かえる先生に聞く! 税理士試験「出題のポイント」から何がわかる⁉︎


諸角 崇順(かえるの簿記論・財務諸表論講師)

【編集部より】
さる8月22日、国税庁ホームページにて「令和6年度(第74回)税理士試験出題のポイント」が公表されました。毎年、本試験後に全11科目において公表されているもので、国税庁ホームページでは過去数年分を遡ることができます。
受験生自身が見るきっかけは少ないかもしれませんが、本試験に関する貴重な公の情報なので、ぜひご自身で読むことをオススメします。とはいえ、特に初受験の方ほど、どういった視点で読めばいいのかがつかみにくいところです。そこで、かえる先生こと諸角先生に、全科目に共通したアドバイスをいただきました! ぜひ参考にしてください。

試験委員の素直な気持ちが書かれている

今年も国税庁から『税理士試験出題のポイント』(以下『ポイント』という)が発表されました。

この『ポイント』は、令和4年度(第72回)の固定資産税を見る限り、本試験前に書かれていることが推測されます。ということは、各資格学校の本試験後の講評に影響されていない、試験委員の試験問題作成時の素直な気持ちが書かれていると言えます。

ここからはそれを踏まえて『ポイント』の読み方をお伝えしようと思います。ただし、これはあくまでも私の主観であるため、その点はご容赦ください。

『ポイント』を拝見すると、全ての科目において、試験委員が「基礎的な」「基本的な」という言葉を用いられています。それはつまり、その設問が試験委員の頭の中では文字通り、基礎的・基本的な内容だということです。

また、勘違いなさると困りますので、念のため書いておきますが、試験委員の言う「基礎的な」「基本的な」とみなさんが思う「基礎的な」「基本的な」は違うということです。

資格学校もそうですが、予想が外れるとその問題を「難問」や「悪問」として、見て見ぬ振りをすることもあるかと思います。しかし、試験委員が「基礎」「基本」と考えているのであれば、次年度もそのレベルの問題、その角度からの問題が出される可能性が高いということになります(試験委員の交代がなければ)。

そこで、来年も試験委員が変わらないという前提とはなりますが・・・
・同じ科目のリベンジを考えている人へ(簿・財以外)
・今年から新しくその科目の勉強を始める人へ(簿・財以外)
・簿記論・財務諸表論の受験生へ
という、3つのタイプに分けてアドバイスをします。 

同じ科目のリベンジを考えている人へ(簿・財以外)

自分の受験した科目の試験委員が「基礎的な」「基本的な」とされた問題と自分が思う「基礎的な」「基本的な」問題がズレている場合は、受験テクニックに走らない学問的な勉強(基本書の精読や勉強会への参加、国税庁がネットで公表している資料などを活用した勉強)を積極的に行っていく必要があると思います。

あなたが「基礎的な」「基本的な」問題とは思えなかった問題を試験委員は「基礎的な」「基本的な」問題と捉えているわけですから、『ポイント』すなわち、その試験委員の考える本試験の方向性に合っていない可能性が考えられます。そこで資格学校のように最小の努力で最大の結果を出すことを目的として勉強ではなく、少し学問的な勉強を取り入れていく必要があると思います。

逆に、自分の受験した科目の試験委員の「基礎的な」「基本的な」と自分が思う「基礎的な」「基本的な」がほぼ一致している場合は、単なる勉強不足です。試験委員の考える本試験の方向性に合っているにもかかわらず合格発表前のこの段階でリベンジを想定しなければいけないというのは、残念ながら単純な勉強不足です。今年以上の勉強時間を確保しましょう。

今年から新しくその科目の勉強を始める人へ(簿・財以外)

これからその科目の学習を始める受験生にとって『ポイント』を見ても、いまいちピンとこないと思います。

ただ、特に税法科目は比較的丁寧に出題の意図を書いてくださっていますので、しっかり読み込み、「実務」「改正点」「近年」等の表現が多く見られる科目であれば、資格学校での学習に加えて、国税庁の質疑応答事例(https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/01.htm)や『税務弘報』(中央経済社)等の雑誌で税務のニュースなどをいい意味のひまつぶしとして読んでみてください(質疑応答事例や判例、税務のニュースなどは正直めちゃくちゃ興味をそそられる内容なので受験勉強そっちのけで読み込む可能性があるため)。

逆に『ポイント』を読んでも「実務」「改正点」「近年」等の表現があまり見つからない科目の場合は、出題が安定した科目と考えられるので、資格学校の教材やその科目の基本書と呼ばれるものを読み込んでいけばいいと思います。

簿記論・財務諸表論の受験生へ

試験委員が増員され、受験資格が撤廃されたことで、以前のような「狭く・深く」ではなく「広く・浅く+深く」に問題が変わってきている気がします。

試験委員が増員された、ということは、作問者が増えた、ということ。よって、各作問者が問いたいことを問題にするわけですから、自ずと問題の範囲が広くなります(つまり、資格学校の予想が当たりにくくなってきている、ということです)。

また、受験資格が撤廃されたことによって、平易な問題と難問との混合問題が目立ってきました。税理士受験で初めて会計に触れた受験生が平易な問題だけで取りこぼしをせずに合格を狙うのか、会計に関する勉強を大学・大学院等で続けている受験生がケアレスミスはするものと考えその分を難問でカバーして合格するのか、近年は、このような両タイプに対応した平易な問題と難問との混合問題になってきている気がします。

よって、もし自分が税理士受験で初めて会計を学習する受験生に該当するならば、資格学校等の教材は全て完璧にこなし、難問は捨て、合格点を取る戦略の練習もしておく必要があります。

人の気持ちは文字に現れます。試験委員が『ポイント』で、「正確な理解」「適切な理解」といった表現を使われている問題は、試験委員からすれば、全ての受験生にぜひともとってほしかった問題と思われます。

逆に「応用的」「横断的」といった表現をされた問題は、会計に関する勉強をしてきた受験生であるならば捨てずに部分点だけでも取ってほしかった問題であったと思われます。

来年の5月頃、令和6年度(第74回)の本試験問題を解答し、この『ポイント』を再び読んで、試験委員と対話してください。

最後になりましたが、日商簿記3級と2級の復習は必ずやっておいてください。日商簿記をパターン学習で乗り切ってきた方は、税理士試験の簿記論・財務諸表論(特に簿記論)でものすごく苦労しますので。

ファイト!!!

<執筆者紹介>
諸角 崇順
(もろずみ・たかのぶ)
大学3年生の9月から税理士試験の学習を始め、23歳で大手資格学校にて財務諸表論の講師として教壇に立つ。その後、法人税法の講師も兼任。大手資格学校に17年間勤めた後、関西から福岡県へ。さらに、佐賀県唐津市に移住してセミリタイア生活をしていたが、さまざまなご縁に恵まれ、2020年から税理士試験の教育現場に復帰。現在は、質問・採点・添削も基本的に24時間以内の対応を心がける資格学校を個人で運営している。
ホームページ:「かえるの簿記論・財務諸表論」

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