会計学から考える今後問題となる論点


佐藤信彦

昨今のコロナショックでは、会計にもさまざまな影響が現れると考えられます。
ここでは、今後、問題となると考えられる主要な論点をいくつか提示します。

1.業績悪化と会計

(減損会計)
多くの企業で業績の悪化が予想されますが、これに伴い特定の資産または資産グループに対する減損会計の適用事例が増えていくことが想定されます。

(税効果会計)
これまでは課税所得をプラスと予定していたところ、業績の悪化に伴って、逆にマイナス(欠損金)になることが予想されると、タックス・プランニングの見直しという形で税効果会計にも影響が出てきます。

その結果、繰延税金資産の回収可能性に関わる問題が大きくクローズアップされてくるでしょう。

(収益認識)
現時点でも、業種によっては返品やキャンセルが増加しているという状況があります。

日本の収益認識基準はまだ強制適用されていませんが、早期適用企業やIFRS適用企業にとっては、これによって変動対価の見積りに関する見直しが大きな問題になってくるでしょう。

(貸倒引当金・債務保証損失引当金の会計)
業績悪化により、倒産する企業が増えてくると、当然のことですが、貸倒損失や債務保証損失が過去の実績を超えて発生することが予想されます。そうなると、貸倒引当金や債務保証損失引当金の積み増しを余儀なくされるでしょう。

2.社会情勢の変化と会計

(事業の非継続とセグメント情報)
業績悪化に伴い、特定の事業部門の閉鎖や他企業への譲渡が増加することが見込まれます。

そうすると、閉鎖や譲渡が実施された次の会計期間には、非継続事業を含んだ前期の情報とそれを含まない当期の情報とが企業あるいは企業集団全体として表示されることになり、過年度情報との単純な比較では、分析が適切ではなくなります。

セグメント情報がますます重要になるとともに、継続事業による利益と非継続事業による利益とを区別して開示するなど、利益情報の開示の仕方にも変化が求められるようになるかもしれません。

(退職給付会計における基礎率)
上述のように、株価や債券価格が下落すると、年金資産の実際運用収益が期待運用収益を下回る事態が多くの年金基金で生じることになるでしょう。
 
それは、将来の数理計算上の差異の費用処理額の増額、ひいては退職給付費用を増加させ、当期純利益を押し下げる要因となりますし、特に、連結財務諸表に表示される包括利益にはダイレクトに影響する要因です。

また、退職給付会計の退職給付債務や費用の計算する際に、「死亡率」が計算基礎の1つになっています。現在、高齢者を中心に死亡者数が増加していますが、死亡率は、企業の所在国における全人口の生命統計表等を基に合理的に算定しますので、今後さらに死亡率が増加した場合、計算に影響が出てくる可能性もあるでしょう。

(株価の低下とストック・オプション)
ストック・オプションを発行している企業の株価が低落してしまうと、ストック・オプションの権利行使が進まないし、何よりも、従業員等の労働意欲・モチベーションの低下を招きかねなません。
 
そのため、ストック・オプションの条件変更を行う企業が多くなることが予想されます。


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