中央経済社が刊行している『財務会計講義』(桜井久勝著)。
これまでたくさんの方に読まれ、今年3月に第23版を重ねたベストセラーです。
今回は、そんな『財務会計講義』を税理士試験・財務諸表論の理論学習に使われていたという合格者のKIさんにお話を伺いました。
60歳から税理士試験にチャレンジし、会社に勤務しながら、大学院に通いながら、受験科目すべてに独学で合格されたKIさん。現在は、税理士として開業準備のかたわら、大学院の博士課程で研究活動にも励まれています。
そんなパワフルなKIさんですが、どのように『財務会計講義』を勉強に活かしていたのでしょうか?
独学をされている方はもちろん、すべての受験生が必見です!
『財務会計講義』の魅力は「薄くて濃い」ところ!
――『財務会計講義』を読もうと思ったきっかけは何ですか?
KIさん 財務諸表論に限らず税理士試験は、『財務会計講義』のような基本書を読んで学習しました。
今の若い方は、子供の頃から塾などに通い、受験対策に特化した学習に違和感がないかもしれません。
実際、予備校のテキストを丸暗記して合格することも可能だと思います。
しかし、それでは表面を覚えるだけで、本質を理解することはできません。
大学院で博士課程まで進んだように、もともと勉強するなら本質まで深く知りたいという性格だったので、その道の専門家が書いた本を読むと決めていました。
これは税理士試験に限った話でもないのですが、学習にあたっては、科目のイメージをつかむことが大事だと考えています。
科目のイメージをつかむというのは、科目の全体像を理解するということです。
そのためには、1人の著者が一貫して書いた本を読むのがちょうどよいと思い、定評のあった『財務会計講義』を読むことにしました。
――『財務会計講義』のよかった点はどこですか?
KIさん なによりも「薄い」、これに尽きると思います。
第23版は464ページあるようですが、「財務会計」という分野を1冊にまとめようとすると、もっと厚くなるのではないでしょうか。
私も受験生向けに「会計」の本を書こうと思えば書けるかもしれませんが、色んな本のつぎはぎになるでしょうし、自分で考えて短くまとめるというのは、なかなか難しいと思います。
ただ、本が薄ければ内容も薄いと誰もが思うはずです。しかし、『財務会計講義』の内容は濃く、しっかりアップデートもされています。
端的な表現のなかに大事なことが詰まっている。これが『財務会計講義』の大きな魅力だと思います。
「財務会計」の世界を手のひらに凝縮させる
――どのように『財務会計講義』を読んでいましたか?
KIさん 本試験の1年くらい前から読みはじめ、1回目は最初から最後までざっと目を通しました。電車で通勤していたので、その時間を利用し、1ヵ月ほどかけて読みました。その時点で疑問に思ったところは、しおりを挟んだり、書き込んだり、印をつけておきました。
そして2回目以降は、休日に机の前で、じっくり考えながら読みました。ですので、2回目以降のほうが、読み終わるまでに時間がかかっています。そうして、本番直前まで使い続けました。
すすめたい読み方としては「クロスレファレンス」です。
あるページに関連するページがあったら、それぞれに「cf.」とページ番号をマークし、相互に参照しながら読む方法です。
そうすると、色んなページに散らばっているポイントが1つにまとまり、自然と全体が見えてくるようになるんですね。
さまざまなページを行ったり来たりしながら、「財務会計」の世界を手のひらに凝縮させるようなイメージで読んでいました。
――なるほど、すごくイメージしやすいです。
KIさん もう1つは「目次」が重要です。
おそらく「目次はページ番号を調べるのに使うくらい」という方がほとんどだと思いますが、私の場合は「目次を読む」時間を設けていました。
そこで、「この章にはこういうことが書いてあったな」「これはあの節にも書いてあったな」と思い出すんです。
先ほど、「財務会計」の世界を手のひらに凝縮させると話しましたが、それができていれば、たった数ページの目次を読んだだけで、何について書かれた章・節なのか、他の章・節とどう関わっているのかが自然と見えてきます。
ですので、試験前は目次しか読みませんでした。
――『財務会計講義』を読んでつかんだ“全体像”は、ノートなどで別に整理していたのでしょうか?
KIさん ノートなどは一切使っていません。たとえば、『財務会計講義』だけで理解できないことがあれば『スタンダードテキスト』(中央経済社)など他の本も参考にしていたのですが、そこで仕入れた情報も『財務会計講義』に書き込んでいました。
『財務会計講義』さえ読めば、すべてがわかる。私にとって『財務会計講義』は、財務会計のインフォメーションセンターのような存在でした。
別にノートを作ったりすると、情報がバラバラになり、ただでさえ広い「財務会計」の世界が手のひらに収まらなくなります。
ですので、余白に書き込んだり、書ききれないときは大きい付箋を貼ったり、とにかく『財務会計講義』に情報を集約させるようにしていました。
――財務諸表論(理論)の対策としては、『財務会計講義』だけで問題はありませんでしたか?
KIさん 問題ありませんでした。実際に問題集を解いたり、予備校の公開模試を受けたりすることもなく、最後の最後まで一貫して『財務会計講義』を読み続けました。
たしかに、税理士試験の税法科目に関しては、理論の暗記が必要な側面もあります。しかし、財務諸表論で求められることは必ずしもそうではないと思っていましたし、自分の言葉で文章を書くのが好きだったので、試験では筆が進みました。
というよりも、『財務会計講義』を読んでいただけなので、そもそも「暗記している」ことは少ないんですね。絶対に書き漏らしてはいけないキーワードを入れることだけは忘れず、あとは「理解している」ことを自分の言葉でつなげるようにしました。
実際に合格できたことを考えると、そのような答案のほうが採点者にとっても読みやすいのではないでしょうか。
ただ丸暗記しただけの長い文章をつらつら書いても要点が見えてきませんし、書いているうちに論点がずれたりすることもあると思います。特に、理解しないまま文章を覚えているだけでは、なおさらそうかもしれません。
最初に『財務会計講義』は「薄い」と話しましたが、端的に解説されているからこそ、自分の頭をフルに使って文章の意味や背景を捉えていくことが必要になります。私はその過程のなかで自然と、暗記せずとも「財務会計」を理解できるようになりました。
そのため、『財務会計講義』を読むだけで問題はありませんでしたし、全体像が頭に入っているので、どんな問題が出ても怖くありませんでした。
まずは自分で読んでみることが大事
――KIさんは税法科目でも基本書を読まれたそうですが、基本書を選ぶポイントはありますか?
KIさん 受験した全科目で基本書を読んで気づいたのは、「薄い本1冊で十分」ということです。最初から無理に分厚い本を選ぶ必要はないと思います。
分厚ければ読むだけで疲れますし、今は情報がなんでも手に入る時代。クロスレファレンスをはじめ、他の本やインターネットなども駆使すれば、自分の力で本の内容を厚くすることができます。
ただ、自分に合った本は人によって違います。ですので、誰かのアドバイスを鵜呑みにするのではなく、まずは書店などで手に取ってみることが大事です。
最初は立ち読みでいいと思います。「読みやすい」と思ったら、それが自分にとっての基本書です。
「みんながいいと言っているけれど、自分には合わないな」。そう思ったら、読まないほうがよいと思います。そういった本を無理に読み続けていると、だんだん自分の思考と本の思考がずれていくんですね。
そのため、定評のある本が何冊かあるようであれば、まずは自分で読んでみることをおすすめします。
読者へのメッセージ
――最後に、読者にメッセージをお願いいたします。
KIさん 『財務会計講義』を覚えたら合格できますか? そう言われたら、それは違います。なぜなら、『財務会計講義』は覚える本ではなく、理解する本だからです。
たとえば、『財務会計講義』の文章をそのまま答案として書いても合格はできないと思います。
『財務会計講義』は1つひとつの文章や段落にポイントが凝縮されており、さまざまな文章同士を関連づけるからこそ、自分なりの答案が書けるようになります。
そういった意味で『財務会計講義』は、自分の力で理解を深めるのにちょうどいいツールですね。
仕事をするうえでも、ただ暗記した知識というのは役に立ちません。
将来的に専門家として活躍するなら、せっかくの受験の機会。ここで土台となる知識を身につけたほうがよいと思います。
そのために、ぜひ『財務会計講義』のような、自分に合った基本書を1冊読んでみてください。
――ありがとうございました!
最新25版が発売中!
【書誌情報】
著者:桜井 久勝
定価:4,180円(税込)
発行日:2024/03/22
A5判 / 464頁
ISBN:978-4-502-50071-8
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