わたしの独立開業日誌#新春特別企画 #士業のブランディング #弁理士・山田龍也先生


【編集部より】
新年あけましておめでとうございます。本コーナー「わたしの独立開業日誌」では税理士をはじめとする独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただいています(木曜日の隔週連載)。
独立する際に悩むのは「自身の売り」をどうアピールしていくか、ではないでしょうか。そこで、新春特別企画として、弁理士でネーミングプロデューサー、士業のブランディングセミナーが話題の山田龍也先生にご執筆いただきました。

はじめに~AI化と高まる士業の不安

はじめまして。弁理士の山田龍也です。ネーミングプロデューサーとしても活動しています。

最近は、商標登録をする士業も多く、その関連で「士業のブランディング」について、セミナーを依頼されるようになりました。

2022年のクリスマスにも「士業ブランディングセミナー」を開催しました。クリスマスという日程にもかかわらず、多くの参加があり、関心の高さを感じました。

そのなかで、参加者から以下のような声がありました。

許認可申請書類や登記申請書類を、規定のフォームに⼊⼒するだけで作成できる「freee許認可」や「freee登記」なるサービスが最近出現しています。
システムの精度が⾼まってきた場合は、価格競争にすらならなくなるのでは…?という不安があります。

従来から、

●エストニアでは電子政府が実現して、税理士や会計士がいなくなった
●行政書士、税理士、弁理士の仕事はAIによって代替される可能性が高い

といった報道もされています。

独立開業に不安を抱く士業や受験生も多いでしょう。

この記事では、上記のような不安を払拭する対策として考えて欲しい「ブランディング」について解説します。

「士業の金太郎飴化」に巻き込まれないための対応策。それがブランディング

なぜ士業にブランディングが必要なのか?

簡単に言えば、「士業の金太郎飴化」に巻き込まれないためです。

士業は法律で定められた独占業務をしており、どこの事務所でもサービス内容は似たり寄ったりです。そして、仕事のクオリティや専門性の違いは士業を探している見込み客にはわかりません。

見込み客から見ると、士業はみんな金太郎飴のように同じ顔に見えているのです。

見込み客の目から見て「同じ(に見える)サービス」は費用が選択の基準となり、価格競争・値下げ競争になります。価格競争になれば、最終的には低価格を売りにするAIサービスに仕事を奪われます。

そうならないようにするためには、ブランディングで、仕事の質の高さ、自らの専門性、サービスの独自性をしっかりアピールすることが必要になるのです。

ブランディングは業務上の信用を蓄積し、顧客獲得に繋げていく活動

「ブランディング」というと難しく感じますが、意外にシンプルです。

「ブランディング」とは、

●競合の士業とは異なる、オリジナリティのある仕事をすること
●その仕事で顧客に喜んでもらい、業務上の信用を蓄積していくこと
●蓄積された信用をアピールし、さらなる顧客獲得に繋げていくこと

です。

「ブランディング」では「選ばれる理由」が必要です。それは競合の士業にはない独自の価値・強みです。

ただし、仮に自分が「税務相談」が得意だと思っても、競合も「税務相談」を提供していればあなた独自の強みとは言えません。

その場合は、自分の強みをもっと具体的に掘り下げてみてください。例えば、「スタートアップ企業の税務相談」(業界特化)や「チャットでいつでも相談可能」(独自サービス)など、競合との違いが出るまで、自分の仕事の特徴を具体的に掘り下げることで突破口が見えてきます。

また、仮にサービスに独自性があっても、見込み客が求めていないのでは意味がありません。

マーケティングの3C(Company,Competitor,Customer)を意識し、常に「自分」、「競合」、「顧客」の3方向から、ブランドが提供する独自の価値を考えることで、自分のブランディングの方向性が見えてきます。

士業ブランディングに有効な「肩書きネーミング」

ブランディングでは「業務上の信用を蓄積していくこと」が大事です。

しかし、ただ良い仕事を続けているだけでは折角得られた信用が蓄積されず、垂れ流しになってしまいます。

獲得した信用を貯める壺となるのが「ネーミング」です。あなたの仕事のオリジナリティを言語化し、短くシンボリックに表したネーミングを用いて仕事をする。そうすることで、ネーミングに業務上の信用が蓄積されていくのです。

最近、士業ブランディングによく用いられているのが「肩書きネーミング」です。

例えば、「●●弁護士」といった肩書きで自分の仕事の独自性を表現する手法です。

「肩書きネーミング」は、

●覚えてもらいやすい(氏名や事務所名より親しみやすい)
●金太郎飴化を防げる(競合の士業と差別化しやすい)
●仕事に繋がりやすい(自分の業務上の特徴をアピールすることができる

などのメリットがあります。

「肩書きネーミング」の商標登録事例

以下、実際に士業がした商標登録事例の中から、ユニークな「肩書きネーミング」を3つのタイプに大別して紹介します。

①キャラクター型

自分のキャラクターを表すワードを入れ込むタイプです。例えば、「画伯弁護士」、「パエリア弁理士」、「えんじぇる税理士」、「ヲタク行政書士」、「ヨーヨー社労士」などがあります。

ワードの選択幅が広く、比較的、競合と重複し難いのがメリットです。しかし、平凡なワード(例えばゴルフ、テニスなど)を選んでしまうと、それを名乗る資格があるかを問われます。また、業務と無関係のワードの場合には、仕事に繋げる動線を工夫する必要があります。

②業務特化型

専門の業務内容や顧客の属性を表すワードを入れ込むタイプです。例えば、「相続弁護士」、「ブランド弁理士」、「日本一生命保険に強い税理士」、「ドローン行政書士」、「コンビニ社労士」などがあります。

仕事に結びつきやすいのがメリットです。しかし、そのワードを使いたい競合が多数存在すると、ワードの奪い合いになるおそれがあります。また、業務内容を説明しているに過ぎないワードを選んでしまうと、差別化・ブランド化が難しいケースも出てきます。

③コンセプト・理念型

仕事に対する考え方・姿勢などをワード化するタイプです。例えば、「爆速」、「デジタル士業」などです。「爆速」(弁理士)はスピーディーなサービス提供を、「デジタル士業」(社労士)は士業のデジタル化、IT化による顧客貢献を目指しています。

世界観を醸成することができ、見込み客からの共感を得やすいのがメリットです。ただし、コンセプトや理念が漠然としすぎていたり、専門的すぎると、見込み客からの共感を得られないおそれもあります。

おわりに

最後に大事なことを一つ。

ユニークな肩書きを作り、商標登録をしたにも拘らず、ブランディングがうまく行っていない人がいます。その理由はネーミングをろくにアピールせず、情報発信による周知も行っていないからです。

ブランディングに成功している士業は例外なく自分のメディア(ブログ、SNSなど)をもち、自分の考えを発信し続けています。
ネーミングの世間的な認知度を上げていくために、情報発信戦略も併せて実施していくことがブランディング成功の秘訣と言えます。

プロフィール
山田 龍也(やまだ たつや)

クロスリンク特許事務所 代表弁理士/ネーミングプロデューサー/知財活用ダイレクター。化学メーカーの研究開発職として挫折、弁理士資格の取得にも15年を要した苦労人。2011年弁理士登録。2015年独立開業。中小製造業によくある「良い商品なのに売れない」のお悩みをローテク製品の特許取得、知的財産(特許・商標)を活用したブランドづくり、商品名のネーミングで解決している。

事務所ウェブサイト https://xlinkpat.jp/
Twitter @sweetsbenrishi



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