【新連載】簿・財「独学」合格者の大学教員が月イチアドバイス~会計の学習は‟積み上げ式”を意識しよう!


藤原靖也(和歌山大学経済学部准教授)

【編集部より】
会計人コースWebの読者アンケート結果によると、税理士試験簿記論・財務諸表論受験生には「独学」の人が一定数おり、その多くが情報の少なさから、勉強方法に対する不安を持っているようです。
そこで、本連載では、独学で税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験に合格したご経験があり、現在は大学教員として研究・教育の世界に身を置かれる藤原靖也先生(和歌山大学准教授)に、毎月、その時々に合わせた学習アドバイスをしていただきます(毎月15日・全11回掲載予定)。
ぜひ本連載をペースメーカーに本試験に向けて正しい勉強法を続けていきましょう!

みなさん、こんにちは。私は大学・大学院で会計学にまつわる科目を教えています。そのきっかけとなったのが日商簿記検定1級、税理士試験 簿記論・財務諸表論、そして公認会計士試験の学習でした。資格の学習から研究・教育の世界に飛び込んだ者です。

これから1年間にわたって、私の実体験も交えつつ、簿記・会計の資格に独学で挑む方々、その中でも特に税理士試験の簿記論・財務諸表論を目指す方々に有益な記事をお届けできればと思っています。

<今月のポイント> 
・独学でベストな勉強法を見つけるのはなかなかに難しい一方で、税理士試験の簿・財は簿記3級で学ぶ項目から簿記1級を超える論点まで幅広く出題される傾向にある。
・まずは焦らずに「簿記・会計は積み上げ式」を意識し、どこまで土台ができているかを把握しよう。
・難解な論点ではなく、(日商簿記検定1級の範囲までの)基礎的論点を取り切れたものが合格する試験である。

「ベストな学習法を見つける」はひとまず横に置こう

簿記論・財務諸表論をいざ独学で学習しようと思ったとき、最初によく言われるのが「ベストな勉強法を見つけましょう」だと思います。

それは確かにその通りです。私も、できるならば「自分にとってベストな勉強法」を見つける時期にしてほしいです。

しかし、それこそが、最大といって良いほどの独学の大きな壁です。1人で試行錯誤して見つけることは私も本当に難しかったです。

その原因は、皆さんも感じているかもしれませんが、試験のレベル・教材選び・スケジューリングも含めた、圧倒的な情報不足です

私もある程度学習が進むまで「この試験を突破するまでに、何をどこまでやればよいか」は分かりませんでした。それが当然だと割り切ってしまいましょう。

簿記・会計の学習は「積み上げ式」という意識の重要性

それを考える前に、まず簿記・会計の学習はどんな意識で臨むのが重要かを確認しておきましょう。

簿記・会計の学習は「積み上げ式」です。色々なことをぶつ切りにして覚えていくというよりは、土台をしっかりと組み立て、その上に応用論点を積み上げて専門性と実力を高めていくことが重要です。

例えば、同じ論点を問われているのに、条件を変えられると間違えてしまう…といった経験はないでしょうか。

しっかりとした土台がないままに難しい問題を1問解けるようになったとしても、1つのパターンを覚えたに過ぎず、体系的に理解したとはいえないのが簿記・会計の学習上の特徴です。

そして、日商簿記検定1級であれ、全経上級であれ、税理士試験の簿記論・財務諸表論であれ、もちろん公認会計士試験の財務会計論であれ、この「土台」は同じです。

簿記・会計における「土台」とは、日商簿記検定3級・2級で学ぶ内容です。

例えば、簿記上の取引を認識し→仕訳を行い→仕訳帳へ記帳し→元帳へ転記する・・・という簿記一巡の手続き等、簿記の学習で最初に触れる項目のことです。

簿記論・財務諸表論に合格するための心構え

皆さんは「簿記論・財務諸表論の合格者の方は難しい論点を解けたから合格できた」などと思ってはいないでしょうか。

それは大きな間違いです。

むしろ、難解で時間のかかる問題に手を出さず、基礎的な問題を見抜いたうえで、まるで「狩り」のようにそれらを確実に正答しきった方が合格します。

例えば第73回(2023年)の簿記論では「小口現金の処理」などが、財務諸表論では売掛金に関わる「訂正仕訳」などが出題されました。 

これらは、いずれも日商簿記検定3級のテキストで対応できる基礎的な問題でした。

特に簿記論や財務諸表論では、日商簿記検定3級で学ぶ項目から日商簿記検定1級を超える応用的な論点まで幅広く出題される傾向があります。上のような基本論点を取り切れたかが合否を分けるのです。

それゆえ、基礎を大切にする癖をつけておくことが、簿記論・財務諸表論を継続して学習するためには非常に重要です。

土台の学習を飛ばして、応用的な論点や些末な論点ばかりを追うのは、得点源を失うことと同じです。合格のカギを握る基礎を疎かにしないようにしてください。

「背伸び」はNG!土台をどれだけ理解できているかを知る

簿記・会計は「積み上げ式」であることを意識して、まずは落としてはいけない基礎論点を完全に理解できているかを確かめてみてください。「背伸び」はいけません。

独学であれば、入手しやすいのは日商簿記検定3・2級のテキストです。その範囲までに基礎論点が詰まっている、といって良いでしょう。
それらを理解できているか否かが、今後の理解度に影響を与えるはずです。

日商簿記検定3級の内容があいまいならば、そこから学習をスタートさせましょう。経験者の方も、意外と忘れている点があるはずです。
さらに言えば、とりわけ日商簿記検定2級の商業簿記の内容までが簿記論・財務諸表論の基礎であり、土台です。ここまでの内容を完全に理解できているかを確かめましょう。

基礎的な論点を中心に、順を追って理解できているかを大切にしながら、学習をスタートさせましょう。

最後に:簿・財合格のために何をどこまで積み上げるか?

とりわけ、税理士試験 簿記論・財務諸表論は、日商簿記検定1級の範囲と強く関連しています。

税理士試験 簿記論・財務諸表論では何をどこまで積み上げれば合格ラインに乗るかを考えたとき、日商簿記検定1級までの範囲がよい目安になってくれます。

私なりに表現するならば、本試験の出題範囲は「日商簿記検定1級までの「商業簿記・会計学」の範囲+α」です。
(ここで言う「+α」とは、より実務的な計算と、財務会計に関わる理論の理解度の深さのことです。)

総合問題で想定されている組織像や、そもそもの試験の目的などには違いがあるかもしれませんが、本試験の出題範囲は体感的にも間違っていないと思います。

ただ、はじめに述べたように簿記・会計の学習は「積み上げ式」の意識が重要です。日商簿記1級も、2級までの内容を理解していることを前提に出題されています。
相対評価の試験で基礎を取りこぼすことほど、怖いものはありません。

まずは自分の立ち位置を知るためにも、日商簿記検定2級までの範囲の理解度・精度を完璧にするところから始めるとよいでしょう。具体的な方針を立てるのは、その後です。

<執筆者紹介>
藤原 靖也(ふじわら・のぶや)

和歌山大学経済学部准教授、博士(経営学)。日商簿記検定試験1級、税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験論文式試験に合格。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了後、尾道市立大学経済情報学部講師を経て現職。教育・研究活動を行いつつ、受験経験を活かした資格取得に関する指導にも力を入れている。


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