夏休み直前!旅行業出身、中米で誘拐されたグローバル社労士が語る海外旅行の安全対策 第1回:出発前の準備とリスク対策の基本 


田邊良学(社労士)

はじめに ~日本の常識は海外の非常識~

夏休み、海外への扉を開くのは胸躍る冒険の始まりですね。しかし、その輝かしい体験の裏には、日本とは異なる「危険」が潜んでいることを忘れてはいけません。

「あなたは誘拐されたことはありますか?」

私は海外危機管理の研修で必ずこの質問をします。実は私自身、中米のM国で白昼、人混みの大通りで警察官に誘拐され、銃弾をかわしながら脱出した経験があります。“本物”の警察官による犯罪でした。この九死に一生を得た体験から、私は「日本の常識は海外の非常識」になり得ることを身をもって学びました。

私たちが当たり前だと思っている「安全」が、一歩海外に出れば通用しないことは多々あります。でも、安心してください。適切な知識と準備があれば、海外でのリスクは大幅に軽減できます。

この連載では、旅行業界出身で危機管理のプロである私が、あなたの夏休みの海外旅行を安全で実りあるものにするための具体的な対策を2回に分けて徹底解説します。

この記事で学べること

【第1回】出発前の準備とリスク対策の基本: 渡航前の情報収集、保険、持ち物など、安全な旅の土台作り
【第2回】現地編:実践的安全対策: 日本出発から、現地で身を守るための具体的な行動

異文化の魅力に触れながらも、あなた自身の身を守るための知識と準備を今から始めましょう!

「自分は大丈夫」は危険信号!正常性バイアスに注意を

「自分は大丈夫」と思っていませんか?観光地でも暴動、銃撃戦、ハリケーン、テロ、感染症等の報道が相次ぎ、リスクに遭遇する確率は高まっています。

外務省の日本人の被害件数によると、報告されているだけでも強盗・窃盗・詐欺が年間4,574件となっています(出典:海外邦人援護件数/人数の推移総括表2019年(コロナ禍前))。

世界平和度指数上位(2023年9位)の日本ですら、今や白昼強盗が横行する時代です。「安全な国など世界中どこにもない」と認識することから、真の海外安全対策が始まります。

リスク対策の基本「回避」と「最小化」

最大の危機管理は、リスクに遭わないこと、そして万が一の場合は損害を最小化することです。基本対策は「回避」「損失防止」「損失削減」「分散」「移転」「保有」の6つ。

一般犯罪に対しては、抵抗しない(損失削減)、あきらめる(保有)、保険に入る(移転)が鉄則です。

命を守る情報収集と共有:頼れるツールの活用

言葉もわからない国で夜間外出禁止が発令された際、状況をすぐに把握できますか?

回避策として、日本語の速報情報を得る外務省の「たびレジ」への登録は必須です。これは無料の海外安全情報サービスで、テロ等の危険情報、交通機関のストライキ、悪天候情報などがタイムリーに配信されます。邦人保護として、国からの安否確認も迅速に届きます。遅くとも出発2週間前には必ず登録し、渡航先の状況を毎日確認しましょう。

たびレジ:https://www.ezairyu.mofa.go.jp/

外務省の海外安全ホームページの安全対策基礎データ(https://www.anzen.mofa.go.jp/riskmap/)は長文なので、AIで要約して精読するのもおすすめです。フラッシュアラートとしてSNS(X)を活用し、X社のAI「Grok」で大量のX情報を整理・把握できます。事前にGrokの使い方を確認しておきましょう。

情報は家族や近しい人たちと共有します。スマートフォンの位置情報確認アプリを導入し、日本側とGPS記録を共有することも有効です。

【参考】海外専用GPS居場所確認・安否確認アプリ
https://hazardbuster.alllinkage.com/

渡航判断基準:常に安全優先で判断する

最も効果的な回避策は渡航自粛です。旅行なら少しでも危険と思えば延期や早期帰国を検討します。

出張の場合、リスクの先にビジネスチャンスがある場合もあり、リスクを取ってでも渡航しなければならない時もあります。その場合は会社のルール(出張規程、安全対策マニュアル等)を確認して遵守することで、万全の対策を講じてください。会社は労働者に対して安全配慮義務を負いますが、出張者もルールに従う義務があります。

コロナ初期、感染者増加の報道があっても渡航禁止にならず、外務省の渡航禁止勧告が発出された時には中国・武漢の空港が閉鎖され、渡航者は現地に軟禁されました。渡航延期・緊急帰国の判断基準を事前に決めておくことが重要です。

私自身も、かつてペルーの首都リマを旅行中に、日本大使公邸が武装勢力によって占拠されるという重大事件(1996年のペルー日本大使公邸人質事件)に遭遇しました。当時はSNSも「たびレジ」もなく、外務省から避難勧告も出されていませんでした。私は各国の旅行者から得た情報を頼りに危険を察知し、すぐに旅程を変更して次の街へと移動(脱出)。その判断のおかげで、無事に帰国することができました。

海外旅行傷害保険:万が一の備えは抜かりなく

海外医療費は高額で、盲腸手術でも300万円を超えることがあります。クレジットカード付帯保険では不十分です。キャッシュレス治療サービス付きの海外旅行専用保険が必須です。私はトルコで倒れて脳の緊急CT検査を受けた際、トルコ人医師が何を言っているのかわからず非常に不安でしたが、保険の電話通訳サポートにより命に別状がないことを理解でき、その場での医療費の支払いもゼロで、心から安心したことを覚えています。

保険会社を選ぶコツは現地サポートサービス内容で比較することです。旅行相談、医療通訳、保険金請求に必要な盗難証明書入手のために警察署への同行するサービス等の有無を確認してください。

通信手段・緊急連絡先:生命線の確保

海外でつながる携帯・Wi-Fiは生命線です。緊急連絡先(家族、勤務先、領事館、宿泊先、カード会社、保険会社)をスマートフォンと紙のメモ両方に記録し、ホテルの名刺は複数枚を分散して携帯します。万が一、盗難に遭った場合にも、最低限の現金と連絡先を隠し持っておくことで、緊急時の避難や連絡手段を確保できます。

健康は旅の基本

渡航先の感染症等の情報を出発前に確認しておきます。

厚生労働省検疫所「FORTH」(https://www.forth.go.jp/index.html)と、AIで翻訳したアメリカ疾病予防管理センター(CDC)(https://www.cdc.gov/index.html)をチェックすれば万全です。

普段服用している薬は多めに持参し、英文処方箋も準備します。

セルフディフェンス力を高める

損失防止策は「グレーマン」になることです。目立たず狙われにくい服装で現地に溶け込みます。出張の場合は、発展途上国支援などを行う国際開発センター監修のグローバルスーツ(シークレットポケット付き、速乾性)が便利です。

一件格好悪いですが、一番安心なのが腹巻きタイプの貴重品入れです。薄着になる夏場は首から紐が見えてしまうポーチタイプは犯罪者から狙われるリスクがあるので、足に巻くタイプがおすすめです。

リスク対策の基本まとめ:準備8割、現地2割

海外旅行の安全対策の第一歩は、リスクがゼロの国はないと理解することから始まります。

世界中からたくさんの旅行者が訪れるフランスは安全な国というイメージを抱いている方もいらっしゃると思いますが、非武装強盗でも約4千件、傷害事件では、なんと約3万件を超えており、窃盗は5万件以上も発生しているのです。テロ対策については、3段階中の最高水準に引き上げられています(出典:海外安全対策情報 https://www.fr.emb-japan.go.jp/files/100671224.pdf)。

海外では「自分は大丈夫」と思わずに、安全確保は「準備8割、現地2割」、出発前の入念な準備が大事です。

次回は現地実践編として、出発から空港、ホテル、街歩きまでの具体的安全行動をお伝えします。

【プロフィール】
田邊良学(たなべ・りょうがく)

ホワイトドア社会保険労務士事務所代表
社会保険労務士/事業創造コンサルタント
危機管理コンサルタント/海外安全・危機管理責任者(日外協認定)
NPO法人東京都防災士会理事

海外渡航歴30か国超、五大陸制覇。大手旅行会社在職中に、中米で誘拐され九死に一生を得た体験を基に海外危機管理事業を立ち上げるなど、リスクマネジメントに取り組む。現在は、ITと法律に強いグローバル社労士として中小企業のための人的資本経営を推進するなど、コンサルティングや企業研修により企業価値の向上を支援している。
https://ryogaku.com/


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