」で、一定水準以上に持っていけるかが鍵になってきます。
仕事を頑張っていても落ちる
よく修了考査は「監査法人でちゃんと仕事をしていたら受かる」という声を聞きます。
もちろん、それが当てはまる回があったのかもしれません。
しかし、現在ではその考えはかなり危険です。
事実、私が最も尊敬する優秀な先輩や、優秀な同期が不合格になっています。
油断はせずにしっかり勉強をしたほうがいいと思いました。
税務を制するものが修了考査を制する
「修了考査は税務実務で合否が決まる」と言っても過言ではないかもしれません。
多くの受験生が監査法人勤務者という前提のもと、税務実務以外は仕事で触れる機会があり、基礎的な部分を復習すれば、比較的容易に合格水準にもっていくことができます。
しかし、税務実務は仕事で触れる機会が少なく、かつ膨大な試験範囲から「それなりのレベル」の問題が出題されます。税務実務は配点が300点あり、疎かにすると大きく足を引っ張ることになります。
どのように勉強をしたか
私は「習慣化」「質を高める」「メリハリをつける」にこだわって勉強をしていました。
特に、土日や試験休暇中は以下のように自分ルールを定めて勉強をしていました。
・朝7時にスタバへ行く
・朝10時に予備校の自習室へ行く
・集中力が切れたら移動・ランニング
・7時間以上は睡眠時間を確保する
・1日8時間勉強を目標にスケジューリング
・過去問を見ておく
・予備校の答練は必ず解く
朝7時にスタバ
何事も習慣化すれば勝ちなので、朝7時前(オープン前)にスタバへ行き、いつもの席に座ることを徹底していました。それをある程度継続することにより、スタバへ行かないと違和感が生じるようになります。
また、朝起きてからダラダラせず、すぐに行動できるようにもなりました。気が乗らない日でも、スタバへ行きさえすれば勉強が捗るので、サボり防止にも繋がります。
朝10時に自習室
私は家だとサボってしまうため、自習室へ行くようにしていました。自習室では同じ修了考査受験生や、公認会計士試験の受験生がいるので、他の人が頑張っている姿を見ると「自分も頑張ろう」という気になります。
集中力が切れたら移動・ランニング
集中力が切れたら同じ場所でダラダラ勉強するのではなく、すぐに移動していました。
移動している間に頭をリフレッシュできるので、次の場所でまた集中して勉強することができます。集中できる時だけ勉強することを徹底していました。
また、ランニングも同様です。勉強で疲れた頭をリフレッシュすることができます。ランニング後に勉強を再開すると、また集中して勉強をできます。
7時間以上は睡眠時間を確保する
最優先で睡眠時間を7時間は確保するようにしていました。経験上、睡眠時間を削ると、同じ勉強時間でも理解度と進捗が大きく異なります。
私の場合は、特に睡眠不足の状態で勉強をしても勉強をしている気になっているだけでした。必ず7時間以上寝て、集中力を高めるよう徹底していました。
1日8時間勉強を目標にスケジューリング
私は以下のようなスケジュールを立てて、1日8時間を目標に勉強していました(毎日同じ時間に同じようなことをしていました)。
・7時〜10時前:スタバ
・10時〜15時半:予備校の自習室
・16時〜17時:ランニング
・19時〜20時:自宅で勉強
過去問を見ておく
先に過去問にはざっと目を通しておきました。レベル感を把握する点と、重要項目を把握しておくために通読しました。そうすることにより、メリハリをつけた勉強が可能になります。
予備校の答練は必ず解く
予備校の答練は一通り解くことを徹底していました。
答練は重要論点が中心に出題されており、当日の試験では意外とそのまま出ます。
また、テキストを読む際にも、答練で出たところを重点的に読むことにより、強弱をつけやすくなります。時間がないからこそ、答練には目を通したほうがいいと思いました。
ただし、答練の分量が多いので、試験休暇時に手をつけても間に合わない可能性があります。そのため、予備校のスケジュール通りに解くことを強く推奨します。
科目ごとの勉強について
次に、個々の科目ごとに、私の勉強方法や反省点等をお話しします。
税に関する理論及び実務
<計画>
過去問分析の結果、試験範囲が膨大かつ、しっかりと骨のある問題が出題されている印象でした。
勉強量に比例しやすい科目であり、この科目にどれだけ時間を割いて勉強したかで勝敗が決まると言っても過言ではないかもしれません。テキストの分量が最も多く、最優先で勉強をしようと計画を立てました。
<勉強方法>
中でも法人税や消費税の対策が優先になりますが、近年は所得税や相続税もしっかりと出題されており、基礎的な内容は押さえるようにしました。そのため、法人税と消費税は徹底的に詰め込み、所得税と相続税も基礎は念入りに押さえ、他の科目は答練で出題されたところを中心に軽く触れるようにしました。
・テキスト2周(強弱をつけて熟読、法人・消費のみ3周)
・答練2周
<試験を終えて>
想定通り、勉強量に点数が比例するような試験でしたが、なかなか骨の折れる問題が多く、しっかり対策しないと厳しい試験内容でした。
正直、税務に関しては上記の勉強量では不足しているように感じ、3〜4周以上やってもよかったと思いました。
会計に関する理論及び実務
<計画>
会計学は年度によって難易度が大きく上下していますが、直近の過去問では基礎的な内容が中心で、「論文式試験」の知識レベルで十分合格点に到達できる内容でした。そのため、いかに基礎的な知識を呼び覚ませるかが鍵になってくると思いました。
<勉強方法>
計算はA論点を中心に目を通し、理論はテキストを丁寧に読み込みました。
特に修了考査でよく出題されている税効果会計や、固定資産の減損、収益認識基準といった重点項目を中心に勉強をしました。
・理論テキスト3周
・計算テキスト1周(不安なところだけ2周)
・答練1周
<試験を終えて>
会計学に関してはテキスト1周ずつでよかったと思いました。その分を税務の勉強時間に回すべきでした。軽くでよいとわかっていても、不安に打ち勝てずに勉強をし過ぎてしまいました。もっと自分を信じることが必要だったのかもしれません。
監査に関する理論及び実務
<計画>
監査実務は、基礎的な知識を問う問題と実務的な知識を問う問題がありますが、どちらも監査基準などに沿った内容であり、勉強をすれば解ける問題が多い印象でした。
そのため「基礎知識」を呼び覚ますことを意識しつつ、私は監査法人で働いていることもあり、全科目の中で最も軽く勉強しようと計画しました。
<勉強方法>
・答練1周(軽く通読)
・テキスト1周(軽く通読、不安なところや改正論点のみ精読)
<試験を終えて>
監査は想定通りのレベルの出題でした。しかし、監査経験が浅いところはもう少しフォローすべきでした。私は金融系の監査が中心だったので、「棚卸立会」の経験が浅いです。しかし、試験では棚卸立会が出題され、うまく書けませんでした。もう少し強弱をつけ、弱点フォローを意識して勉強するべきでした。
経営に関する理論及び実務
<計画>
経営学は財務分析とITに分かれますが、財務分析は毎年基礎を中心に出題がされており、しっかり対策をすれば高い確率で高得点が望める印象です。一方で、ITは年度によって大きく難易度が変わり、かつ実務的な問いも目立つため、必ずしも勉強量に比例しない科目のように感じました。
<勉強方法>
財務分析は満点を取るつもりでテキストのC論点も含めて重点的に勉強しました。一方で、ITは最低限の単語暗記はしつつも、理解重視で読み流しました。
【財務分析】
・テキスト3周(精読)
・答練1周(軽く通読)
【IT】
・テキスト1周(理解重視で)
・答練1周(軽く通読)
<試験を終えて>
経営に関しては、財務分析が簡単で、ITの難易度が想定より高めでした。
ITの勉強を少し軽視し過ぎた点は反省でした。理解している気になっていましたが、試験問題を解きながら理解の浅さを痛感しました。テキストをあと1周はしておきたかったです。
公認会計士の業務に関する法規及び職業倫理
<計画>
この科目は単純に暗記したものをそのまま問われる問題が多い印象です。
そのため、甘く見ると足切りリスクがある怖い科目ですが、しっかり対策をすれば高得点が望めます。私はテキストベースで、答練出題箇所を中心に直前に詰め込みました。
<勉強方法>
・答練1周(軽く通読)
・テキスト2周(答練出題箇所を重点的に)
<試験を終えて>
この科目は上記の通りの勉強量で十分でした。直近の過去問より難易度が上がった印象ですが、時間的制約がある中での勉強なので十分でした。
最後に
最後に、直近の修了考査は70%程度の合格率で、適切な対策を行えば合格の道は開けています。しかし、公認会計士試験に既に合格された方々の中でも、約30%がこの試験で不合格となってしまいます。ですので、決して油断せず、8月以降は特に時間を確保し、集中して勉強に励むことを強く推奨します。
今年の試験では、少しでも多くの方が合格されることを心から願っています。頑張ってください!
<執筆者紹介>
村上 昌志(むらかみ・まさし)
公認会計士試験に合格後、コンサルティング会社で原価計算や創業支援、事業計画作成等の業務を経験し、監査法人へ転職。監査法人では金融を主軸としつつ、卸売業、アミューズメント、エネルギー業等、多岐にわたって監査を経験。最近ではIPO業務に力を入れている。
また、若手向けに監査Excel研修を毎年開催しており、監査調書の作り方も一緒に学べると好評である。
・X(旧Twitter):@masashikaikei
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