【税理士試験】今年の財務諸表論はどうだった? 諸角崇順先生が予想するボーダーラインと学習アドバイス(後編)


諸角 崇順(かえるの簿記論・財務諸表論講師)

【編集部より】
2025年8月5日(火)〜8日(木)の3日間にわたり、令和7年度(第75回)税理士試験が実施されました。
そこで、本企画では、「簿記論」・「財務諸表論」・「法人税法」・「相続税法」・「消費税法」について、各科目に精通した実務家・講師の方々に本試験の分析と今後の学習アドバイスをご執筆いただきました(掲載順不同)。ぜひ参考にしてください!

ボーダーには達していたが、合格確実点に達しなかった方へのアドバイス

税法科目に進まれる方

これは私の長年の講師経験からいえることなのですが、税法科目に進むと簿財との勉強量の差に愕然とされると思います。そして、日々、税法理論の暗記に追われ、財務諸表論の復習なんかしている時間がない、というのが現実です。
いくら講師が「万が一のことも考えて財務諸表論の勉強もときどきしておいてよ!」とお願いしても、です。

ならば、いったん財務諸表論のことはあっさり忘れて、新しい税法科目をしっかり学習してください。その際、比較的ボリュームの少ない税法科目、かつ、年内で全範囲の学習が終わるコースを選択しておくといいと思います。そうすると、財務諸表論に合格していた場合、年内の学習していた税法科目についてはそのまま年明け以降、受験経験者コースに合流し、さらに知識に磨きをかけることができますし、仮に財務諸表論に不合格となり財務諸表論に戻ることになったとしても、その税法科目の一部分のみをつまみ食いした状況ではなく、12月末までにその税法科目の全範囲の学習を終えていることになるので税法のボリューム感を把握でき、今後本格的に他の税法を学習する際の大きなアドバンテージになるからです。

税法科目に進まず財務諸表論に戻られる方

ボーダーには到達していたわけですから税法科目に進んでよいのですが、どうしても不安が残るなら財務諸表論に戻ることも考えてよいと思います。ただ、そのときは合格発表まで今の実力を落とさないようにしておけば充分です(特に学校等に申し込む必要はないと思います。)。そのために実行していただきたいことを理論と計算に分けて書いておきます。

<理論>

月1回のペースで、財務諸表論(会計学)の基本書(例えば、『エッセンシャル財務会計』(中央経済社)など)の通読をしてください。今までは、暗記!暗記!ひたすら暗記!!と前のめりになってしまい「木を見て森を見ず」の状況になっていた可能性がありますので、「本試験日まであと○日!!」といったように焦りを感じずにいられるこのタイミングで財務諸表論の全体を何度も繰り返し俯瞰しておくことはかなり効果的だと思います。そうすることで、今まで点の知識(「ここはこう!」といった丸暗記の知識)だったものが線(「あ!この論点がこっちの論点の結論にこんな影響を与えていたのか~」といった理解)としてつながり始めます。

※ 通読する際の注意点
1冊の基本書を1ヵ月(30日)かけてじっくり読むのではなく、休日一日を基本書の通読にあてる等、短期間で一気に通読してください。そうしないと、基本書の前半に書いてあった内容と後半に書いてある内容がつながる論点の場合に、そのつながりに気付けないことがあるからです。

そして、過去の受験生の方からも毎年のようにたくさん質問されることとして、「暗記した理論を忘れないようにする努力はしておいたほうがいいですか?」というものがあります。
この質問に対する私の回答は「しなくていいよ」となります。というか「しないでください」と言いたいぐらいです。意外に思われるかもしれませんが、ちゃんとした理由があります。

本試験から合格発表まで約4ヵ月ありますが、この約4ヵ月という時間の流れの中で、あえて記憶のメインテナンスをしないことで丸暗記に頼っていた部分がそげ落ち、理解を伴って記憶していた部分だけが残ることになります。
万が一、合格発表での結果が思わしくなかった場合、仕切り直してリスタートとなるのですが、そのときになっても丸暗記した部分を残しておくと、次の年も結局、丸暗記に頼った受験をしてしまうことになります。
そこで、あえて合格発表までの4ヵ月を基本書の通読という知識の連結に使うことで、合格発表後の理論の「理解」につなげていってほしいと思っています。再暗記よりもこちらの方法のほうが、きっと得点力は上がるはずです。

 <計算>

可能であれば毎週一問は総合計算問題を解いていただきたいと思います。特に簿記論の受験が終わっている場合は、絶対に実行していただきたいと思います。

計算に関しては、仕訳を丸暗記している方はほとんどいないと思います。よって、理解した上で解いているはずですが、みなさんが生まれたときから慣れ親しんでいる日本語を使う理論とは異なり、普段の生活で計算の知識はまず使わないはずなので、合格発表までの約4ヵ月、ほったらかしにしていると確実に知識が抜けていってしまいます。

また、本試験後のこの時期は、比較的心に余裕のある状態で問題に向かい合えると思いますので、いろいろなことを試してもらいたいと思います。

まず、解き方について。

ネットなどで他の方の勉強方法を知る機会もあったと思います。たとえば、計算用紙に仮計を作るor作らない、最初から解くor解けるところから解く、など。

次に、時間配分。

手元には、受験前に解いた総合計算問題がたくさんあると思います。模試形式だと良いのですが、問題集形式の場合、標準解答時間(解答の目安となる時間)があらかじめ記載されているかと思います。その場合は、まずそれを消し込みましょう。すでに一度は解いた問題。そんなもの時間内に解けるに決まっています。

そして、消し込みが終わり、総合計算問題を解く、となったとします。その際は、1~2分使って「今の自分の実力だと何分で解けるかな」というのを推測してから解きましょう。解答後、推測した分数と±20%以上ズレるなら、本当の意味での実力(解答力+問題分析力)が備わっていないと判断できます。計算力というものは、ただ単に問題が解けるだけではなく、問題文を見た瞬間に「あ、この資料は○分で解けるな」と判断する力も含んだ概念です。この判断が受験を経験していても正しく機能しないのは単純に問題演習不足です。推測した分数と±20%以上ズレてしまう方は週に二問、三問と総合計算問題を解いておくようにしましょう。

受験前に解いた問題を、受験後、上記のプロセスで解き直したとします。その後、同じ問題をもう一度解き直す際は、受験後1回目の解き直しにかかった時間の3分の2の時間で2回目以降は解き直しましょう。焦ると自分がやらかすミスが浮き彫りになったりします。

他には、あえて騒がしい場所で解いてみる、完全に真っ白な紙を解答用紙にして解答してみる、など、本試験直前には試すことができなかったことをこのタイミングで試して、自分にとって最善の勉強方法を見つけてもらいたいと思います。

きっと、税法に進んだときにも役に立つと思います。

ボーダーに達しなかった方へのアドバイス

再受験で確実に合格をつかみたいのならば独学ではなく資格学校等に再度申し込まれたほうがいいと思います。そして、学校や講師の指示に従って基礎から学び直してください。

成績が思うように伸びない方は、例えば、カリキュラムから遅れる、テストを提出しないなど、学校や講師の指示に従わない傾向、いわゆる自己流の勉強方法をとっている方が多い気がします。まずは素直かつ謙虚な気持ちでカリキュラムに沿って基礎から学び直していきましょう!講師はその時期を応じた勉強法のアドバイスなどを授業中に話します。年末にやっておいて欲しいことは、当たり前ですが、年末の授業で受験生のみなさんにお伝えします。でも、受験生が学校のカリキュラムに従わず、そのアドバイスを3月とかに聞いたら・・・。

昔と異なりネット環境等が整ったことで、今は通信のほうが通学より有利になることが多くなっています(いつでもどこでも授業が受けられる、コロナやインフルエンザに罹るリスクを減らせる、通学に要する時間が不要、1.5倍速等で聴ける、24時間いつでも質問ができる、など)。しかし、通信の最大の長所である「いつでもどこでも授業が受けられる」は短所になることもあります。今日は疲れたから明日にしよう、というように。

リベンジを果たすためには今年以上に自己管理を徹底し、この悔しい気持ちを忘れないうちに勉強習慣を身体に叩き込みましょう!

最後に・・・

本試験、本当にお疲れさまでした。特に悔しい気持ちで受験を終えた方は、捲土重来を期すため、すぐに勉強に戻られるかもしれませんが、少しは頭と身体を休めておかないと、次の一年が持ちません。短い夏とはなりますが、受験生活に協力をしてくださったご家族や恋人、友人などとの楽しい時間を過ごして、心身共にリフレッシュしておいてください。

<執筆者紹介>
諸角 崇順
(もろずみ・たかのぶ)
大学3年生の9月から税理士試験の学習を始め、23歳で大手資格学校にて財務諸表論の講師として教壇に立つ。その後、法人税法の講師も兼任。大手資格学校に17年間勤めた後、関西から福岡県へ。さらに、佐賀県唐津市に移住してセミリタイア生活をしていたが、さまざまなご縁に恵まれ、2020年から税理士試験の教育現場に復帰。現在は、質問・採点・添削も基本的に24時間以内の対応を心がける資格学校を個人で運営している。
ホームページ:「かえるの簿記論・財務諸表論」


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