【編集部より】
令和6年度の税制改正大綱が12月14日に公表されました。
主な内容は各種メディアでも報じられていますが、受験生が気になるのは「税理士試験に影響はあるの?」ということ。
そこで税理士の井上幹康先生に、今年度の税制改正大綱が税理士試験(法人税法・消費税法・所得税法・相続税法)に与える影響を「影響度大☆☆☆~影響度小☆」でまとめていただきました。
この記事を読んで、令和6年度はどのような税制改正が行われるのか、受験予定の科目に影響はあるのかをチェックして、学習の参考にしてください。
井上幹康(税理士・不動産鑑定士)
法人税法
中小企業向け賃上促進税制の見直し-繰越税額控除制度の創設-(大綱p.64‐)【影響度☆☆】
税理士のクライアントとして最も多いであろう中小企業向けの賃上促進税制について、所定の見直しを行い、控除限度超過額について5年間の繰越ができるようになります(適用期限は3年延長)。なお、この繰越税額控除制度に関しては、繰越控除する事業年度において、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額を超えることが要件とされています。
繰越税額控除制度が創設されることで、実務上、これまで以上に賃上促進税制の適用漏れや計算誤りに注意が求められます。税理士試験でもどちらかと言えば計算問題での出題に要注意かと思われます。
交際費等の損金不算入制度の見直し(大綱p.75-76)【影響度☆☆☆】
1人当たり5,000円以下の飲食費で書類の保存要件を満たしているものについて交際費等に該当しないこととする取扱いにおいて、金額基準が1人当たり1万円以下に引き上げられます(令和6年4月1日以後に支出する飲食費について適用)。
また、接待飲食費に係る50%損金算入特例及び中小法人に係る800万円の損金算入特例は適用期限が3年延長されます。
改正内容自体は金額基準の変更でシンプルです。交際費は税理士試験の計算問題で頻出項目ですので☆3つにしました。
消費税法
事業者免税点制度の見直し(大綱p.94‐95)【影響度☆】
令和6年10月1日以後に開始する課税期間から、事業者免税点制度に関して以下の改正が行われます。
①特定期間における課税売上高による納税義務の免除の特例について、課税売上高の代わりに適用可能とされている給与支払額による判定の対象から国外事業者を除外する。
②資本金1,000万円以上の新設法人に対する納税義務の免除の特例について、外国法人は基準期間を有する場合であっても、国内における事業の開始時に本特例の適用の判定を行う。
③資本金1,000万円未満の特定新規設立法人に対する納税義務の免除の特例について、本特例の対象となる特定新規設立法人の範囲に、その事業者の国外分を含む収入金額が50億円超である者が直接または間接に支配する法人を設立した場合のその法人を加えるほか、上記②と同様の措置を講ずる。
事業者免税点制度自体は、税理士試験の理論及び計算のどちらでも重要項目ですが、改正時期が少し先であること、及び、国外関連の取扱いであることから重要性は☆1つにしました。
簡易課税制度等の見直し(大綱p.95)【影響度☆】
令和6年10月1日以後に開始する課税期間より、その課税期間の初日において、所得税法又は法人税法上の恒久的施設を有しない国外事業者については、簡易課税制度の適用が認められなくなります(適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置の適用についても同様)。
簡易課税制度自体は、税理士試験の理論及び計算のどちらでも重要項目ですが、改正時期が少し先であること、および国外関連の取扱いであることから重要性は☆1つにしました。
所得税法
ストックオプション税制の拡充(大綱p.31-33)【影響度☆】
新株予約権の行使に係る権利行使価額の限度額が、以下のとおり引き上げられるほか、所要の改正が行われます。
・設立の日以後の期間が5年未満の株式会社が付与する新株予約権について、限度額を2,400万円(現行:1,200万円)に引き上げる。
・一定の株式会社が付与する新株予約権について、限度額を3,600万円(現行:1,200万円)に引き上げる。
税理士試験上、ストックオプション税制の重要性が正直そこまで高くない気はしますが、一応改正項目ということで☆1つをつけました。
子育て世代支援策としての住宅ローン控除及び所得税の特別控除(大綱p.36-38)【影響度☆】
以下の個人を「子育て特例対象個人」と定義し、当該個人が認定住宅等の新築等をして令和6年1月1日~12月31日までの間に居住の用に供した場合には、所定の借入限度額までの住宅ローン控除が認められます。
・年齢40歳未満で配偶者を有する者
・年齢40歳以上で年齢40歳未満の配偶者を有する者又は年齢19歳未満の扶養親族を有する者
また、「子育て特例対象個人」が、その所有する居住用の家屋について一定の子育て対応改修工事をして、令和6年1月1日~12月31日までの間に居住の用に供した場合には、その改修工事に係る標準的な工事費用相当額(250万円を限度)の10%相当額がその年分の所得税から控除できることとされます。
住宅ローン控除自体は実務上重要性の高い制度ですが、今回の改正は、「子育て特例対象個人」が令和6年1月1日~12月31日までの間に居住の用に供した場合といった期間要件のある制度なので、税理士試験上の重要性はさほど高くないと考え、☆1つにしました。
相続税法
住宅取得等資金贈与の贈与税の非課税措置(大綱p.49)【影響度☆】
適用期限が3年延長されます。
実務上、重要性の高い制度ですが、単なる期限延長の改正なので☆1つにしました。
法人版事業承継税制の特例措置(大綱p.50)【影響度☆】
特例措置の適用を受けるために必要な特例承認計画の提出期限が2年延長されます。こちらも実務上は重要性の高い制度ですが、単なる特例承認計画の提出期限の延長ですので☆1つにしました。
「居住用の区分所有財産」(いわゆる分譲マンション)の評価方法の変更【影響度☆☆☆】
こちらは令和6年度税制改正大綱に記載されていませんが、令和6年1月1日以後の相続、遺贈又は贈与において「居住用の区分所有財産」(いわゆる分譲マンション)の評価方法が変更されています(個別通達の創設)。
実務上の重要性は高く、税理士試験上は主に計算問題における出題に要注意かと思われます。相続税法の受験生は、国税庁HP掲載のパンフレットを読んでおくと計算のイメージがつかめるのではないかと思われます。
〈執筆者紹介〉
井上 幹康(いのうえ・みきやす)
天気予報のできる理系税理士 兼 不動産鑑定士
理系大学在学中に独学で気象予報士試験に一発合格したものの、その資格を生かした就職は叶わず。その後社会人となった後に理系から急遽方向転換し、働きながら4年で税理士試験官報合格を果たす。開業税理士として税務に従事すると同時に不動産鑑定士試験にも一発合格。現在は税理士と不動産鑑定士の二刀流で活動中。税理士向けセミナー講師や執筆活動も行っている。著書に『頻出事例・スキームにみる 非上場株式の評価Q&A60』、『税理士のための不動産鑑定評価の考え方・使い方』(中央経済社)がある。
井上幹康税理士不動産鑑定士事務所HP:http://mikiyasuzeirishi.com
note: https://note.mu/mikiyasuzeirishi