【公認会計士論文式試験】計算と理論の融合問題をどう解く?


井上 修
(福岡大学講師・公認会計士)

ここ数年の財務会計論では、計算と理論が融合した問題が出される傾向が高くなっています。「財務会計論で1点でも多くとる解答戦略」という記事では、原則として理論から解くことを推奨しましたが、計算と理論が融合している場合は、どのタイミングで理論に取り掛かるべきでしょうか。この記事では、近年増えつつある計算と理論の融合問題の解き方をお話しします。

融合問題のパターン

まず、計算と理論の融合問題には、以下のように2つのパターンがあります。

① 計算部分を解かないと理論部分が解答できないパターン
② 計算部分を解かなくても理論部分に解答できるパターン

どちらのパターンかは、問題と解答欄を見れば判別できます。これから令和元年の本試験で出された計算と理論の融合問題を見ていきましょう。

まずは答案用紙の第4問 問題2と第4問 問題3の解答欄を見てみてください。

第4問 問2-1

解答欄を見てみると、第4問 問題2と第4問 問題3には、数値を書く解答欄の下に論述形式の解答欄があることがわかります。この点でパターン①「計算部分を解かないと理論部分が解答できない」という可能性が出てきます。

次に問題用紙のほうを見てみましょう。

第4問 問題

はじめに第4問 問題2を見てみると、「〔資料Ⅱ〕の取引の仕訳について,解答欄の〈  〉内に適切な勘定科目,(  )内に適切な金額を記入しなさい。また,その処理を行う理由を自己株式の性格に照らして説明しなさい。」と書かれています。

つまり第4問 問題2の場合、「その処理」の内容が明らかにならないと「理由」を論述できないので、パターン①に該当するといえます。

一方で問題3のほうを見ると、「計算しなさい」と「理由を説明しなさい」とあることから、計算問題と理論問題が独立していることがわかります。この場合はパターン②となり、セオリーどおり計算よりも先に理論を進めていくほうが得策です(典型論点ならなおさらです)。

会計処理を論述する問題

また近年、会計処理を数値で解答させるのではなく、記述式で説明させる出題傾向があります。

こういった問題が出たときは、「配布される会計基準集」に解答がある可能性を思い出してください。会計処理というのは会計の「ルール」に沿って行われるので、答えは会計基準のなかに示されています。会計処理を文章で説明するように求められた場合は、配布される会計基準集が頼りになります。

* 実務指針や適用指針にある会計処理に関しては、配布される会計基準集には載っていないので注意してください。

計算しないと理論は解けないのか?

ただし、会計処理を論述させる問題といっても、実質的に「計算問題」が含まれている場合があります。たとえば、令和元年の本試験の第5問 問4や第5問 問5を見てみましょう。

まずは解答用紙から。一見すると「論述問題」のように見えますね。

5-4-5

しかし問題用紙を見てみると、[資料]が提示されており、計算しないと問4や問5にたどり着けなそうです。

12-15

このように、解答用紙では独立した理論問題に見えても、実際には計算しないと論述できないものがあります。

ただし、ここで一つ留意してほしいことがあります。「計算しないと論述できない」といっても、問題文さえ読めば論述できる可能性があります。上記の第5問 問4や第5問 問5もそのパターンで、問題文にある「Z社」や「A社」が何かわかれば、実は解答ができるのです。

つまり、書こうと思えば計算を無視して論述できる問題があるということを覚えておいてください。

少し判別が難しいですが、令和元年の本試験の第4問 問題1 問2を見てみましょう。

04-1

一見すると問1の計算問題が関わっているように思えます。しかし、問われているのは「「退職に伴う数量の変動と条件変更に伴う評価単価の変動の会計処理」の説明(内容と理由)」です。これは、計算しなくても論述できるパターン②です。

本試験中に一瞬で判断することを踏まえると、問1→問2の順番で解く人もいると思います。しかし、大事なのは「なんだ、計算しなくても解答できるじゃないか」という理論問題が出るということです。よく「計算部分でつまずいたので、その後の理論部分は白紙にしました」という人がいます。これは本当にもったいないです。

あくまで重視してほしいのは、「よーいスタート」で真っ先に理論に目を向けられるかです。「計算でつまずいたから論述も白紙」という判断だけはしないようにしてください。

敵を知ることが大切

この記事は、「論文式試験をはじめて受験する人」を意識しています。初受験となると、意外なことに過去問をあまり見ないという人がいます。

たしかに1人で過去問を見ると難しく思えてしまい、「本当に自分が解けるのだろうか……」と不安になることもあります(私がそうでした)。しかし、今回の記事や他の記事では、本試験の問題を多く取り上げてきました。一緒に本試験を分析することで、過去問としっかり向き合うことができたと思います。

実際に本試験の問題を見たことがない受験生に、解説つきで過去問を何度も見せていくと、面白いことに「本試験がなんだか簡単に見えてきました」と変化してきます。本試験そのものは変わることはないので、皆さんが本試験と「お近づき」になっていくわけです。本試験と仲良くすることは「敵のふところ」に入るようなものですから、絶対的に有利なゲーム展開が可能になります。

色々とアドバイスをしてきましたが、大切なのは「実際の本試験を見てみること」。これが皆さんにとって一番の後押しとなるはずです。

〈執筆者紹介〉
井上 修(いのうえ・しゅう)
慶応義塾大学経済学部卒業。東北大学大学院経済学研究科専門職学位課程会計専門職専攻修了、会計学修士号(専門職)。研究分野はIFRSと日本基準の比較研究、特別損益項目に関する実証研究などであり、2020年度に博士号(経営学)を取得見込み。
福岡大学「会計専門職プログラム」では、現役の大学生が多数、公認会計士試験や税理士試験簿記論・財務諸表論に在学中の合格を果たしている。本プログラムから平成30年度は10名、令和元年度は5名が公認会計士試験に合格。

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