井上 修
(福岡大学講師・公認会計士)
公認会計士論文式試験まであとわずかとなりました。受験生の皆さんは勉強も大詰めといったところかもしれませんが、すべての論点を網羅的に学習できているという方は少ないのではないでしょうか。もちろん「対策していない論点=合否を分けない論点」と考えるのがセオリーです。しかし、受験生が対策していようといなかろうと「出やすい論点」というものが存在します。そのなかには、専門的かつ実務的で、受験勉強の段階で対策を講じることが難しい論点も多くあります。そこで今回は、財務会計論の理論部分において、「出題されやすいのに受験生が対策できていないであろう論点」に焦点を当てて解説していきたいと思います。受験生が注意すべき問題は以下の3つです。
1 実務家特有の論点
2 短答式試験の論点
3 計算と理論の融合
本記事では、実務家特有の論点についてみていきます。
実務家特有の論点
実務家が作問する場合、何の制約もないとすれば、「実務家ならでは」の論点が問われる可能性は高くなります(当たり前ですが)。実務家特有の問題の特徴は、「なぜ?」と理論を直接問う問題よりも、「判断(結果)」を問う問題が多いということです。
従来からの傾向と最新の状況の2つの観点からみて、実務家が好む論点は次の4つです。*
※ 過去の論文式試験、旧公認会計士三次試験、実務補習所の修了考査、さらに専門家向けの雑誌、実務家向けの研修内容、監査法人との情報交換などを踏まえて決めています。
・連結の範囲 ・会計方針の変更・見積りの変更 ・繰延税金資産の回収可能性 ・金融商品の時価情報の開示 |
これら実務家特有の論点は、受験生の皆さんにとっては難易度が少し高く、テキストや模試などでもあまり対策されない傾向にあります。しかし、実務家が作問する以上、出題される可能性が十分にあるので、1つずつ確認していきましょう。
連結の範囲
本試験で配布される「連結財務諸表に関する会計基準」に基本的な「連結の範囲」が示されています。配布される基準集に書いてある論点が問われた場合は、これを利用して冷静に解答してください。たとえば、次の問題をみてみましょう。
例題(平成29年 第5問 問題5 問1)
20X2年度期末にT社株式の45%を取得した段階において、同社をP社の子会社とする可能性があるが、子会社に該当するか否かの判定は、どのように行われるか説明しなさい。
連結財務諸表に関する会計基準第7項(2)には、「他の企業の意思決定機関を支配している企業」として、「他の企業の議決権の100分の40以上、100分の50以下を自己の計算において所有している企業」が示されています。例題1の場合、P社はT社の議決権45%を所有しているため、連結財務諸表に関する会計基準第7項(2)の内容をまとめることで解答できるものでした。
他に注意しておきたい論点としては、「重要性に基づく連結の範囲からの除外」というものがあります。実務上の判断基準を簡潔に示すと、「連結企業(親会社と子会社)の〇〇に占める割合が小さい子会社」です(3%~5%が目安)。
この〇〇に該当するのが①総資産、②売上高、③純利益、④利益剰余金です。たとえば、判断の対象となる子会社の売上高が、連結企業の売上高で占める割合が小さい場合に連結の範囲から除外できる可能性があります。
これを覚える必要はありません。「実務ではこんなことをしているんだ」と知っておくだけで十分です(この知識を1回見たというのが大事です!)。