【連載・第4回】伝わる!ピッチデックの作成ガイド~ペインとターゲット


大野修平(公認会計士・税理士)

【編集部より】
ますます注目が増すスタートアップ企業。資金調達、マーケティング、人材採用など、ビジネスモデルを説明するさまざまな場面で、「伝わるピッチデックを作れるかどうか」がカギとなります。とはいえ、そもそもピッチデックとは何か? 事業計画書とはどう違うのか? ぼんやりしたイメージのままでは、よい資料には仕上がりません。
そこで本連載では、公認会計士として多くのスタートアップ企業をサポートし、ピッチデックの作り方についてもセミナーを行う大野修平先生(公認会計士・税理士)にその作成ノウハウを教えて頂きます。

<本連載バックナンバー>
第1回:「そもそもピッチデックとは?
第2回:「オーバービューの主要な構成要素
第3回:「環境セクション

本連載、早くも4回目になりました。
前回(第3回)の「環境」につづいて、今回は「ペインとターゲット」のセクションについてお話します。

ターゲットとはどのような属性の人たちにサービスを届けるかということであり、ペインはそれらの人々がどのような悩みを感じているのかについての説明です。

そして、その悩みが単なる悩みではなく、存在することで痛み(ペイン)を感じるような強烈な課題であれば、そこには大きなニーズがあるといえるでしょう。

ペインとターゲットのセクションの存在意義

ペインとターゲットセクションでは、ビジネスが解決しようとしている具体的な問題(ペイン)と、その問題を持つターゲット(顧客)を特定し、ピッチの聞き手に納得感を持って説明することが重要です。

前のセクションで分析した環境変化によりどんなペインが顕在化してきているのか、もしくは今はまだ潜在的だが今後顕在化しそうなのかを示します。

発達した現代において、全く解決されずに放置されているペインというのは考えにくいですが、解決策が十分ではなく、次善の策で妥協されているペインがないか、もしくは技術の発展により解決できるようになったペインはないか、といった観点でペインを探ります。

ペインはその深さ(重要度)だけでなく、広さ(市場規模)も大切で、これらが大きいほどその解決策の価値が高まります。

ピッチデックにおいてはペインを抽象度の高い問題として定義したのち、詳細なペルソナに落とし込むことで、聞き手がより具体的にペインをイメージしやすくなるとともに、その発展性を示唆することができます。

どのような理不尽な状況があり、なぜそれを解決しなければならないのかについて、聞き手の共感を得るのが、このセクションの目的です。

ペインとターゲットの主な要素

ペインとターゲットのセクションでは以下の要素を含めることで、聞き手の納得感が得やすくなります。

ペインポイント

ターゲット市場が直面している明確で具体的な問題やニーズを特定します。
起業家自身がターゲットのペインを深く理解していると示すことが重要です。

ターゲット顧客

どのような顧客がこの問題を経験しているかを定義します。
デモグラフィック(年齢、性別、所得等)やサイコグラフィック(趣味、価値観等)の観点から説明し、聞き手に実感を持って感じてもらえるようにします。

市場のニーズ

その問題がどの程度広がっているのか、またどれだけの人々がその解決を求めているかを示します。
身近なターゲット候補からアンケートを取るなどして、実際の声を集めるとともに、市場規模を推定します。

ペルソナ設定の例

市場がある程度絞りこめたら、ターゲットのペルソナを設定します。

これまでと同じく、テクノロジーを活用した新しい教育サービスのスタートアップを例に考えてみましょう。

教育サービスのターゲットとしては、教育を受ける子供も重要ですが、それと同じくらい、いや、それ以上に親の分析が重要です。

なぜなら代金の支払者は親ですし、意思決定の多くも親が握っています。ですので、ペルソナ設定も子と親の両方を行います。

ペインとターゲットセクションの作成ヒント

こうした分析を行った後、それを単に並べるのではなく、以下のような点に配慮することで聞き手の興味を惹きつける工夫をします。

具体的な事例の使用

実際のターゲット候補や顧客の事例や声を引用して、ペインポイントをリアルに感じさせます。

ターゲット顧客の詳細な描写

ターゲット顧客の詳細なペルソナを作成し、ターゲットが直面している問題を深く理解していることを示します。

ペルソナの設定では、年齢、性別、性質、趣味、職業、収入、家族構成、物理的なエリア、所有資産、行動パターン、共通の悩み事、リスクの受容度など、顧客属性を細かく設定し、ターゲットとそのニーズを明確化していきます。

視覚的な表現

ペインポイントやターゲット市場を示す際に、インフォグラフィックやイラストを使用して視覚的に表現します。

市場調査のデータ

市場調査やアンケートの結果を用いて、問題の重要性や市場のニーズを数値で示します。

感情的な訴え

ストーリーテリングを用いて、顧客の感情に訴え、問題の緊急性を強調します。

ペインの分析についてのTips

ペインとターゲットを分析にするに当たってのTipsも記載しておきますので、是非参考にしてみてください。

まずはペインの分析です。
ペインの分析は、B to Bと B to Cではアプローチが異なってきます。

B to Bの場合は、以下の 2つの点から自社がターゲット(企業)にどのように貢献できるのかを考えると良いでしょう。

・ターゲット企業の顧客属性や提供している価値は何か。
・ターゲット企業の競合にはどのような属性や規模の企業が存在し、ターゲット企業の競争戦略は何か。
(ターゲットが特定部門の場合も同様に、ターゲット部門へどのように貢献できるかを考えると良いでしょう。)

一方、B to Cの場合は、多様な消費者のペインをマーケティング調査によって分析します。

マーケティング調査は調査会社を使う大規模なものから、身近なターゲット属性の知人へのアンケートなど、規模や手法は様々なものが考えられます。

いずれにせよ、ペインを明確にすることで、サービスを研ぎ澄ますことができ、投資効率を高めます。逆にペインが不明瞭なままサービス開発をし始めると、不必要な機能を盛り込んだ、投資効率が悪く誰にも届かないサービスとなってしまいます。

ターゲットの分析についてのTips

ターゲットについては以下のような視点で分析を行うと良いでしょう。

市場の大きさ

特に、初期投資や固定費が大きい場合、市場も大きくなければそれを回収することができません。
一方で、大きな市場はレッドオーシャン化していることも多いので、投資を抑え中規模の市場を狙う(ブルーオーシャンではなく)ブルーポンド戦略もありです。

既存市場の成長性

競合に先駆けて参入してシェアを確保し、市場とともに成長することも効果的です。
もともと存在していた市場であっても、技術革新により業界構造が変わったり、成長が促進されたりすることは多いです。

新たな市場

未開拓の市場があれば、急速な事業展開を見込めます。
スタートアップならではの嗅覚と促進力で、市場を創造していきます。

支払能力

市場の規模だけでなく、その質も重要です。
支払能力が高いターゲットを相手にしたほうが利益を上げやすいのは言うまでもないでしょう。

需要の密度

需要が大きくても、地理的や時期的にばらついていると不効率になりやすいです。
需要がある程度まとまっている方が効率的に利益を得ることができます。

まとめ

今回はペインとターゲットのセクションについて説明してきましたが、いかがだったでしょうか?

いくつかのTipsと具体的な分析例をお伝えしました。
先程の例では、オンラインでパーソナライズされた教育コンテンツに対する高まる需要や伝統的な塾ではカバーできない学習スタイルやニーズに対応するため新しい教育ソリューションへの関心などに一定の市場がありそうなことが浮かび上がって来たと思います。

ペインとターゲットから市場を探索したり、逆に市場におけるペインとターゲットを分析したりすることで、ご自身のピッチの裏付けをより強固にしていくことが重要ですし、おそらくそれがビジネスの成長にも寄与すると思います。

さて次回は、「解決策と提供価値」のセクションです。
ピッチデックにおいて最も重要なセクションとなりますので、こちらもお楽しみに!

<執筆者紹介>

大野修平(おおの・しゅうへい)

公認会計士・税理士
セブンセンス税理士法人 ディレクター
大学卒業後、有限責任監査法人トーマツへ入所。金融インダストリーグループにて、主に銀行、証券、保険会社の監査に従事。トーマツ退所後は、資金調達支援、資本政策策定支援、補助金申請支援などで多数の支援経験がある。また、スタートアップ企業の育成・支援にも力を入れており、各種アクセラレーションプログラムでのメンタリングや講義、ピッチイベントでの審査員および協賛などにも精力的に関わっている。
・Xアカウント(@Shuhei_Ohno

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