わたしの独立開業日誌 #社労士・佐々木大徳
- 2025/9/4
- 独立開業日誌

【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。
40代で北海道札幌市で社労士として独立開業
はじめまして。
北海道札幌市で開業社会保険労務士(以下社労士)として活動している佐々木大徳と申します。
人事労務に関する実務経験がまったくない状態から、40代で社労士試験に合格し、開業しました。
現在に至るまでの私の経験をお伝えすることで、少しでも皆様のお役に立つことができたら大変嬉しく思います。

エンジニアから社労士になったきっかけ
北海道で生まれ育った私は、大学生までを道内で過ごしたのち就職で関東に移り、医療機器メーカー関連の企業でエンジニアとして業務に従事していました。
途中転勤で北海道に戻り、その後はずっと道内在住です。
就職してからは一貫して技術畑を歩んできたのですが、そんな私がなぜ社労士を目指すことになったのか。
それは自身が体調不良により休職→退職という流れを経験したことと、その後の再就職先である設計事務所にて労務トラブルを目の当たりにしたことです。
医療機器メーカー関連会社でのエンジニア業務において体調不良に陥った際、当時の会社の顧問社労士に、傷病手当金の手続きをしてもらったり、国民年金の保険料免除の案内をしてもらったりしました。
その姿を見て、「こんな仕事もあるのだな」「独立できる資格っていいな」と興味を持ったのです。
社労士という資格があることも、恥ずかしながらこの時初めて知りました。
その後、転職を経験しましたが、転職先の設計事務所で、業務ミスマッチなどによりメンタルダウンから退職した方がいました。
別部署で起きたことではありましたが、「もっと就業規則の休職規定などを整備しておけば防げたのに…」と素人ながらに思ったのです。
そのことをきっかけに、就業規則を改定することになったものの、事務所側が示した修正案は物足りないものでした。
「作成費用をケチったのでは…」と訝しむとともに、もともと労務分野には興味があったこともあって、「自分が社労士になれば、労務トラブルを未然に防ぐような就業規則を広めるなどして社会に貢献できるかも」と考え、社労士試験への挑戦を決意しました。
しかしながら、社労士試験は一筋縄ではいかない試験です。
仕事を続けながらだとなおさらで、真面目に勉強し始めてから合格するまで3年かかりました。
試験勉強について
1~2年目は市販の参考書を利用した完全に独学でした。
しかし、いずれも合格点に1点足らず惜敗を続ける結果となってしまいました。
そこで、3年目は意識を変えて通信教育を利用したほか、様々な勉強会に参加するなどしました。
当時は新型コロナが猛威を振るい始めた時期だったので、オンライン勉強会が数多く開催されていました。
そのため北海道に居ながら全国に受験生仲間ができ、切磋琢磨することで、合格することができました。
当時ともに勉強していた仲間とは、お互いの近況報告などしながら時には酒を酌み交わすなど、今でも交流が続いています。
社労士登録してから経験を積む
さて、苦労をして手にした社労士資格ですが、試験合格後すぐに登録したわけではありませんでした。
なぜなら、前述のように当時の私はエンジニアで、人事や労務に関する実務経験がなく、「こんな自分に依頼する奇特なお客様はいないだろう」と自分で可能性を閉ざしていたのです。
それでも、「苦労をして得た資格を何としても活かしたい!」という思いは強く、まずは資格を活かした経験を積める職を探すことにしました。
40代で働きながらの転職活動は難航しましたが、粘り強く行動を続けると、とあるシンクタンクからご縁をいただけました。
シンクタンクは兼業もOKだったので、このタイミングで社労士として登録し、兼業で社労士業を開始しました。
平日日中はシンクタンクで医療機関向けの労務管理のコンサルタントとして活動し(社労士業務を行うわけではありません)、平日の夜や土日祝日を利用して開業社労士としての業務を行います。
先方の都合や社会保険労務士会の会務など、どうしても平日の日中に時間が必要な場合は、年次有給休暇などを利用しました。
労務管理のコンサルタントとしては、電話やメールによる労務相談、訪問による面談業務、あるいは研修講師などを行っています。
折しも医療機関において医師の労働時間上限規制が適用されるタイミングで、毎日多数の相談業務を行い、相当な経験を積むことができました。
研修講師についても、自ら手上げして講師役を買って出て、非常に貴重な経験を積むことができました。

兼業から開業一本へ徐々にシフト
ただ、「兼業あるある」なのですが、平日の日中が拘束されていると開業社労士としては制約が大きく、業務の幅を広げられないというジレンマがありました。
そこで、この春よりシンクタンクでの勤務を週2回に減らし、自分自身の時間を増やすことにしました。
勤務の回数が減るということは定期収入が減ることになりますので相当な決断でしたが、もともとが開業志向だったこともあり、思い切って実行に移しました。
不思議なもので、業務に余白ができると、それを待っていたかのようにいろんな仕事が舞い込んできます。
新たな行政協力のお仕事や新規で顧問契約を紹介いただくなど、フルタイム勤務では受けられなかったお仕事とご縁ができるようになりました。
開業社労士としては、今のところ医療福祉業界に特化した社労士として活動しています。
医療機器メーカー関連企業に勤めていたこと、医療機関向けコンサルタントとして多数の労務相談に携わった経験を前面にアピールしています。
開業社労士としての歩みは今のところかなりゆっくりですが、労務コンサルタントの経験から非常に大きなニーズがある業界と実感していますので、引き続き粘り強く活動していけば結果は出てくると前向きにとらえています。
どんな人にも強みはある
試験に合格された方と話しをしていると「開業には興味があるけれど、私には実務経験もないし、これといった強みもないので、とてもとても…」といったお声を耳にします。
私自身もそうでしたので、お気持ちは非常によくわかります。
ただ、少なくともしっかり勉強をされて難関といわれる試験に合格した、というほかの人にはない強みがあるわけですから、そこは自信を持って良いと思います。
そして今までの人生経験のなかで、どんな人でもひとつやふたつは必ず強みがあるのです。
例えば専業主婦(夫)の方であれば、
・料理、掃除、洗濯など複数のタスクを同時並行的にこなすことができる(タスク管理)
・子どもがいる方は育児の当事者、または体験者である(育児と仕事の両立支援)
など、社労士として活動する上で強みとなる経験を有していたりします。
私も社労士としての実務経験がゼロの単なる技術職サラリーマンとの自己認識でしたが、
・理系技術職出身という、他の社労士との差別化ができる要素がある
・医療業界に長年在籍していたので、界隈の情報に強い
・業務上、エンドユーザーとのコミュニケーションに慣れている
・人前で話すことにさほど苦手意識がない
といったように今までの経歴をしっかり振り返ることで、自分にも強みがあることを認識できました。
ほかにも、子どもが生まれた時に育休を取得しようとしましたが叶わず(当時の男性育休取得率はわずか1%前後!)、その経験があったからこそ現在は、男性育休の制度を整えようとしている企業の支援や、パパの子育て支援をしている活動に参画したりなどができています。
是非一度、ご自身の経歴を棚卸してみることをお勧めします。
またこの棚卸は、出来れば友人など協力者と行うとより効果的です。
自分自身では当たり前と思っていたことが、他の人から見ると魅力的な経歴に見えることも多いです。今まで気づけなかったご自身の強みを引き出してもらいましょう。
おわりに
私自身がそうだからかもしれませんが、仲良くさせていただいている先輩や社労士仲間には、実務経験が全くない状態から開業登録した方も多いです。
経験がないからこそ、従来の常識にとらわれず、自由な発想で業務を行うことができるという面もあると思います。
当然うまくいくことばかりではなく大変なことも多いですが、自分がやりたいことをやれる仕事というのは、何物にも替え難い魅力です。
これからも私の理念である「同じやるなら楽しくやろう!」を関わる方すべてに感じていただけるような仕事を続けていきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
プロフィール
佐々木 大徳(ささき たつのり)
社会保険労務士事務所ぽらりす札幌 代表
1975(昭和50)年 北海道紋別市生まれ。
北海道大学工学部出身で元医療機器エンジニアの理系社労士。2020(令和2)年の社労士試験に合格し事務指定講習を経て2022(令和4)年開業登録。現在、医療労務管理アドバイザーとして医師の働き方改革を支援すべく全道を行脚して医療機関へのコンサルティングやセミナー講師・運営等を行う一方、自身の顧客である病院やクリニック・訪問看護ステーションなどに対して労務相談や手続業務を行うなど、医療業界に強い社労士として活動中。
北海道コンサドーレ札幌と北海道日本ハムファイターズをこよなく愛する生粋の道産子。
事務所ホームページ:https://sr-polaris-sapporo.jp/
Instagramアカウント:https://www.instagram.com/sr_polaris_sapporo/
著書:『社労士 45歳からの合格・開業のリアル』(中央経済社、共著)
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