海外で働く公認会計士のリアル:#アメリカ(ニューヨーク)編・吉井 達哉


【編集部より】
「海外で働くこと」を一度は憧れたことがある人も多いのではないでしょうか。しかし、言語や仕事、生活など、乗り越えるないといけないようなハードルもたくさんあって、なかなか踏ん切りがつかないという人もいるでしょう。
そこで、本企画では、海外で働いたことがあったり、今まさに海外でビジネス展開していたりする6名の公認会計士に、海外で働くリアルについて教えていただきました。きっと、今後のキャリアを模索するさいのヒントになるはずです!
今回は、「#アメリカ(ニューヨーク)編」として、吉井 達哉 先生(公認会計士・米国公認会計士)にご登場いただきます。
また、本シリーズは、#中国(北京・上海)→#シンガポール→#インド→#アメリカ(ニューヨーク)→#イギリス→#アフリカ(ルワンダ)と世界周遊気分を味わいながらご紹介する予定です。ご期待ください!(全6回・不定期掲載)

新人の時に、USGAAPへのコンバージョン監査を担当することに

はじめまして、公認会計士・米国公認会計士の吉井達哉と申します。
2011年にあずさ監査法人に入所し、2021年から2023年までの約2年間、KPMGニューヨークに駐在しておりました。その後、独立しIFRS導入支援、M&A支援や経理支援等の財務及び経営コンサルティング業務を提供しております。

私は当初海外勤務も英語も全く興味がなく、大学卒業時TOEICは500点台だったと記憶しています。そんな私が海外に興味を持つきっかけが訪れたのは、入所してすぐのことでした。
新人の時に担当していたクライアントがアメリカの会社に買収されることとなり、USGAAPへのコンバージョン監査を担当することとなりました。

私は新人ということもあり、通常の監査も、USGAAPへのコンバージョン監査も何もわからない状態でしたが、日々たくさんのことを経験することができました。
現実の世界には日本の公認会計士の受験勉強で学んだことよりもはるかに多くの会計・監査の業務があり、まだまだ知らないことだらけだと痛感したのを今でもはっきりと覚えています。
その後も、海外出張の機会や海外に関連する仕事を担当する中で、徐々に海外で働きたいと考えるようになりました。

最終的には、ありがたいことにKPMGニューヨークに駐在することとなり、2021年の夏から駐在生活が始まりました。

▶ニューヨークのオフィス街

ニューヨークでの駐在生活

日本ではまだまだコロナ禍という雰囲気でしたが、現地ではすっかりコロナは過ぎ去ったかのような状態でした。
ニューヨークでの仕事と生活は驚きと戸惑いの連続でした。

現地では日系企業の子会社の監査業務がメインで、監査チームは数人の外国人と、残りは日本人という構成がメインで、クライアントの担当者は基本的には外国の方でした。

まず驚かされたのは、一人ひとりの職務が明確に切り分けられており、自分の専門分野以外は手を出さないという姿勢がはっきりとしていることです。アメリカでは訴訟が当たり前ということが影響しているのか、自分の専門分野でないことは、必ず他の専門家に照会します。

監査業務を行う中で税務論点についても検討していたところ、パートナーから「You  should reach out to KPMG TAX as it is your opinion and not a professional view.(それはあなたの意見であって、専門家として見解ではないので、KPMG TAXに照会してください)」と指摘されたことを覚えています。
日本では相談されたことや、論点について自分で解決しようとすることが多かったのですが、この点がアメリカで仕事をする上での大きな意識の違いでした。

駐在生活で感じた日本との違い

「明確に指示を出す」という点においても日本との違いを感じました。仕事の期限を明確に伝えない場合は、基本的にはいつまで経っても対応してもらえません。期限を伝えたとしても、リマインドをしないと返ってこないことも多々ありました。

日本では、期限を明確にしなくても、受け手側が意図をくみ取って対応してくれることもあるかと思います。アメリカでは受け手側が依頼側の意図をくみ取る責任はなく、あくまで依頼する側の責任であるという印象を受けました。

人材の流動性においても、ニューヨークは非常に活発な街だと感じました。ニューヨークオフィスは世界中から転職してきたメンバーで溢れかえっており、多くの仕事を一緒にしたのはパナマ出身の方でした。彼らは常に転職でのキャリアアップを考えており、チャンスがあればすぐに次の企業へ、という雰囲気がありました。

ニューヨークオフィスのメンバーから、「ニューヨークにある日系企業の内定をもらったのだけど、この会社はどう思う?」といった相談を受けることが良くありました。転職だけではなく、MBAを取りに行く人もおり、多様なキャリアを歩んでいる方が多かったです。会社側も優秀な人材が流出しないように、従業員の満足度を高めることに重きを置いている印象がありました。

プライベートでも驚きの連続…!

仕事では刺激的な毎日でしたが、私生活においても日本では想像できないことの連続でした。

役所に電話していたところ17時の業務終了時間となると突然電話を切られたり、地下鉄に乗っていたら止まるはずの駅に止まることなく通過したり、ネットショッピングで注文した荷物がなかなか届かないため確認したところ「May be lost…」と表示されていたりといったようなことは日常茶飯事です。

完璧なサービスはできないという前提にたっているのか、基本的なサービスは日本より質が劣りますが、アフターフォローは日本より優れているように思います。サービスに満足いかず連絡を入れると、その後のフォローは非常に早いです。

担当者の判断で、返金や他のサービスで補填してくれるということが多々あり、担当者が持っている権限が日本よりも大きい印象を受けました。日本ではルールに従うことが基本ですが、アメリカではルールに縛られることなく交渉で物事を決めていく社会なのだと実感しました。

また、ニューヨークという土地柄か、世界中の人がバランスよくいた印象です。どこに行ってありとあらゆる人種の人がいるので、皆が一人一人の違いを尊重し、受入れ、自身との違いについて興味を持って接しているような街でした。

海外での仕事、生活は辛いことも多かったのですが、世界には様々な人、価値観が存在し、まだまだ自分の知らないことがたくさんあるということを体感することができ、ニューヨークでの経験は自身の人生を非常に豊かにしてくれたと感じています。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。
何か少しでも参考になるものがありましたら幸いです。

執筆者紹介

吉井 達哉(よしい たつや)

公認会計士・米国公認会計士
吉井公認会計士事務所

2009年、慶應義塾大学3年次に公認会計士試験に合格し、2011年に有限責任あずさ監査法人に入所。上場企業のIFRS導入支援に長年関与するとともに、監査、USGAAPコンバージョンやデューデリジェンスに携わるなど幅広く監査関連業務を経験。
2021年からはKPMGニューヨークへ駐在し、監査業務を中心に担当。
2023年に帰国後、東京都で独立開業し、IFRS導入支援、M&A支援や上場企業に対する経理業務高度化支援等を行う。

<こちらもオススメ>
「海外で働く公認会計士のリアル」

▶︎「中国(北京・上海)編(津田 覚)

▶︎「シンガポール編(林 竜太)

▶︎「インド編(野瀬大樹)

▶「アメリカ(ニューヨーク)編(吉井達哉)

▶「イギリス(ロンドン)編(森 大輔)

▶「アフリカ(ルワンダ)編(笠井優雅)


関連記事

【広告企画】会計大学院(アカウンティングスクール)12校の魅力を探る!

重版出来✨『わかる! 使える! うまくいく! 内部監査 現場の教科書』

【広告のご案内】掲載要領(PDF資料)

ページ上部へ戻る