会計事務所QUEST~6月の章~源泉徴収制度とは~ミッション:ゲンセン玉を拾い集めよ!~


5月申告、お疲れ様でした!

さて、6月はホッと一息つきたいところですが、半期に一度のイベント「納期の特例」の納付期限(7月10日)が迫ってきております。

今月のテーマは、「源泉徴収制度」です。

源泉徴収とはご存じのとおり、給与や報酬などを支払う者(会社)が、その支払額に応じた所得税を前もって徴収し、国に納めることをいいます。でも、意外と深くは知らないこともあるかも…?
さっそく、見てみましょう!

源泉徴収義務者って誰のこと?

源泉徴収義務者とは、個人に対して給与等を支払う会社(事業者)のことを指します。
会社は、自社の事業に係る法人税・事業税などさまざまな税金を納めなくてはなりませんが、「源泉徴収」の対象となる税金は、(支払う相手に係る)所得税です。

所得税の納め方は、年に一度、3月15日申告期限の確定申告によって自主的に申告・納付する「申告納税制度」が建前となっていますが、所得税の課税対象となる個人は非常に多く、すべての個人が年に一度、同時期に申告を行えば、税務署はパンクしてしまいます…。

これを避けるために、給与所得のみである個人(従業員)については、あらかじめ給与支払者(勤め先)に対して源泉徴収義務を課し、従業員から源泉徴収した所得税を前もって国に納めることとしているのです。
そして年末調整で1年間の源泉徴収された税額と正しい税額のズレを精算します。これにより、給与所得のみの従業員は確定申告をしなくても済むようになっています。

源泉徴収が必要なのは、「給与所得」、「報酬・料金等」、「退職所得」、そして「利子・配当」の4つです。

このうち、「退職所得」は退職者が出て退職金を支払うことになった場合に徴収するもので通常の実務ではあまり出てきません。
「利子・配当」は預金口座に定期的に入金される受取利息・受取配当金で、支払う側である金融機関や投資会社により既に源泉徴収された残額が入金されますので、入金を受けた側では特に手続きは必要ありません。

よって、通常業務で気を付けておくべきなのは、「給与」と「報酬・料金等」、この2つです。

「給与」と「報酬」の源泉税についておさえておこう

「給与所得」に係る源泉税は、国税庁が発表している「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」によって決められており、給与所得者(従業員)の月収や扶養家族の人数に応じた税額を、毎月の給与から徴収します。

「報酬・料金等」は、個人に対する支払のうち以下のものが源泉徴収の対象となります。

(1)原稿料、挿絵・デザイン等の報酬、講演の報酬、通訳の報酬(手話通訳は除く)など
(2)弁護士、公認会計士、司法書士、税理士等の個人士業に支払う報酬・料金
(3)プロスポーツ選手、競馬の騎手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
(4)芸能人に支払う報酬
(5)ホステス・コンパニオンなどに支払う報酬(芸妓・バーテンダーは源泉徴収不要)
(6)広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金

報酬の源泉税の計算式は、基本的に次の式になります。

 報酬額×10.21%(20.42%)

1人につき1回で支払う金額が、100万円以下のときは10.21%を、100万円を超えるときは超える部分については20.42%を使います。

報酬額には、通常、消費税が課されます。
請求書に消費税込みの金額しかなければ、報酬額は税込み金額を使いますが、消費税額の記載がある場合は、消費税を除いた税抜き金額に税率をかけてもよいことになっており、実際にはこのパターンが多いです。

また、例外的な計算式を使うパターンがあります。いくつか見てみましょう。

・司法書士への報酬に係る源泉所得税
(報酬額-1万円)×10.21% 

・プロボクサーに支払われるファイトマネー
(報酬額-5万円)×10.21%

・馬主に支払われる競馬の賞金(※馬主は法人でも源泉徴収が必要)
(賞金額-A)×10.21%  
 ここで、A=賞金額×20%(進上金)+60万円(飼育等に必要な預託料)

半期に一度のイベント!「納期の特例」

源泉所得税の納付期限は、支払い(徴収)がされた月の翌月10日です。給与支払いが常時10人未満である会社の場合には、年2回(7月と1月)の納付で済ませられる「納期の特例」という制度があります。

7月10日が納付期限→1月~6月の支払い分に係る源泉所得税
1月20日が納付期限→7月~12月の支払い分に係る源泉所得税

少人数の会社では、給与に係る源泉所得税をこの制度により納付しているケースが多く、士業に対する報酬にも給与とまとめて年2回とすることができます。
この場合には「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(納期特例分)」という納付書を使い、士業への報酬は「税理士等の報酬」の欄に記入します。

ただし、「納期の特例」が使えるのは士業に対する報酬のみです。これ以外の報酬・料金等は支払い月の翌月に納付となることに気をつけましょう。

納付できなかった場合の怖いペナルティ

源泉税を納付期限までに納められなかった場合などには、不納付加算税や延滞税といったペナルティの税金が、源泉徴収義務者に課されることがあります。なぜ人の所得税を支払わなかったためにペナルティを受けなければならないんだ…という源泉徴収義務者の声が聞こえてきそうです…。

不納付加算税

期限までに納付していなかった、または納付額が本来納めるべき金額より不足していた場合に、その納付不足額の10%が不納付加算税として課されます。ただし、過去に期限後納付をしたことがなく、期限から1ヶ月以内に納付した場合は免除されるケースがあります。また1ヶ月以上遅れて納付してしまった場合も、「納税通知書」が届く前に自主的に納付した場合は、課される税率が10%→5%に軽減されます。

延滞税

延滞税は、期限後に納付した場合に、期限の翌日から納付した日までの「遅れた期間」に応じて課される、利息のような税金です。税率は、遅れた期間が2ヶ月を超えるかどうかで変わります。期限の翌日から2ヶ月以内は、年利「7.3%」または「延滞税特例基準割合+1%」のいずれか低い税率です。2ヶ月を超えると、年利「14.6%」と「延滞税特例基準割合+7.3%」のいずれか低い税率になります。

このようなペナルティの税金は、いわゆる「経費」とすることができません。
個人事業主では事業経費(租税公課)にできませんし、法人では会計上は費用とすることができても、損金とすることができないため、納付税額が大きいときには痛い出費となってしまいます。
お客様には、必ず期限内に納付するように、期限後になってしまった場合は少なくとも1ヶ月以内に納めるように伝えましょう。

さいごに

源泉徴収制度は、国(課税庁)にとって「税収を早く確保できる」というメリットがあります。その一方で、年末調整だけで完結している人は納税している自覚が薄れてしまう、雇用主の負担が大きい、副業(フリーランス)など多様性のある働き方が増える現在では柔軟性に欠ける制度である…などの意見も見受けられます。

ますます複雑化する税制に複雑な思いを抱く会計人たちは少なくないと思いますが、そのモヤモヤしたエネルギーを仕事にぶつけ、この6月・7月をともに乗り越えましょう!

<著者紹介>
定岡 佳代(さだおか かよ)

税理士
兵庫県出身。1980年生まれ。神戸大学工学部建設学科、神戸大学大学院自然科学研究科(土木工学)修了。
関西で技術職に就くも、結婚・出産・上京を機に専業主婦に。次男の妊娠中に簿記の勉強を始め、日商簿記3級・2級に独学で合格。そこから税理士試験に挑戦し、パート勤務、大学院通学と並行しながら3科目合格。立教大学大学院経済学研究科を2020年3月に修了。2021年4月、税理士登録。
硬式野球男子2人の母。「税理士を目指すママ」コミュニティで知り合った友人のママ税理士4人で、セミナーや対談など活動をしている。都内の税理士事務所、税理士法人で約10年の修行を経て、2023年8月に独立開業。「お客様はピッチャー、私はキャッチャー。どんな球でも受け止める。」をモットーに、お客様との対話を大切にしている。


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