つぶ問3-3(簿記論)―資産除去債務

つぶ問で合格

「つぶ問」は、『会計人コース』2018年9月号~2019年8月号の連載「税理士試験 独学合格プロジェクト」簿記論・財務諸表論に連動してTwitterで週1回配信した問題です。「粒ぞろいな問題」を「つぶやく」ことから、「つぶ問」とネーミングしました。
合格には、勉強をしない日を作らないことと、スキマ時間を活用することが大切です。「つぶ問」は簿・財それぞれ平日1問ずつ更新していきますので、ペースメーカーとしてご活用ください<1‐1~11‐4(最終)>。

【問題】
資産除去債務の会計処理に関する下記の設問に答えなさい。なお,割引計算を行う場合には現価係数表に示された現価係数を用いること。

〔現価係数表〕

  1年 2年 3年 4年 5年
3% 0.9709 0.9426 0.9151 0.8885 0.8626
4% 0.9615 0.9246 0.8890 0.8548 0.8219
5% 0.9524 0.9070 0.8638 0.8227 0.7835

(問1)当社が保有する機械装置について,耐用年数到来時にこれを除去する法的義務がある。当期首時点から耐用年数までちょうど5年であり,除去に要する費用の見積り額は100,000千円であった。5年物の利付国債の利回りは年4%であった。当期首時点における資産除去債務の計上額を計算しなさい。

(問2)当期末を迎えて,除去費用の見積り額が150,000千円に増加した。当期末時点における4年物の利付国債の利回りが年3%であった場合,当期末における資産除去債務の残高を計算しなさい。なお,割引率は当期首時点(当初)または当期末時点(変更時点)のいずれか適切な方を用いる。

(問3)(問2)の条件を,「除去費用の見積り額が50,000千円に減少した」と読み替えて,その他の条件は同一とした場合,(問2)と同様のことを計算しなさい。

(問4)資産除去債務について,時の経過によって生じる利息費用や,資産除去時に生じる履行差額の会計処理上の取扱いについて,注意すべき点を述べなさい。なお,字数制限はない。

【解答】
(問1)82,190千円
(問2)129,905千円
(問3)42,740千円
(問4)会計基準上,利息費用は資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と「同じ区分に含めて」計上することとされている。また,履行差額は,除去費用に係る費用配分額と「同じ区分に含めて」計上することとされている。除去費用に係る費用配分額は,有形固定資産の帳簿価額に含められることから減価償却費として処理されるのが一般的だが,利息費用や履行差額は必ずしも減価償却費そのものに含められるとは限らないため,問題文の指示に従うようにする必要がある。

【解説】
資産除去債務に関する計算上の注意点を確認する問題です。(問2)および(問3)は,2018年11月号の財務諸表論の「資産除去債務」の最後に触れた,将来キャッシュ・フローの見積りに重要な変更が生じた場合の取扱いについての計算問題になりますが,第66回の税理士試験簿記論第二問での出題実績があることから,出題しました。

(問1)特に注意すべき点はありません。問題文の指示に従い,現価係数表の中から割引率(年4%)と割引く期間(5年)に対応する現価係数0.8219を用います。

 100,000千円×0.8219=82,190千円

(問2)将来キャッシュ・フローの見積りの変更によって,支払額が増加する場合には,当該増加部分50,000千円について,新たな負債が発生したと考えます。したがって,負債発生時(=当期末)における割引率である,年3%を用いなければなりません。当初から見積られていた100,000千円については引き続き年4%を用いますが,「当期末」を迎えて1年が経過していることから,割引く期間が4年になっている点にも注意を要します。

 当初の見積額:100,000千円×0.8548=85,480千円

 増加額:50,000千円×0.8885=44,425千円

 合計:85,480千円+44,425千円=129,905千円

ちなみに,この場合当期に必要になる仕訳(資産除去債務部分に限る)を示すと,次のようになります。

 ・期首計上分に係る利息費用の計上

(借) 利息費用 3,290 (貸)資産除去債務 3,290

利息費用は,当初の見積額100,000千円の,期首時点の現在価値82,190千円と期末時点の現在価値85,480千円の差額になります。現価係数表を用いた問題ですので,「除去債務残高×年利率」という計算はしません。

 ・キャッシュ・フロー増加分の追加計上

(借)機械装置 44,425 (貸)資産除去債務 44,425

(問3)将来キャッシュ・フローの見積りの変更によって,支払額が減少する場合には,当該減少部分50,000千円については,すでに計上していた負債が減少したと考えます。したがって,当初の割引率である年4%を用いて,残存する50,000千円の割引計算を行います。割引く期間が4年になっている点は,(問2)と同様,注意しましょう。

減少後の見積り額:50,000千円×0.8548=42,740千円

ちなみに,この場合当期に必要になる仕訳(資産除去債務部分に限る)を示すと,次のようになります。

 ・期首計上分に係る利息費用の計上

(借)利息費用 3,290 (貸)資産除去債務 3,290

 (問2)と同様です。

 ・キャッシュ・フロー減少分の減額処理

(借)資産除去債務 42,740 (貸)機械装置 42,740

キャッシュ・フローの見積額の減少により,資産除去債務の計上額のうち50,000千円×0.8548=42,740(ちょうど半額)が減少することになります。

(問4)解答の通りですが,「同じ区分」に含めるという点がポイントです。本誌でも触れたように,「除去費用に係る費用配分額」(=有形固定資産の帳簿価額に含められる部分)も,有形固定資産の減価償却という手続きに併せて費用配分するだけで,「減価償却費に含めて表示する」こととはされていません。
ましてや,負債側の資産除去債務に関して生じる利息費用や履行差額であれば,なおさら減価償却費そのものに含める積極的意義は乏しいともいえます。実際はその金額的重要性などから減価償却費に含めてしまうケースもあるとは思いますが,試験問題として問われる際には,会計基準の規定をどこまで理解できているかがポイントになります。

ですから,普段の学習でも,会計基準の文言を丁寧に読み解くという姿勢を持つことが重要だという意識を持つようにしましょう!

つぶ問は、2018年9月号~2019年8月号までの連載「独学合格プロジェクト 簿記論・財務諸表論」(中村英敏・中央大学准教授/小阪敬志・日本大学准教授)に連動した問題です。つぶ問の出題に関係するバックナンバーはこちらから購入することができます。


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