フツーの人が税理士試験・簿記論に短期合格する秘訣とは? 〜簿記論17回受験の税理士・田中先生が静岡の名物講師・石垣先生に聞く!(前編)


【編集部より】
税理士試験の受験者を見ると、大学生世代は少数派であるものの一定数おり、中には大学在学中に官報合格を達成する人もいます。
静岡産業大学専任講師の石垣美佳先生は、税理士資格のことさえ知らなかったようなフツーの学生を、在学中に税理士試験・官報合格や科目合格に導いているとのこと。では、なぜ短期間で合格できるのでしょうか。
社会人に比べて時間に余裕があるという理由以外にも何か秘訣があるのではないか、ということで、今回は、同校の卒業生でもあり、自身の受験時代から交流のある田中晃広先生(税理士)との対談を通して、短期合格する人としない人の違いや簿記論合格の鉄則を探ります。
前編は、「簿記論に短期合格する秘訣と勉強に対する姿勢」についてです。

簿記論合格の秘訣は「読解力」と「分解力」

田中先生 今回は、専門学校講師を経て、現在は静岡産業大学講師として、税理士試験の官報合格を含め、多くの在学中合格者を指導する石垣先生に、「短期合格の秘訣」を伺いたいと思います。

僕自身は、何度か記事にも書いたとおり、簿記論を17回受験して合格したので、いわゆるセオリーとは逸脱したやり方でなんとか合格した人間ですから、だからこそ改めて石垣先生に、特に「簿記論」合格の一般的な方法や鉄則を教えていただきたいと思います。

ズバリ、簿記論の合格で大切なことは何ですか。

石垣先生 そうですね。これは専門学校講師時代から言っていたことですが、簿記論ではズバリ「読解力」と「分解力」です。

まず、読む力がないとなかなか問題を把握することができないので、計算力の前に「読む力」が大切ですね。

そして、もう一つが「分解力」です。簿記論というのは、推定や推理をする内容なので、1つの数字の中に何が含まれているのか。たとえば、現在のものか過去のものか。つまり、固定資産なら今年買ったのか、以前からあったのか。貸倒引当金なら、その内訳に一般債権のものか、それ以外の債権のものか、というのもあります。

それらを読み取るために、まず問題を与えられたら絶対に「素読み」をすることですね。電卓を叩かないで、落ち着いて「読む」という。

ただ、ここにまた問題があって、素読みの段階で深く読む受験生もいらっしゃるんですけど、時間で言えば、30分問題で1分〜1分半くらい、60分問題で2分半〜3分くらいが目安ですね。

すべての問題の要点だけを押さえてから、いよいよ問題に入るといいです。

こうした、「1つの数字が何が含まれているか」を、「読み取る力」と「分解する力」が、簿記論に関してはとても大切だと思います。

田中先生 確かに、僕も簿記論では国語力を問われている感じはすごくありました。それでよく、「深読みしすぎ」と指摘されましたね。

専門学校の問題だと、1つの問題で2つの解釈になるような内容は出されませんが、本試験では別解の余地がある言い回しがたまにあって、変に深読みをして間違えることはありました。だから、「読解力」と「分解力」は大切だと痛感します。

そこで、一般的には簿記論は「数多く問題を解くこと」が大事で、「総合問題をやりなさい」とよく言われますよね。

ただ僕はそれでは結果が出なかったので、最後の3年間は個別問題重視にして、ケアレスミスしないレベルになるまで解きまくって、どうにかこうにか合格までこぎつけられました。

時間が取れればそういう対策も有効だと思うのですが、特に勉強時間がさほど取れない人の場合、どのように勉強を続けていけばいいでしょうか。

石垣先生 そうですね。今のお話で言えば、当時の田中先生自身がもともと合格レベルまで達していたということが前提にあります。それを大前提にして、個別問題に力を入れた結果、合格できたということです。

一方で、初学者の人は「個別問題を3回転したら総合問題を解こう」というように指導されていることも多くて、自信がないからなかなか総合問題に手を出さないんですね。ただ、それを言っていたら、総合問題をまず解けません。

私の勉強方法としては、個別はとても重視するんですけど、まず、「個別問題を1回転した段階ですぐに総合問題にチャレンジしてほしい」と伝えています。そして、その総合問題でもし減価償却を間違えたなら、個別問題に戻って徹底的に復習するのです。

特に、働いている人など限られた時間の中で勉強するなら、総合問題で間違えたところを個別に戻って徹底的に攻略するという方法をお勧めします。

真面目な方は、問題集のチェック欄に3回記録をつけるまで総合問題に進めないという人もいますけど、模試や本試験で「仕訳まではできだけど、総合問題だと解答欄に書けなかった」という人もいて、それは間違いなく総合問題の演習不足ですね。

ともかくつらくても、時間を計って、総合問題を解きなさいとアドバイスしています。

田中先生 初学者は確かにそうですね。僕のところにダイレクトにくる相談は、簿記論10年選手といった人が多くて、その場合は僕の経験を伝えると、結果につながる人も多いのですが、初学者へのアドバイスと10年選手へのアドバイスは知識量の前提が違ってきますね。

一発合格する人は「とにかく素直」

田中先生 石垣先生は、専門学校の講師時代には社会人受験生も多く見てきたり、現在は在学中に官報合格をする学生を見たりされていますが、その中で「サクッと一発合格する人」と、「17回かかった僕」との違いはどこにあると思いますか。

あ、ちなみに、僕はもう今、税理士として開業もして、試験は終わっているので、受験当時ならグサグサくるようなことでもかまいませんから、率直にぜひ教えてください。

石垣先生 まず、田中先生がということではなくて、“一般的に”言えることは、「一発で合格する人」たちの特徴は「とにかく素直」。この一言に尽きます。それは、天然的な性格なのかなと思うくらい、純粋をそのまま体現したような人たちなんです。

具体的には、私が「計算用紙にこのメモを書いてください」と言った時に、確かに自分には違うやり方があるかもしれないけども、まずはともかくそれを一度やってみる。そのうえで、自分に合わなかったら別の方法を試せばいいですが、「良いよ」と勧められたものを純粋に受け入れられる「素直さ」がありますね。

田中先生 なるほど。確かに、僕の経験上、3〜4回受験したあたりから、変な我流が出てくるかもしれませんね。そして、専門学校の模試で成績上位をとったり、A判定が続いたりすると、妙なプライドや自信も出てきて、変に頑なになっていたところがあったかもしれません。

毎年がむしゃらに勉強はしてきたものの、本番だけ結果が出ず、その苦悩から行き着いたのが個別問題を徹底するという学習法だったんですよね。

やはり、講師の人は毎年、合格者を多数輩出しているわけですから、変な我流を押し通さず、「講師のアドバイスは素直に聞く」ということが短期合格の秘訣なんですね。

石垣先生 そうですね。極端な話、自分で考えるよりも、「こういうやり方がいいなら、真似をしてしまおう」というくらいの気持ちでいいのかもしれませんね。

田中先生 確かに、僕と同じ境遇の受験生が僕の提示したアドバイスを実践して、合格したという連絡をもらうことがあって、それはつまり、「素直に」アドバイスを聞いたからなんでしょうね。

いや〜ちょっと、20年前の僕に戻って言い聞かせたいぐらいですね(笑)。

石垣先生 よく、問題に文句を言う人もいますけども、在学中に官報合格した学生は、どちらかというと黙々と取り組んで、「そういう問題だから仕方ないか」、「2回目解いたらわかるかもしれない」という姿勢でしたね。

実は、私が今までの受験アドバイスの中で、自分でもすごいことを言ってしまったなというエピソードが1つありまして、よく学生たちにも話すのですが、以前、すごく几帳面な女性の受験生がいたんです。

白色が大好きな方で、洋服も全身を白を基調にしてコーディネートするほど、超・完璧主義者だったんですね。
その受験生は、知識面ではもうこれ以上アドバイスすることがないほど、いつ合格してもおかしくないような人だったんですが、なぜか簿記論の沼にハマってしまっていました。
きっと本番で試験問題を見て、何かにこだわってしまうんですね。

だから、「洋服を黒とまでは言わないから、グレーにしてください」と言ったんです。つまり、普段の服を白ベースで完ぺきに統一するのではなく、ほんの少しでいいから黒寄りを許容して、自分のこだわりを捨てる勇気をもってみてはどうかという意味です。

そしたら、次の年に合格しました。
私がその人に言ったアドバイスは本当にそれだけです。勉強や知識に関してアドバイスすることはもうなかったんですよね。「日常から気持ちを変えられれば受かる」と思ったのでそう言いました。

田中先生 そこは確かにすごく耳が痛いところがあって、問題文に悪態ついたり、愚痴りあったりした記憶は僕にも確かにありますね。特に落ちた年に限って・・・。

石垣先生 当然、皆さん問題に対する気持ちというのはありますからね。だから、これは「次の年に受かる人」の特徴でもあるんですが、簿記論って本試験が終わってから、「できました!」という声をほとんど聞いたことがないんです。

むしろ、「ごめんなさい、出来なかったことが申し訳ない」といわれることが多くて、逆にこちらが申し訳ない思いでいっぱいになります。言い換えれば、それくらい合格点も低いので、結果が出るまでわからないんですよね。

そういう面では、特に簿記論はモチベーションを保つということが本当に過酷で、大変な科目だと思います。

田中先生 そうですね。モチベーションを保つという意味でも「素直さ」は大切ですね。地頭や学歴は関係ないんだろうと思います。
後編では、モチベーションについてもう少し掘り下げてお話を伺います。

つづく

【対談者紹介】


石垣 美佳(いしがき みか)
静岡産業大学専任講師
高校までは全く簿記というものを知らず、その後簿記に出会い専門学校に就職し講師となる。主に税理士科目の簿記論を担当。自身が税理士試験の勉強をしていた時に一番好きではなかった科目を担当することになるが、今では簿記論に愛着がある。
家業を継承するため、いったん簿記の世界からは離れるが、やはり「教える」ということを忘れられず、高校や専門学校の非常勤講師を経て、現職となる。
静岡産業大学は大学でありながら資格取得にも力を入れ、その結果、在学中官報合格者や一部科目合格者、簿記検定合格者を輩出することができ日々学生と一緒に目標に向かっている。


田中晃広(たなか あきひろ)
税理士
1979年静岡県生まれ静岡県育ち。大学4年生の頃ダブルスクールで税理士受験をしていた友人に感化され就職の内定を蹴って税理士を志すが日商簿記3級に4回不合格。大学卒業後2年を費やして日商簿記2級に合格し、会計事務所に勤務しながら税理士試験の勉強を続け17回目の正直で簿記論に合格。2020年に税理士登録し「ひとり税理士」として独立開業。
雇われない・雇わないスタイルで長過ぎた受験生活で失ったものを取り戻すべく自由を謳歌している他、税理士になるまでに18年を費やした経験を生かして税理士受験生の支援にも注力している。
趣味はゴルフ、ソロキャンプ、カフェ巡り等。
事務所ホームページ

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