蓮尾倫弘(公認会計士・TAC講師)
【編集部より】
公認会計士試験の受験生は多くが大学生をはじめとする学生です。既卒や社会人受験生は少数派であるため、試験に挑戦すること自体にハードルを感じている人もいるかもしれません。しかし、目指そうと考える人は多く、会計人コースWebに掲載している合格体験記にもあるように、実際は社会人合格者もいらっしゃいます。
そこで、今回はご自身も社会人経験を経て公認会計士試験に挑戦された蓮尾倫弘先生(公認会計士・TAC講師)に、日頃よく寄せられる社会人受験生からの質問をQ&A形式でまとめていただきました。2023年、キャリアチェンジを目指して資格取得を検討中の方から、すでに挑戦中で不安のある方まで、ぜひ参考にしてください。
社会人受験生ならではのよくある相談
自習室で勉強をしているとき、周りを見回してみても20歳前後の学生が多いのではないでしょうか。
私自身は、大学を卒業した後、大手総合電機メーカーに就職したものの一念発起し、公認会計士試験にチャレンジしたという経験があります。そして、試験に合格したのは31歳のときでした。合格後は大手監査法人で約12年勤め、2020年に独立開業。実務の傍ら、TAC公認会計士講座にて財務会計論(理論)の講師を務めています。
そのような経験を持つため、社会人受験生から相談を受けることも多く、それは学生の受験生にはない悩みもあるということを感じています。ここでは、その中でも特にはじめによくある質問にQ&A形式でお答えします。
Q 会社を辞めて会計士を目指すとき、何からスタートしましたか?
実は、私は会計士になろうと思って会社を辞めた訳ではないんです・・・。
日々働いている中でサラリーマンとしての限界を感じたというか、「自分はもっとビッグになってやる!」みたいな感じで、あの音楽グループのEXILEのオーディションを受けたりもしていました(笑)。その後、地獄が待っているとも知らずに。
でも、今思えば、当時の私の稚拙な考えが、最難関資格の一つである公認会計士試験に挑戦させることになるので、結果としてはよかったのだと思います。
さて、話を戻しますと、会社を辞めて、フリーターとして将来の目標もなく過ごしていた時に、たまたま「簿記」に出会ったんですね。時間は十分にあったので、「一度、勉強してみるか」と思って、日商簿記3級から始めました。
きちんと勉強してみると、簿記は意外と面白いと感じることができ、「これは自分に向いている」と思い、その先に何があるのかを調べたところ、究極が公認会計士だったので、気づいたらTACへ申し込みをしていました。
Q 年齢はネックになりますか?
大手監査法人への就職を考えた場合、正直言うと全くネックにならないという訳ではないと思います。
私自身は関西出身で、受験も大阪でしていたので、就職も大阪の大手監査法人と考えていました。しかし、31歳の合格時は、ちょうど会計士の就職氷河期にさしかかる時で、大阪の大手監査法人へは就職できず、東京の大手監査法人に就職しました。
その後、監査法人でマネージャーになり、採用面接を担当するようにもなりましたが、個人的には年齢はそれほど気にしませんでした。「なぜ会計士を目指したのか」、「監査法人で何をしたい、何ができるのか」という考えをしっかりと示してくれることができれば、私は採用することにしていました。
ただし、30代後半以降の方の採用面接では、その方がずっと監査法人で働いていたとしても、パートナーにはなれない可能性があることや、もしパートナーになったとしてもその役職で過ごす年数は少ない可能性があることについて、ご本人にも確認をとっていました。
Q 何年計画で受験期間を考えればよいですか?
これも個人差があると思いますが、合格までの平均年数は2~3年です。TAC等の資格専門予備校の一般的なカリキュラムが2年前後になっていることからも、3年の受験期間を考慮に入れ、「まずは2年で合格すること」を目標にすることがスタンダードだと思います。
私自身がどういう受験生活を送っていたのかですが、実はこのスタンダードなものとはかけ離れていました。日商簿記2級合格後、1年コースで勉強を開始しましたが、アルバイトも続けていたので、1日の勉強時間は4~5時間程度。講義を消化するのがやっとで、復習がほぼできない状態で最初の短答式試験を向かえました。
結果は当時5択の試験で2割程度しか取れず、「1年間何をやってきたのだろう…」となりました。完全に戦略ミスですね。
受験がかなり昔の話とはいえ、学習開始前にもう少しいろいろな人のところに行き、情報を集めるべきでした。当時は短答式試験が年に1回しかなかったので、その後は翌年の短答式試験と論文式試験の合格を目指すコースになるのですが、2年目からはアルバイトを辞め、専念生となりました。しかし、その後も2年間短答式試験に合格できずに、3回目に落ちた際にはショックで、数ヵ月引きこもっていました。
一度受験から撤退し、再度将来を模索していたのですが、すでに会計士試験に合格した友人の励ましにより、もう一度勉強を再開し、TACで運営のアルバイトをしながら、5年目でやっと合格することができました。
私がなぜ5年もかかってしまったのかというのは、今回の企画とは異なりますが、「計算科目を疎かにしていたから」です。受験期間や勉強する科目の時間配分など、私自身が目測を大きく誤り、受験が長期化したという経験を皆さんに味わってほしくないという思いから、受験生の方にとって最短で合格できる勉強法について学習相談などの機会にアドバイスしています。
Q もし合格できなかったら…と考えると不安です。つぶしは効きますか?
こちらもよくいただく質問の一つです。特に既卒専念で職歴がない方が多く抱える不安だと思いますが、社会人受験生の方にとってもその不安はやはり同じです。
私自身もいつになったら合格できるのか、先が見えないこともありましたし、ある程度合格が見えてきた頃でも本当に自分が合格できるのか、信じられないこともありました。社会から切り離され、自分は世の中に必要ない人間だと思っていました。
そのうえで私が回答していることは、受験を続ける以上、不安は必ずあり、それはどんな人でも抱えていることです。不安になる気持ちは当然わかりますが、それを考えても何の解決にもなりません。「自分は必ず合格できるんだ」という強い気持ちを持って、少しでも前に進むように励ましています。
また、この試験の最終関門である論文式試験は、5割程度解答できれば合格できるという試験内容であり、専門学校のテストもある程度それに合わせて作成されています。そのため、特に初学者のうちはほとんどの問題に正解できないという自己肯定感が低い世界で過ごさなくてはならないことになります。不安に思ったら、「それはみんなが同じ気持ちを抱えていて、自分だけではない」と思うことが安心につながるのかもしれません。
つぶしは効きますか、という問に対しては、受験を撤退するとなった場合には簿記1級の取得又は税理士試験の簿記論、財務諸表論の科目合格をすることを勧めています。これらが取得できた場合には会計業界への就職に有利になりますし、取得できなくてもこれまで勉強した会計の知識が役に立たないということはありませんので、何らかのつぶしは効くと考えています。
Q 就職先はありますか?
公認会計士試験に合格した場合には必ずあります。
大手監査法人に限定した場合、30代以降となれば、職歴の有無、コミュニケーション能力次第で個人差が出てくる可能性があります。準大手、中小監査法人になれば比較的どのような方でも採用されやすくなるといったイメージです。
監査法人以外にもはじめから事業会社や税理士法人に就職する方もいます。とにかく会計士試験に合格することができれば就職先がないということはありませんし、多くの方が語られるようにこの試験はある特殊な能力を必要とするものでもありません。
地道にコツコツと努力を続けていけば必ず道は開けてきます! 自分を信じて最後までやりきっていただくことを願うばかりです。
【執筆者紹介】
蓮尾 倫弘(はすお ともひろ)
公認会計士
大学卒業後、大手総合電機メーカーに勤めるも一念発起し、公認会計士試験にチャレンジ。31歳で試験に合格し、合格後は大手監査法人にて、IPOから上場企業、外資系企業の幅広い監査実務に約12年従事。2020年に蓮尾総合会計事務所を設立し、IPO準備会社の監査役、会計コンサルティング・税理士業務の傍ら、TACで公認会計士講座の財務会計理論講師として教壇に立つとともに、財務会計分野を領域として企業研修講師も実施。
・Twitter(@dandyhasuo_tac)