税理士受験生のなかには、大学院に進学して科目免除を受けることを考えている方もいると思います。
徐々に大学院入試も行われる時期になってきますが、願書を提出する際、受験生の頭を最も悩ませるのが「研究計画書」ではないでしょうか。
どのように研究テーマを見つけ、研究計画書を書き、入試に臨めばよいのかわからないという方も多いかもしれません。
そこで、本記事では、帝京大学・同大学院教授の岩﨑 健久先生に、
① 研究テーマを見つける
② 研究計画書を書く
③ 研究計画書について話す
の3ステップのノウハウを解説していただきました。
大学院進学を決めた方はもちろん、科目免除が気になっている方も必見の内容です。
岩﨑 健久
(帝京大学経済学部教授)
「研究計画書」ってなに?
本題に入る前にまず、「研究計画書」がどのようなものか、その定義を見ていきましょう。
研究計画書とは、大学院で研究するにあたっての動機や目的、その方法、先行研究などを具体的にまとめた書類をいいます。
大学院入試は筆記試験と口述試験によるのが一般的ですが、願書を提出する際、この「研究計画書」の作成が必要な大学院が多くあります。
大学院には、その修了要件に「修士論文」が必要な場合とそうでない場合があり、税理士試験の科目免除を申請するためには、修士論文の執筆は必須要件です。
その修士論文執筆のためのスキームが研究計画書であり、口述試験の際、この研究計画書をもとに「大学院でどのような研究を行うのか」を具体的に質問される場合もあります。
そのため、研究計画書は、大学院受験の際にも、入学後も重要なものといえます。
【ステップ1】研究テーマを見つけよう
修士号取得による税理士試験の科目免除には、①税法に関する科目を免除するもの、②会計に関する科目を免除するものがあります。ここでは、受験生の需要が圧倒的に多い、「税法に関する科目の免除」のための研究計画書についてお話しします。
まず、研究計画書を書くためには「研究テーマ」を考えなければいけません。この研究テーマですが、現代日本の税法に関するものです。具体的には、わが国の所得税法、法人税法、消費税法、相続税法、国税徴収法などが研究対象となります。科目免除申請のための修士論文は、これらの税法に関する判例・裁決例の研究成果となることが一般的です。
研究テーマを探すにあたっては、まず代表的な判例・裁決例を調べ、そのなかから興味のある判例・裁決例を抽出しましょう。判例・裁決例を調べることは、“自分は何を明らかにしようとしているのか”を明確にする作業です。
大学院で行う研究とは、“自分で仮説を立て、それを立証していくこと”。単にいくつか判例・裁決例を選び、それを解説するだけでは「判例解説集」となってしまい、研究とはいえません。
複数の判例・裁決例を検討し、そのなかで「具体的に明らかにしたい」と興味をもったものが研究テーマにつながります。大学院では、その判例・裁決例の研究を進めていくことになります。
また、判例・裁決例を調べる際には、少なからず「先行研究」があるものを選ぶことも重要です。
【ステップ2】研究計画書を書こう
研究テーマを見つけたら、具体的に研究計画書を作成します。ステップ1で述べたように、現代わが国の税法に関する判例・裁決例、その先行研究に関連するさまざまな文献をもとに研究計画書を作成していきます。大学院によって、研究計画書の形式や分量は違うと思いますので、ここでは、基本となる骨子を簡単に説明します。
研究計画書では、まず「問題意識」と「研究目的」を明示します。問題意識で、なぜ自分がこのテーマを研究しようと思ったのかを示し、研究目的は、想定する修士論文のタイトルを踏まえて、具体的に書いていきましょう。
次に、研究テーマに関連する「理論」、たとえば、代表的な学説を簡潔に述べます。
そして、研究材料となる「判例・裁決例」を簡単に紹介します。
さらに、その判例・裁決例に関する「先行研究」も、あわせて紹介できるとよいでしょう。
【ステップ3】研究計画書について話そう
研究計画書を作成したら、その内容をしっかりと説明できるように準備することが必要です。
大学院入試において口述試験がある場合、志望動機や学部での学修内容とともに、大学院入学後に何を研究し、修士論文をどのように執筆するつもりなのかを質問されることがあります。
面接員は、研究計画書に沿って、ステップ2で書いた「問題意識」、「研究目的」、材料として用いる「判例・裁決例」、研究テーマに関連する「理論」や「先行研究」などについて深掘りをする可能性があります。
また、修士論文執筆のために参考とする書籍や学術論文などがあれば、それを挙げ、その概要もあわせて説明できるように準備しておくことも大切です。
メッセージ
大学院における修士論文の執筆と、税理士試験の受験勉強を両立することはかなり大変です。大学院生活では、税理士資格取得に向けた計画に応じて、時間配分を考えることが肝要でしょう。
そして、修士論文執筆と受験勉強は、質がかなり違います。皆さんが共通の目標に向かって精進する受験勉強に対し、修士論文執筆は「研究活動」です。研究テーマに沿って、自ら土俵を作り、データを収集、これを分析、検討、論理的に結論を導き出します。
この違いを理解して、税理士資格が取得できるように、全力で頑張ってください。
〈執筆者紹介〉
岩﨑 健久(いわさき・たけひさ)
帝京大学経済学部教授 博士(法学)・公認会計士・税理士
早稲田大学理工学部応用化学科卒業、筑波大学大学院修士課程経営・政策科学研究科修了(経済学修士)、筑波大学大学院博士課程社会科学研究科法学専攻修了(博士(法学))。太田昭和監査法人(現新日本有限責任監査法人)にて監査・会計業務に従事した後、帝京大学に勤務し、専任講師、助教授を経て現職。コーネル大学、East Asia Programにて在外研究(2007年8月から2009年7月まで)。
日本簿記学会簿記実務研究部会部会長、日本公認会計士協会租税業務協議会・租税相談専門委員会委員長、同協会租税調査会副委員長、同協会租税政策検討専門部会専門委員、同協会学術賞審査委員会委員を歴任。
【主な著書】
『消費税「増税」の政治過程』(中央経済社、2019年)
『消費税の政治力学』(中央経済社、2013年)
『租税法』(税務経理協会、2011年)
『会計監査論』(税務経理協会、2010年)
『レクチャー財務諸表論』(共著、中央経済社、2017年)
『設例でわかる財務会計論』(共著、中央経済社、2010年)
【編集部より】この記事を読んだ方にオススメ!
『大学院ルートで税理士になる!』(会計人コースBOOKS)
編 者:会計人コース編集部
定 価:1,870円
発行日:2020年9月29日
頁 数:144頁
目次
Part1 私たちの大学院体験記
Part2 税理士になるための「大学院ルート」とは?
Part3 1からわかる大学院生活
Part4 入試2大関門の対策法
Part5 修士論文の書き方
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