【経済ニュースを読み解く会計】 「短納期で失礼します!」―日本の株主総会、考える余裕ナシ?


岩田聖德(東京経済大学経営学部専任講師)

【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験・公認会計士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!

こんにちは、東京経済大学にて教鞭を取っている岩田聖德(きよのり)と申します。

日本ではあまり一般的でありませんが、「德」の文字は旧字体で、心の上に一本横棒が入っています。中国の簡体字では私の名前のほう(旧字体)が一般に使われているということを最近になって知りました。

株主総会にかかわる日本の特異な情報開示制度

さて、「シャンシャン総会」という言葉があった時代とは打って変わって、最近は何かと株主総会が話題になっていますね。政府・東証が主導してきた一連の資本市場・ガバナンス改革も相まって、「物言う株主」と表現されるアクティビスト・ファンドによる日本企業への投資も一段と積極化しているようです(日本経済新聞「物言う株主、5年で3倍に 日本企業のPBR改革に追随」」)。

そんな株主総会ですが、ディスクロージャー制度という角度から眺めてみると、面白い発見があります。開示情報そのものにも差はありますが、本稿で紹介してみたいのは、諸外国と比べて極めて短い議案情報の検討期間です。

海外の投資家は数日で投票判断をしている?

日本企業の株主総会が集中しているのは、周知の通り6月下旬ですが、それはなぜだか知っていますか? 

というのも、会社法では一定の基準日を設定し、この基準日から3か月以内に議決権行使を行う必要があると定めているからです(会社法第124条第2項)。

多くの日本の上場会社は3月末の決算日を議決権の基準日としているため、その3か月後となる6月末に株主総会の時期が集中するわけです。

議決権を行使する株主が適切な意思決定を行えるよう、会社には情報開示の義務が課されます。公開会社では、株主総会開催日の2週間前までに株主総会招集通知を株主に送付することを求められます。ここには、事業報告や計算書類とともに、総会で決議を行う議案やその主旨が記載されます。

実は日本がレアケース!?

ここまで聞くと、「何を当たり前の制度の紹介をしているのか?」と思われるかもしれません。しかし、実はこのスケジュールは、国際的にみると極めて特殊なのです。

2016年に経済産業省が公表した「日本及び諸外国における株主総会プロセスの電子化等の状況」では、主要5か国の株主総会招集通知公告日から総会開催日までの日数について、以下の集計データが記載されています。

 日本米国英国ドイツフランス
大規模1021.1日43.0日41.6日45.3日48.6日
中規模10 42.4日44.1日39.8日41.4日
小規模10 40.8日35.4日41.2日37.1日
各国の招集通知公告日から株主総会日までの期間(経産省(2016)24頁より抜粋)

これを見ると、諸外国の上場会社では、招集通知が発送・広告されてから1.3か月程度で株主総会が開催されるのに対し、日本では大企業でもその半分程度の期間で議決権行使の意思決定がなされているという状況です。

会社法上の最低限度である「2週間」を採用する企業も存在することを踏まえると、中小規模の企業ではもっと大きな差があると考えられます。

招集通知が届くまでも時間がかかる

さらに、上記はあくまで「会社が招集通知を発送した日」と「株主総会開催日」の間の日数を見ているのであって、「株主の議案検討期間」そのものを見ているわけではありません。議案検討期間とは、「株主が招集通知を受け取った日」から、「議決権行使の実質的な期限日」までの期間のことです。

ある上場会社Yが、招集通知を総会日の2週間前に発送したとしましょう。Yの株主である海外機関投資家Xの手元に議案情報が届くまでには、①Yの株主名簿管理人から常任代理人への招集通知の郵送、②常任代理人による議案の翻訳・Xへの通知、③議決権行使代行による指図(Xによる議決権行使)の集計、④Yの株主名簿管理人への郵送、Yの株主名簿管理人による集計、といった事務プロセスがあり、合計8~10営業日がこの事務プロセスに費やされているとのことです(経産省、2016)。事実上、議案情報が機関投資家Xの手元で検討される時間は、1~3営業日しかないといわれています。

日本取引所グループの調査によると、2024年3月期決算の会社の総会開催日として最も多かったのは6月27日の668社、その次が6月26日の523社だったようです。

皆さんが仮に500社の投資先の議案について1~3日での検討を求められた場合、どのような議決権行使の意思決定をするでしょうか? 特に、新しい制度の導入や株主提案(株主が総会に新たな議案を提出するケース)などのイレギュラーが存在する場合、企業固有の事情を深く理解した上で投票判断を行うことは可能でしょうか?

株主総会シーズンが7月になるかも?

こうした実務上の問題の解決には、理屈上はさまざまな代替案がありえます。検討期間を延ばす上では、「株主に情報が届くまでの時間を減らす」か、「株主が意思決定をする期限を後ろ倒しにする」かのいずれかが必要です。ただし、前者は困難でしょう。なぜならば、日本での会社法開示のスケジュールは他国と比べてむしろ迅速といえる状況にあり(PwC、2020)、監査にかかる期間も踏まえると、これ以上の情報開示の前倒しは非現実的と思われるからです。

議決権行使期限を後ろ倒しにする有効な方法として現在利用されているのが、電子プラットフォームによる郵送期間の削減です(坂東、2018)。集計にかかる事務プロセスが削減されるため、議決権行使指図の締切を6~8営業日程度延長することが可能になります(経産省、2016)。コーポレートガバナンス・コードの原則1-2でも議決権の電子行使が推奨されており、国内では2025年2月28日現在、株式会社ICJが提供する議決権電子行使プラットフォームに1,835社の上場会社が参加しています。

くわえて、政策の観点から現在議論されているのが「7月総会」、つまり、総会開催時期を少し遅らせるというものです。現行の会社法は総会開催日それ自体については「毎事業年度の終了後一定の時期」(会社法第296条第1項)とのみ定めており、議決権の基準日をずらせば総会の後ろ倒しは理屈上可能です。

現在は、金融庁など関係団体が議論を行っているようです(日本経済新聞「金融庁、株主総会の日程「後ろにずらして」」)。総会の後ろ倒しが可能になると、上場会社が金融商品取引法のもとで決算日から3か月以内に公表する有価証券報告書が、株主総会の前に利用できるというメリットもありますね。

会社の担当者や監査人等、さまざまな関係者の努力の結晶である法定開示書類ですので、株主が総会にあたり目一杯活用できるような環境が整えられることに期待です。

【参考資料・URL】

経済産業省(2016)「日本及び諸外国における株主総会プロセスの電子化等の状況」https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11473025/www.meti.go.jp/press/2016/04/20160421007/20160421007-3.pdf

日本経済新聞(2024)「物言う株主、5年で3倍に 日本企業のPBR改革に追随」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB183UP0Y3A211C2000000/

日本経済新聞(2025)「金融庁、株主総会の日程「後ろにずらして」 企業は慎重」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB131DT0T10C25A1000000/

坂東照雄(2018)「議決権電子行使プラットフォームの現状について」『資本市場』(397)、54-64.

pwc(2020)「企業情報開示と株主総会のスケジュールの諸外国との比較 ~新型コロナウイルス感染症拡大を契機に企業開示や株主総会実務を考える~」https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/corporate-governance/vol25.html

<執筆者紹介>
岩田 聖德(いわた・きよのり)

2022年3月一橋大学大学院経営管理研究科にて博士(商学)を取得し、東京理科大学経営学部助教を経て、現在は東京経済大学経営学部専任講師。専門はディスクロージャー・コーポレートガバナンス。Webページはこちら
【主な論文等】
Fujitani、 R.、 Iwata、 K.、 & Yasuda、 Y. (2024). How does stock liquidity affect corporate cash holdings in Japan?: A pre-registered report. Pacific-Basin Finance Journal 83、 102205.
Iwata、 K. (2024). Earnings quality and voting shareholders’ reliance on earnings information: evidence from the top executive director election in Japan.
岩田聖徳(2021)「機関投資家による議決権行使結果の個別開示と社外取締役の選任」『経営財務研究』41(1・2)、2-20.
『財務・非財務報告のアカデミック・エビデンス』(共著、中央経済社、2025年)


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