わたしの独立開業日誌 #税理士・山本庸介


【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。

福井県で開業して2年!

2021年7月に福井県大野市で開業した山本庸介と申します。ちょうど開業して2年が経ちました。
開業間もなく、事務所経営もまだまだ不安定ですが、私自身が税理士受験生や独立開業の時に拝見していたメディアだったので、少しでも恩返しになればと思い、寄稿することにしました。お役に立つことがあれば幸いです。

プロフィール写真

製薬会社勤務の薬剤師が、Uターンのため税理士を志す。
2回の受験で5科目合格!

福井県は47都道府県の中で5番目に少ない人口75万人。更に大野市は東京都23区よりも広い面積があるにも関わらず人口は3万人ちょっとです。私はこの田舎で18歳まで育ちました。

田舎は嫌だ、外の世界に出たいと思って地元を離れました。大阪や東京での生活を経験して、田舎で育った年数と同じぐらいになった頃に福井に戻る決意をしました。

田舎の福井で、どうすれば「楽しく」「やりがいのある」充実した日々を過ごせるか。
考え抜いた答えが「税理士として地元の企業に貢献する」でした。

元々数字が好きで、数字を使った仕事がしたいとずっと思っていました。製薬会社の生産部門に所属していた際は、原価計算や生産計画の部署に異動希望を出していました。
しかし、日商簿記1級を取って会社にアピールするも、簿記2級持ちの後輩が原価計算の部署に異動したり、米国公認会計士を取って会社にアピールするも、簿記2級持ちの先輩が本社の経理部に異動したりと、どうにも私の希望はかないません。

どんな仕事であっても学び続けなければならない。
だったら自分の興味を持てる分野の仕事をしよう。
いままでやりたくてもできなかった数字を使う仕事がしたい。
田舎だったら公認会計士よりも税理士の方が需要があると思い、税理士を目指すことにしました。

のんびりしたくて地元に帰るのではない。都会の人間に負けないくらい仕事して人生を楽しんでやる!そう決意して、場所も仕事内容も全く違うところに飛び込みました。

35歳にして未経験の分野にチャレンジです。既におっさんなので、背水の陣で臨んだ結果、本当に幸運に恵まれて2回の受験で5科目合格することができました。

福井県大野市

勤務時代ーー3年で一通りのことが出来る税理士になることを目標にひたすら仕事

福井県では規模の大きい従業員50名程度の税理士事務所に勤務しました。最初は会計ソフトに仕訳入力するのも戸惑いました。試験と実務は全然違うなと思いました。
職場の人は忙しいからか、私が短期間で税理士試験に受かったバケモノ?だからか、単に可愛げがないからか、たいして教えてくれません。
自分で調べて自分なりの答えを出すことには慣れていましたし、新しいことを知る、知識の点と点が線でつながるようになるのが面白く、ひたすら仕事をしました。

職場の先輩から、「3年勤務すると1年間の仕事の流れがわかるようになる、10年経つと一人前の仕事ができる」と言われたことがあります。
10年経ったら50手前のおっさんやん、そんな悠長なこと言ってられんぞ、ということで「3倍のスピードで成長して3年で一通りのことができる税理士になる」ことを目標にしていました。

税理士試験を早期に合格した方や受験専念した方にはよくあることだと思いますが、資格は持っているけど、実力が伴わないということが起こります。
税理士事務所に長年勤めている番頭クラスの方が実務対応力は優れているのです。

資格はもっているけど実力は大したことないと思われるのも悔しいので、試験以上に猛スピードで実務能力を身につけようと仕事に打ち込みました。私の提案が顧問先に喜んでもらえるのが嬉しくて更に仕事にのめり込むようになりました。

入社4年目には担当する顧問先の数、新規営業の金額、年間売上で事務所トップとなりました。

「地元企業の支援をしたい」と独立開業を決意

10年間大手の製薬会社でサラリーマンをしており、周りに独立する人もいないので、自分で事業をするという思考自体がありませんでした。
税理士を目指したのも独立しやすい資格だからという理由ではありませんでした。
金銭的な理由で独立を選ぶ方も大勢いると思いますが、元々そんなにお金を使う方ではありませんし、田舎で生活するには十分な給料をもらっていました。

ところが、顧問先や取引業者と打合せすると、「いつ独立するの? 独立する時は事前に教えてね」等と言われることが増えてきました。
最初の頃は独立なんて考えてもいませんでしたが、尊敬する経営者の方から刺激を受けたり、新規開業する事業者の支援をしたりしている内に、「独立開業」という言葉が少しずつ脳内に刷り込まれていきました。

私自身が医療関係のバックグラウンドを持っていることもあり、医科・歯科の新規開業や事業承継を支援する機会が多くありました。
田舎の福井県ではクリニック開業の場合、建物を所有することが一般的です。建物、設備を含めて、2億円ぐらいの融資を受け、職員を最初から6人ぐらい雇用して独立する先生を見てきました。
開業時に大きなリスクを取り不安な部分もあったと思いますが、徐々に軌道に乗り始めて表情が明るくなる姿を見ていくうちに、自分が独立したらこういう事務所にしたいなとイメージするようになりました。

事務所内では担当替えを指示されるケースが多くなりました。
私は報酬の低い顧問先の担当から外れ、報酬の高い東京の顧問先を担当するケースが増えました。事務所経営としては当然の選択だと思います。
しかし、私は元々税理士になって地元企業の支援をしたいと考えていたので、モヤモヤとした気持ちが積み重なっていきました。

結局、複合的な理由から独立することを決意しました。
入社当時未経験の私を採用してくれた恩義がありますので、一生働くつもりでしたし、独立するとは思ってもみませんでした。
しかし、自分の考えを実現しようと思うと独立しかない、独立すると迷惑をかけることになるが、遅くなるとより迷惑をかける関係者が増える。それだったら早い方がよいと思い、税理士事務所での経験はわずか4年程度で独立をすることになりました。

2021年1月に退職の意向を伝えました。5月末までが税理士事務所の繁忙期のため、引継ぎ期間を考慮して6月末に退職するというスケジュールで合意しました。

独立にあたっての情報収集と立てた戦略

退職を決意してからは独立開業に関する情報をひたすら集めました。
古いものも含めて、本は10~20冊は読みましたし、有料セミナー、ブログ、Youtube、税理士事務所のHP等検索に引っかかってきたものは片っ端から確認していきました。

情報収集をしている中で、特に税理士向けのセミナーでは税理士報酬相場の下落、AI技術の進化もあり、記帳代行をはじめとする低付加価値業務からコンサルを中心とした高付加価値業務にシフトすべきという内容が語られることが多くありました。実際にその方針で成功されている税理士事務所も数多くあると思います。

しかし、自身の開業にあたり、そのような戦略はとりませんでした。
士業の本来の役割は、依頼者がご自身ではできない、あるいは時間がかかってしまう手続きを代行し、行政と民間の橋渡しを効率的に行うことだと思っています。いわば「事務代行屋」です。

事業をやると絶対に発生する「やりたくはなくても、やらないといけないこと」を士業の人たちが代行することによって、お客様に本業に集中してもらう環境を整えることが大切だと考えています。

事業者の求めるサービスがコンサルにあるとは限らない。
記帳代行等の手間のかかる業務を代行してもらいたいと考える事業者は数多く存在するとこれまでの経験から感じていました。
低付加価値業務の代表例である記帳代行を行いたい。記帳代行をする前提で、どうやったら収益力を高められるかを考えていきました。
その結果、会計ソフトはマネーフォワードクラウド会計のみを使用して、記帳業務の標準化と効率化を徹底することを決めました。

多くの情報収集をした結論は、集めた情報を信じすぎず、自分のやりたい道を進むということでした。情報源となるサンプルは都会の事例が多いのではないか。
必ずしも、田舎に当てはまるわけではない。
田舎には田舎の戦略がある。

税理士だから高度なことをやらないといけないわけではない、田舎の「街の税理士」としての王道サービスの質を上げる、中小企業の数少ない相談相手として何でも対応することを基本的な方針としました。

税理士は顧客のお金の流れを全て把握できる希少なポジションです。
一人事務所や大規模な税理士法人、業界や特定の税務領域に特化する事務所など様々あります。どのような形態であっても成功されている先輩税理士はいます。多様な業種業態がある全国の中小事業者が見込み顧客です。
どんなやり方でも何とかなる懐の深さが税理士資格にはあると思っています。長く続ける商売ですから、自分がやりたいようにやる、自分が選んだ道を正解にすればいいと考えました。

事務所の目指す姿ーー地元の事務代行屋として顧問先は100社以上!

事務所の目指す姿として、以下を掲げました。

・福井県に根ざした税務・会計サービスを中心とした総合士業事務所になる
・高度な専門サービスだけでなく、手間のかかる事務手続きも代行する何でも屋になる
・お客様は自分自身しかできない本業に集中できる環境を整える

事務代行屋または何でも屋になるために、記帳代行だけでなく、給与計算の代行、振込業務の代行、納税の代行等、いわば経理部門の代行にもニーズがあると考えました。このような代行業務がビジネスとして成立しているのかをネットで検索したところ、いくつか先行事例がありました。

特にSATO社会保険労務士法人はグループに給与計算代行を行う株式会社エコミックがあり、札幌証券取引所に上場されています。前職の製薬会社では株式会社ペイロールという東証マザーズ上場会社に外部委託していたことを思い出しました。この時にBPO(Business Process Outsourcing)サービスという言葉を知りました。

弊所でもBPOサービスを提供する際、使用するITツールは弊所指定のものとし、効率的に業務を行うことで中小企業向けの料金設定でも収益は出せると考えました。

このように開業にあたっては、まずは自分がやりたいこと、目指す事務所像を決める。それがビジネスとして成立するためにはどうすればよいかを考えるという順番で物事を決めていきました。

開業2年しか経過していないのでこの先はわかりませんが、顧問先は100社を超え、グループ売上は2年目で1億円を突破しました。人材不足もありBPOサービスの依頼は毎月増加しています。顧問先と距離感の近いサービスを行うことで、コンサル等の高単価のスポット業務の依頼も増えました。

事務所外観
職員作業スペース

授業料負担、6月~8月まで休み、シェアハウス、事務所独自の制度で税理士受験生を徹底支援

税理士はめちゃめちゃ面白いし幅の広い職業だなと思っています。私自身、税理士という資格のおかげで田舎でも「楽しく」、「やりがいのある」充実した日々を過ごせています。

税理士は顧問先の会計データの全てを見ることができる職業です。事業者本人以外にこのようなことができるのは税理士以外にいないと思います。従業員はもちろん、時には家族に対してもお金の使い方を隠します。銀行は融資取引をしていれば決算書をもらえますが、そうでなければ決算書をもらうだけで一苦労です。決算書を3期分並べて分析しても点と点をつなぎ合わせて推測する程度です。情報量は圧倒的に税理士の方が多く持っています。

税理士というプラットホームを使えば、いろいろなことができると思います。自身の働き方も選べますし、ビジネスチャンスはいくらでも広がっています。

残念ながら税理士受験生は減少しています。こんな面白い職業なのにもったいない…。

原因の一つは働きながら受験できる試験でもあるがゆえ、受験期間が長期化しやすいことだと思っています。一般的には、税理士事務所で勤務していると長時間労働になりがちです。勉強時間が取れないため試験にもなかなか受かりません。

試験合格がゴールではないですが、長期化すると試験合格がゴールのように錯覚しがちになると思います。面白いしやりがいを感じるのは税理士になって実務能力を身につけてから。

早く試験に受かってスタートラインに立ってもらいたい。税理士って面白いということを早く体感してもらいたい。そのために弊所では以下のような制度を設け、税理士受験生を徹底的に支援します。

・専門学校の受講料は原則全額事務所負担
・6月以降は受験まで勉強に専念

もし興味がありましたら弊所にお問い合わせください。遠方から就職される方向けのシェアハウスを用意しているところです。田舎ですから仕事か勉強しかすることありません。そのような環境に自分を追い込みませんか?(笑)

他にも独立開業時に考えたことはまだまだあるのですが長くなりすぎるのでこの辺で。弊所HPに徐々に独立開業ブログをUPしていこうと思っていますので気長にお待ちいただければ幸いです。

シェアハウス予定地

【プロフィール】
山本庸介(やまもと・ようすけ)

山本総合会計事務所 代表税理士
税理士、行政書士、米国公認会計士、薬剤師
大阪大学薬学部、同大学院卒業、慶應義塾大学経済学部(通信教育課程)卒業
国内外大手製薬メーカーで10年勤務した後に35歳で地元福井県にUターン
2年弱で税理士試験5科目合格(簿・財・法・相・消)
年間売上1,000万円以下から数百億円規模まで幅広い顧問先を担当
2021年7月に人口3万人の大野市で独立開業
1年強で100社と顧問契約、開業2年でグループ売上1億円を突破
マネーフォワードクラウドアワードを北陸地域で初めて受賞
HP: https://wiz-tax.com/
Twitter:@wizyamamoto

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