
【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験・公認会計士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!
駒澤大学・経済学部准教授 李焱
はじめに
暗号資産の発展と法規制の変遷は、暗号資産の会計処理や税務上の取扱いにも影響を及ぼしています。
近年、ビジネスの現場において暗号資産の活用は急速に広がっていますが、その会計処理や税務上の取扱いは、依然として専門的な判断が求められる複雑な領域です。特に、資産の評価方法や損益の認識タイミングが厳格に定められており、実務上のミスが財務諸表や税負担に大きな影響を及ぼしかねません。
暗号資産の会計処理
現行の金融商品取引法では、すでに暗号資産はデリバティブ取引の原資産として「金融商品」に位置付けられており、デリバティブ取引に係る業規制の対象となっています。暗号資産の会計処理は、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表している「実務対応報告第38号」に基づきます。会計処理のポイントは、その暗号資産に「活発な市場」があるかどうかです。
活発な市場が存在する場合には、期末日における市場価格に基づく時価評価を行い、帳簿価額との差額は当期の損益(営業外損益など)として処理します。一方、活発な市場が存在しない場合、取得原価で評価します。ただし、期末の時価が取得原価を著しく下回り、かつ回復の可能性が認められない場合には、減損処理を行う必要があります。
会計上の主な論点と課題
①価格変動リスク
時価評価が強制されるため、保有量が多いほど営業利益や純利益が大きく変動し、財務諸表の安定性を損なう可能性があります。
②取得原価の計算
移動平均法または総平均法を用いますが、頻繁に取引を行う場合、正確な計算を行うためのシステム的な管理が不可欠となります。
③監査対応
暗号資産の存在証明(ウォレットの所有確認)や、秘密鍵の管理状況など、従来の資産とは異なる内部統制が求められます。
暗号資産の財務的影響
企業が暗号資産を保有する場合、損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)の両面に大きな影響を与えます。
特に「活発な市場がある」暗号資産を保有している場合、期末に評価益が出れば、現金収入がないにもかかわらず利益として計上され、法人税の支払い義務が生じます。また、ビットコイン等の価格が乱高下すると、本業が黒字であっても、暗号資産の評価損によって最終利益が赤字に転落する(またはその逆の)リスクがあります。
現行の税務上の取扱い
法人税法では、期末に保有する暗号資産は原則として時価評価され、未実現利益に対しても課税されます。ただし、自社発行分など一定の条件下では、時価評価の対象外とする緩和措置も進んでいます。
所得税(個人)では、暗号資産から生ずる所得は、原則として「雑所得」に区分されることになります。給与所得などと合算して計算する総合課税の対象となり、利益額に応じて所得税・住民税合わせて最大55%の税率が適用されます。また、損失の繰越控除も認められていません。
令和8年度(2026年度)税制改正
これまでの日本の暗号資産を取り巻く税制は、他国と比較して厳しいものとされてきました。しかし、2025年12月に公表された税制改正大綱により、暗号資産税制は大きな転換点を迎えようとしています。
具体的には、申告分離課税(20%)の導入により、これまでの最大55%という高い税率から、株式やFX等と同様の一律20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)への変更の方向性が示されています。また、暗号資産同士の損益通算に加え、一定の条件下で損失を翌年以降3年間にわたって繰り越せる仕組みの導入が議論されています。さらに、取引業者が支払時に税金を差し引く「源泉徴収」を選択可能にする制度についても検討が進められており、確定申告の負担軽減も期待されています。
この改正は、暗号資産を「金融商品」として法的に位置づけ直す動きと連動するものであり、早ければ2026年(令和8年)1月からの施行が見込まれていますが、適用対象となる「特定暗号資産」の範囲など、詳細な条件については今後の国会審議や政省令を注視する必要があります。
おわりに
これまでの暗号資産は、会計上のボラティリティの高さや、税務上の重い負担が企業と個人の双方にとって参入障壁となっていました。しかし、令和8年度の改正が実現すれば、暗号資産を取り巻く投資・活用環境は大きく変化するでしょう。
私たちは、常に最新の情報に基づいた冷静かつ慎重な判断を行っていく必要があります。
李 焱(り えん)
横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程前期を経て(修士(経営学))、2015年3月、同課程後期単位取得満期退学後、同年9月博士(経営学)。
南山大学経営学部専任講師、駒澤大学経済学部商学科専任講師を経て、現在、同准教授として在籍。主たる研究テーマは金融商品会計、ヘッジ会計。日本会計研究学会、国際会計研究学会、税務会計研究学会、非営利法人研究学会に所属。











