【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。
ゼロから「ひとり社労士事務所」を開業
皆様、はじめまして! 大阪で開業しております社会保険労務士の橋本麻由美と申します。
社労士試験に合格したあと、実務経験もないまま2016年に独立開業しました。今回は、開業までの経緯やこれまでの経験についてお話を共有できれば嬉しいです。
資格取得を目指したのは焦りから・・・
結婚を機に退職して、27歳で第1子を出産。その時に、がんにり患していることがわかりました。
8カ月間の入院加療を経て、社会復帰をすべく仕事探しをしましたが、病後で体力低下も著しく、また通院が必要であったため、フルタイム勤務は諦めざるを得ませんでした。
数年経ち、医療機関で入力事務パートとして勤務していた時、ふと思いました。
「このまま入力の仕事をずっとしていくのだろうか」と。
当時、30代半ばで、おそらく多くの人が一度は考えるかもしれない「手に職をつけたい」「このままでいいのだろうか」という焦りにも似た感覚がありました。
そこで、夫が自営業をしていたこともあり、なじみのあった税理士を目指すことにしました。
簿記3級を妊娠中に取得していたことから安易に受講を決めましたが、2年間勉強するも撃沈。
今思えば、覚悟も勉強時間も全く足りていませんでした。考えが甘すぎました・・・。
そんな折、勤務先の先輩に勧められたのをきっかけに「社労士受験」を決意。
税理士試験ですでに2年も家族に迷惑をかけてしまっていたため、まさに背水の陣でした。
人生で一番勉強したかもしれない
社労士受験では、専門学校の通信講座で学んでいたため、孤独でした。時間管理や勉強方法で悩むことが増え、ふと目にしたブログで知った受験生向けの勉強会へ月に1回参加するようになりました。
自分に合う勉強方法を見つけるべく、良いと聞いたものはすべて試し、最終的には「カードに書いて暗記する」という方法を活用しました。
受験仲間がいたことは、私にとってはつらい受験時代を乗り越える大きな力となりました。スキマというスキマ時間はすべて勉強に費やしました。
下の子どもがまだ2歳で夜泣きも激しく、泣きわめく子どもを抱きながら夜中にテキストを広げたり、お手洗いにも暗記グッズを置くなど、家族は呆れていましたが必死でした。
本試験では、手応えが全くなかったため諦めていたのですが、無事1回で合格できました。
受験勉強中の私は鬼の形相だったそうなので、私以上に家族が安堵したのは間違いありません(笑)。
「何もない」のに開業を決意
いわゆる「金なし、コネなし、経験なし」で、本当に「何もない」状態で開業しました。
何もわからないまま開業したので、まずは「創業」「開業」といったキーワードで情報を収集。自分の経験が誰かの役に立つかもと思いブログも始めました。
「1,000記事到達」を目標に毎日ブログをアップすることを決め、活動記録も兼ねて綴り始めました。
「金なし」に対して
・日本政策金融公庫から開業資金借入
「コネなし」に対して
・SNSの活用を始め、知り合った先輩社労士に事務所訪問
・商工会議所が主催する創業塾に参加
・面白そうだと感じた交流会やセミナーに参加
「経験なし」に対して
・社労士事務所で短期バイト
・実務書をたくさん購入
・目の前にやってきた仕事は何でもやろう!と決意
・自主開催のセミナーを企画
創業時の借入金で準備したもの
パソコン(持ち運び用にSurface)、プリンター(スキャン付)、鍵付きキャビネット、社労士業務ソフトなど。残りは運転資金に回しました。
補助金を活用できるということをあとで知りました。情報収集は大切だと痛感しました。
集客のために試したこと
開業後すぐの時間があるときに、ホームページを自作することにしました。
IT関連の知識はゼロだったので、WordPressの本を購入して試行錯誤しながら作りました。コンテンツを考えたりする時間も含めて30時間くらいかかったと思います。
他には、毎月定額を支払う広告を試したこともあります。ニュースレターを作成してメルマガで配信することは今も続けています。
まずはやってみる精神で
何もないところから始めたので、名刺を作るところからすべてが「初めて」でした。
都度、調べたり、周りに聞いたりして、お仕事の進め方も含め、参考になるところは真似をしたり勧められたことはトライしてみました。
最初のお仕事は、ブログからのご縁で、会社設立に伴う社会保険等の手続き業務でした。
その後、先輩や他士業の方からのご紹介で助成金業務や顧問業務など、少しずつお仕事がいただけるようになりました。
税理士、弁護士、司法書士の先生とチームを組んでお仕事をしたこともあります。
ほかには、人前で話をした経験もないのに、いきなり自主開催でセミナーをしてみたり・・・(笑)。
社労士受験生向けの雑誌の執筆など、周囲の方からのご縁でいろいろな仕事を経験することができました。
現在は、障害年金の請求サポートをメインに行っており、税理士の先生からも「顧問先のお客様で障害年金を検討されている方が・・・」とご相談をいただくこともあります。
やっておけばよかったと思うこと
営業戦略を立てる
営業が全くできず、売上目標を立てることもしていませんでした。
目の前に来たお仕事をすることで精いっぱいで、自分の強みや自社サービスを知ってもらう方法もわからず、自分を見失い、迷走していたように思います。
無駄な動きが多かったかもしれません。自分の棚卸をしておくことは大切だと感じました。
ペーパーレス化
はじめからペーパーレス化を意識しておくべきだったと思っています。
勉強会や業務関連資料やお客様情報等、まだまだ紙で保存しているものが多いです。
業務が増えてくると、膨大な量のスキャン等の作業時間を確保するのは難しいですね。
事務所を借りる場所についてよく考える
しばらくの間、自宅開業でしたが、地震で被災したことをきっかけに家庭環境に変化があり、シェアオフィスを利用することにしました。
お客様の来社頻度や利便性、郵便物の転送方法などを考慮することも大切ですが、家庭事情やオンオフの切り替えなど、何を優先したいのか、ご自身の考え方で選び方は異なってくると思います。
独立開業は「孤独」ではない
1人で開業して仕事をしているには違いないのですが、決して「孤独」ではないと思っています。
志を同じくする同業の仲間もいます。
自らが行動すれば協力してくれる人や指導してくれる人も見つかります。
仕事のミスはすべて自責となり、厳しくつらい時もありますが、それを共有することがほかの方の学びになることもあります。
開業の魅力
開業の魅力は、仕事の裁量を自分で決められるところだと思います。
ひとり事務所の場合、「どんな事務所にしたいのかを自分でデザインすることができる」という醍醐味があります。それに加えて、「人とのご縁」です。
たくさんの繋がりができて、様々な価値観を共有することができます。
開業にあたり、何も計画性のなかった私ですが、唯一「理念」だけは決めていました。
それは、事務所運営をしていく中で生じる迷いや不安で頭がいっぱいになった時に立ち返る志のようなものです。
これを心の拠り所としてこれからも感謝の気持ちを忘れずに成長していきたいです!
【執筆者紹介】
橋本 麻由美(はしもと まゆみ)
特定社会保険労務士・キャリアコンサルタント。
2016年に大阪にて開業。2018年、社労士と親和性の高いキャリアコンサルタント資格も取得。現在、社労士としては障害年金請求業務に注力している。障害年金専門事務所での3年間の経験を活かし、障害年金という安心をお届けできるよう日々取り組んでいる。また、キャリアコンサルタントとしては民間職業訓練校にて就職支援業務に従事。両業務において「人生(ストーリー)を聴く」という共通点を大切にしている。
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