わたしの独立開業日誌 #行政書士・伊延美由紀


【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。

60代で資格取得、国際業務専門の行政書士として開業

はじめまして。九州で行政書士をしている伊延美由紀と申します。
日本語教師として海外を転々とした後、40代で法科大学院に行き3振して失権しました。
その後、60代で行政書士として開業し、国際業務専門として活動しています。

このコラムをお読みの受験生の中には、中高年の方、諸事情により資格をとってこれから独立開業を目指す方などもいらっしゃると思います。

私も合格や開業の体験記を読むのが好きですので、私の経験が、少しでもお役に立てたらいいなと思います。

プロフィール写真

日本語教師として長く海外生活

もともと大学は法学部志望でしたが、受験に失敗し、滑り止めの短大に入学しました。
そこから4年制への編入を狙いましたが、また失敗。法学部編入を諦めて短大卒業後は公務員になりました。
その後、公務員の先輩に勧められて夜間の大学(文学部)に入学します。結局、大学生活の途中で公務員を辞め、アルバイトをしながら海外を放浪したりしていました。

卒業して、偶然見つけたのが外国人に日本語を教える仕事でした。
海外に日本語教育専門家として派遣され、合計10年ぐらい4ヵ国で現地の学生の指導や日本語教員のサポートをしてきました。その間、インドネシア、マレーシア、イギリス、オーストラリア、ベトナムでの生活を経験しました。

ハノイの名古屋大学日本法教育研究センターへ派遣され、日本語教育主任を務めたことも!

日本語教師が、なぜ40代で法科大学院に入学?

日本語教育専門家を続けるにあたり、修士号が必要になりました。
修士号は取りましたが、その先博士号までとなるとモチベーションが続きません。
大学で非常勤講師の掛け持ちをしていましたが、修士号のままでは大学への就職は厳しく、壁にぶつかっていました。

ちょうどそんな時、編入予備校の先生から「法科大学院というものができる」という話を聞きました。昔の夢を思い出し、「これはチャンス!」と、法科大学院に入学して、法律専門職を目指すことに決めました。

40代で知識ゼロから法科大学院に入学するなど、無謀なように思われるかもしれません。
ただ、同じように知識ゼロで始めた人でも司法試験に一発合格した人もいました。
私自身は結局3振して失権してしまいましたが、知識ゼロのスタートが問題だったわけではなく努力が足りなかったからだと思っています。

再び法律の勉強を始めた理由

司法試験失権後は、法律を勉強したことを活かして契約書の翻訳もやっていました。
その程度の知識の役立て方でも十分だったのですが、法科大学院の時の奨学金を返済し続けていて、「もう少し法律を勉強したことを活用できないか…」という気持ちもありました。

その時、ふと思い出したのが「行政書士になれば入管の取次ができる」ということです。
このフィールドであれば、外国人に関わった日本語教師を長年やり、海外勤務も経験している自分が役立てるのではと思いました。

法科大学院修了から、すでに7年が経過していました。

法科大学院修了者でも大変だった行政書士試験

7年も経過していたのにも関わらず、正直最初は行政書士試験を舐めてかかっていました。
法科大学院を修了している自信から、きちんと勉強しないまま受験したり、申し込んだけど受けなかったりということを繰り返していました。何度試験に申し込んだか覚えていないくらいです。

エンジンがかかったのは、大学の非常勤講師の契約がそろそろ終わる頃です。
年齢も年齢で(当時61歳でした)、これからは雇われずに開業したいと思い、本腰を入れることにしました。
ただ、エンジンがかかった時は時すでに遅し。
準備期間がもう2ヵ月しかなく、残念な結果でしたが、頑張ったので、落ちて初めて「悔しい」という気持ちになりました。

某予備校の振り返りシートで分析してみると、Cランクは答えているのにAランクをたくさん落としていることがわかりました。
「基礎の基礎を固めないとダメだな」と反省し、通信の行政書士試験受験用の初心者用コースを受講することにしました。

そして、1年間コツコツ勉強し、翌年合格することができました。

合格後はすぐ開業!

他の選択肢がたくさんある若い方は、開業するかどうかで悩まれるかもしれません。
ただ、もう定年の年齢を過ぎた身だったので、合格後は開業の一択でした。

独立開業にあたってはまず事務所を探しました。
地方在住の場合、自宅開業が多いイメージですが、マンション住まいで、規約で住居以外の目的での使用が禁止されているので外に借りるしかありませんでした。
できるだけ家賃の安いところを探しましたが、しばらくして壁紙の匂いがどうしても耐えられなくなり、半年後に同じオーナーが持つ創業支援ビルに転居しました。

事務所のあるビル

机などは、家にあったものを使用しています。加除式の資料や六法全書などは、背伸びしすぎて不要だったかなとも思います。最初は必要最小限でいいと思います。
ちなみに、職印については、海事代理士をしていた亡き父の物を彫ってもらって再利用しました。

外国人のサポートのため、幅広く勉強が必要

地方都市なので外国人業務だけでは食べていけないから、何でもやった方がいいというアドバイスがありましたが、外国人の在留資格の仕事がやりたくて行政書士になったようなものなのでそこは拘りました。

幸い、国際業務を専門にしている県の先輩から仕事の一部をさせていただいたり、順調なスタートを切りました。
外国人関連の業務といっても、在留資格のことだけでなく、例えば外国人の方が会社を設立すれば、その会社で古物商の許可を申請したり、許認可の申請をしたりすることもあります。
日本語がよくわかる方ばかりではないので、英語でサポートをすると喜ばれます。外国人に関わる、結婚、相続、子どもの学校、病院などあらゆることをサポートしたいと考えています。

入管の業務だけでも幅広くてなかなか難しいのですが、それ以外の業務も勉強しなければならないのは大変です。しかし、もともとやりたかった仕事なので、このぐらいは頑張らないといけないと思っています。

また、お金のことについても勉強中です。
開業スタートがあまりに順調だったため、補助金の申請や政策金融公庫からの借入などについて後回しにしてきたのを反省しています。
確定申告なども本当に苦手ですが、1人事務所で何でもやらなければならないので仕方ありません。

次の挑戦も続く!

行政書士試験の後は、特定行政書士という不服申立ができる資格の試験を受けて合格しました。

次は何に挑戦するか、ワクワクしています。
語学系行政書士を名乗る以上、英検1級とTOEIC990も取りたいし、4年間赴任していたインドネシア語についての検定もいいし、渉外相続(外国籍の方が関係する相続)で韓国籍の方の戸籍のハングルで書かれた住所と名前が読めるようになりたいのでハングルも勉強したいし…

知財関係の業務もいつかは手掛けたいので、法科大学院で履修した知財の知識をブラッシュアップして、知財検定の1級まで取りたいと考えています。

あれもこれもいっぺんにはできませんが、隙間時間にコツコツと勉強していくつもりです。

おわりに

ここまで私の経験談を読んでくださってありがとうございました。

新しい仕事を始めるのは、簡単なことではありません。
ただ、新しいことを覚えること、新しいことに挑戦するのは楽しいです。

「年甲斐もなくやめておいたほうがいいかしら」なんて言わずに、人生を楽しんでいきましょう!

<プロフィール>
伊延美由紀(いのべ・みゆき)

令和4年5月行政書士登録、同日事務所開業。申請取次・特定行政書士。専門は応用言語学、法律。日本語教師・翻訳者も兼業。仕事と留学で海外生活約12年。住んだことがある国はインドネシア、マレイシア、イギリス、オーストラリア、ベトナム。趣味は語学学習、韓国ドラマ、合唱、お菓子作り。

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