わたしの独立開業日誌 #税理士・石川浩之


【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。

公務員から会計事務所を経て独立へ

沖縄県那覇市で相続税専門の税理士事務所を経営している、公認会計士・税理士・不動産鑑定士の石川浩之(いしかわ・ひろゆき)です。

出身は北海道・札幌市。高校卒業後にボクシングの世界チャンピオンを目指したものの、プロテスト目前で事故に遭い、公務員(当時の日本郵政公社、現在の郵便局)に。

その後、公認会計士と税理士の資格を取得して、沖縄と東京の会計事務所に勤務したのち独立。独立前には不動産鑑定士の資格も取得しました。

今回、北海道出身の私が、なぜ沖縄で税理士事務所を開業することになったのか、そして独立にあたっての経緯や事務所の経営方針などをまとめました。読者の皆さまにとって、参考になる部分が少しでもあると嬉しいです。

プロフィール写真

公認会計士試験合格後は沖縄に移住

沖縄好きだった両親は、私が高校生の頃から長期休暇を利用して毎年沖縄へ旅行をしていました。「将来、定年退職したら沖縄で暮らしたい」と日頃から両親が言っていた影響で、私も公認会計士試験合格後の就職先として沖縄を意識していました。

沖縄での就職活動の結果、運よく公認会計士の山内先生の事務所で拾ってもらい、結果、両親より一足早く沖縄に移住してくることに(笑)

勤務時代は独立を見据えた自己研鑽

山内公認会計士事務所では、沖縄なら誰でも知っている大きな会社の監査や、法人顧問の仕事を中心に、幅広く経験をさせていただきました。

公務員を退職した当時から、「将来、自分で独立して仕事をしたい」と考えて公認会計士になったので、事務所に勤務していたときは、独立を当面のゴールに見据え、自分自身のレベルアップを心がけていました。

法人税・消費税・所得税は、国際税務を除いてかなり詳しくなったと思うものの、相続税の仕事をする機会がありませんでした。

このまま独立しても、「お客さまの相続の相談にはのれないのでは?」と思ったことや、不動産鑑定士試験にも合格したので、その実務修習を東京で受けたいと考えたことから、思い切って期間限定で東京に修行へ。

東京で相続税と不動産鑑定士の修行

東京では、相続税専門の税理士法人チェスターに転職。平日の日中に勤務をして、平日夜間と土日は大島不動産鑑定で実務修習を行う日々(※不動産鑑定士試験は合格した後に実務修習を受け、修了考査に合格すると不動産鑑定士として登録することができます)。

税理士法人チェスターには相続税未経験で入社したので、最初は何もわからなくてすべてが大変でしたが、やる気さえあればどんどん吸収していける環境でした。

平日は不動産鑑定士の実務修習があるため、毎日定時で帰るべく頑張っていたら、入社1年で部長に抜擢していただき、売上No.1顧客満足度No.1で表彰されたことも。

大学院面接がきっかけで急遽独立

不動産鑑定士の実務修習が終わり、せっかく期間限定で東京に住んでいるので、「やれることには全部挑戦しておこう」と思い、夜間の大学院で勉強しようと考えました。

大学院の試験を受けたところ、筆記試験は満点。

しかし、面接官の方に、「こんなにできるんだったら、もう沖縄に帰って独立したらいいよ!」と言われ、面接で不合格…。

そこで、急遽沖縄に帰って独立することになったのが、開業の経緯です。

「やりたい仕事かどうか」が事務所の方針

当初は法人顧問業務が得意だったので、法人顧問に「+αで相続」もやろうと思っていましたが、思いがけず急に独立開業することになってしまったため、開業直前にどのような事務所にしたいかを改めて考えることにしました。

考えたときのポイントは、利益が出るかどうかも大事な要素ですが、一番大事なのは自分がやりたい仕事かどうかです。

儲かる仕事をするのではなく、自分がやりたい仕事で利益を出すという考え方ですね。

そこで、今の自分目線で考えるのではなく、将来の自分目線で事務所が軌道に乗った後を想像したときに「どんな仕事をやりたいか」から逆算して考えた結果、相続税一本に絞ろうと思いました。

次世代への恩送りも大切に

さらに、将来、どのような事務所を目指したいのかも考えました。つまり、「拡大志向」なのか、「少数精鋭型」なのか、それとも「1人事務所」なのかです。

私の場合、公認会計士の山内先生に育ててもらったので、私も次世代への恩送りという形で、沖縄で優秀な税理士を育成したいと昔から考えていました。

そこで、どうやったら優秀な税理士を育成できるかという観点で考えた結果、少数精鋭型相続税一本に絞ることにしました。

そうした理由から、事務所のテーマは「成長」です。相続税に関しては日本でトップクラスの梁山泊みたいなプロ集団を理想としています。

残念ながら、沖縄の給与水準は東京の半分くらいです。何とか改善したいので、「クオリティは日本一!」、「働く時間は短く!」、「お給料は高く!」を目指し、常に生産性は意識しています。

相続税専門事務所の3つの魅力

育成の観点だけではなく、相続税の魅力も簡単にお伝えします。

1つ目は、常に新しい案件という点です。

個人の確定申告や会社の顧問も大事な仕事ですが、毎年の作業のルーチンワークで飽きてくる部分もあると思います。しかしながら、相続の場合は、常に新しい案件で飽きません。

その分、新しい案件を取り続けないといけないため大変ではありますが、作業だけではなく、仕事を獲得する営業・集客の段階から携わることができます。

2つ目が、涙ながらに喜ばれるのでやりがいを感じる点です。

個人の確定申告や会社の顧問の仕事で、そこまで喜んでもらえることはなかなかないですよね。

3つ目は、稀少性が高い点です。

地方でも、個人の確定申告や会社の顧問が得意で優秀な税理士さんはたくさんいらっしゃるのですが、相続という狭い分野で考えると得意な方は少ない(ただし仕事も少ない)です。

開業後も心がけているマインドセット

公務員として働いたときの営業経験が、独立開業後の現在も非常に役に立っています。

大切にしているマインドセットはいくつもあるのですが、特に心がけているものをご紹介します。

よいアドバイスは素直に受け入れ実践する

自己流で成果が出ているならそのまま頑張ればよいのですが、問題は自己流で成果が出ない場合です。「でも自分はこう!」と頑固にならず、よいアドバイスは素直に受け入れて吸収し、実践するよう気を付けています。

よいアドバイスをもらっても、「ふ~ん」で終わったら意味がありませんよね。いかに理解してスポンジのように吸収し、実践し、成長していくことを心がけています。

「作業」は誰でもできる。差がつくのは「営業」だ

最初は「作業」を覚えるだけでも大変で必死ですが、何年もやれば誰でもそれなりにできるようになります。差はつきません。

たとえば100m走で考えてみましょう。速い人だと10~12秒、普通の人で14~15秒、遅い人でも20秒もかからないと思います。

仮に20秒かかる人がいたとして、「その人の2倍・3倍のスピードで走れますか?」と言われると、ほぼ全員が不可能です。それだけ「作業」は、熟練している人同士の差はつかないということです。

税理士業だと申告書の作成が「作業」に該当します。申告書の作成も、最初は覚えるのが大変なんですけどね。

税理士は報酬以上に税賠リスクがある

税理士報酬として100万円をもらったとしても、お客さまに1億円の損害を与えてしまったら…。「報酬の100万円を返せばいいでしょ?」では通用しません。

もらった報酬以上の税賠リスクを抱えることになりますので、この点には十分注意を払うようにしています。

税理士資格は軍用地ではない

「軍用地」は沖縄県外の方には馴染みが薄いと思います。簡単に言うと、米軍基地・那覇空港・自衛隊の基地等に使われている土地です。

国が借り上げているため管理不要で、(極端な言い方をすると)寝ていてもオーナーにお金が入ってくる物件です。

「税理士資格」は、それを取得しただけでは、軍用地のように寝ていてもお金が入ってくるわけではありません。試験勉強や実務で学んだ内容をお客さまに提供することで初めて利益が出ます。そして、いただいた顧問料以上のサービスを提供して、初めて顧問料を増額できます。それが事務所の増収増益、職員の昇給や賞与につながります。

まずは自分が貢献するのだという気持ちで、レベルアップすることを心がけています。

ライバルに圧勝できるレベルになって独立する

「ライバルに勝てない」とか、「自分には武器がないから独立できない」という相談をされることが結構あるのですが、話は簡単です。どんな分野でもいいので、ライバルに圧勝できるようになることです。

ラーメン屋さんで開業したと考えてみましょう。

自分のラーメンが、「お金を払って食べたいとは思わないわ…」というクオリティだったらどうでしょうか? こんなお店、あっという間に潰れてしまうと思いませんか?「これは美味しい!」「これならイケる!」というラーメンを作れないのであれば、「そもそもお店を出すな!」と思いますよね。

士業も同様です。

「自分がお客さまだったら、お金を払って自分に依頼したいと思うか」を大切にしています。

もし独立を考えている方がいれば、まずは上司を超え、そしてライバルに圧勝する実力を身につけることをオススメします。そのうえで独立すれば、無双することができますよ。

受験生へのメッセージ

税理士試験ももちろん大変だと思いますが、試験に合格してからがやっとスタートラインです。

どんどんレベルアップして、皆さまにとって理想の独立開業ができる人が増えて、世の中によい事務所がたくさん増えることを祈っています。

◆執筆者紹介
石川 浩之(いしかわ・ひろゆき)

公認会計士・税理士・不動産鑑定士
石川公認会計士・税理士・不動産鑑定士事務所 所長
北海道札幌市出身、沖縄県那覇市在住。
ボクシングの世界チャンピオンを目指す、背筋力MAX300キロ➡交通事故で断念➡公務員➡公認会計士合格➡相続税専門税理士法人➡開業。
【相続税専門にした理由は3つ】
・幅広く仕事をしてきた中で相続税の仕事が1番面白かった
・相続は涙ながらに喜んでくれるお客さまが多くてやりがいがある
・沖縄にも優秀な税理士の先生はたくさん居るけど、相続税が得意な税理士の先生は少ない
【事務所の経営理念】
・お客さまに最高のサービスを適正な価格で提供する
・沖縄で優秀な人材(税理士)を育成する
【趣味・好きなもの】
・ピアノ、ZARD・安室ちゃん・TWICEとココイチとラーメン

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