【商業高校出身会計士のキャリア】「基本論点を中心とした勉強法」はあらゆる難関資格試験に通ずる


菅沼 匠(公認会計士・弁護士)

【編集部より】
以前、とあるテレビ番組で「商業高校芸人」がテーマとして取り上げられ、界隈では話題になりました。以前から気になっていた「商業高校出身」の公認会計士にフォーカスするなら今では!?ということで、本企画が立ち上がりました!
一般的には、商業高校卒業後は就職する人が多いというイメージがあると思われますが、今回の企画では、商業高校を選んだ理由から公認会計士を目指すきっかけ、商業高校ならではの強みなどを伺いました。商業高校出身の現役受験生や合格者の方はもちろん、現役の商業高校生にも、将来について考えるきっかけになるはずです!

簿記」との出会いが人生の転機となる

中学生時代、漢文やサイン・コサインを勉強したとき、「これらが将来の何の役に立つのか?」と疑問に思うとともに、「勉強のための勉強」はしたくないと感じ、早く就職したいと考えるようになりました。

とはいえ、高校進学は一般的であったことから、「就職後に役立つ実学を勉強したい」と考えて、地元・長野県の商業高校に進学しました。

商業高校のカリキュラムは、情報処理、簿記、マーケティング、税務会計(選択科目)、商業法規といった「お金」や「業務」に関する実学に触れることができました。
特に、情報処理や簿記は、「全商検定」「日商検定」といった検定制度とリンクしているため、学校の勉強が検定取得にも直結します。
「お金」や「業務」の知識が証明書付きで得られ、「将来のための勉強」というものを実感できました。

このような商業高校生活において、特に「簿記」の勉強をするにつれ、会計がわかる人は会社の行動が読み取れること、節税方法がわかること、多額の資金に関わる意思決定を支えられることを知り「会計は素晴らしい」と素直に感じるようになりました。

簿記に興味を持ったことで、「税理士になって信頼とお金を得たい」という夢を持つようになりました。まさに、簿記との出会いが私にとって人生の転機となりました。

ちなみに、学生当時、簿記や法律に関する授業の成績で特別に上位にいたわけではありません。
日商簿記3級は1年かけて勉強して80点でしたし、商業法規は10段階評価で8~9程度(クラスでも3~10番目くらいの成績)でした。

ただ、「税理士になる」という目標を持ってからはモチベーションが上がり、努力が伴って学校の成績も向上していきました。現在、私は公認会計士と弁護士の資格保持者ですが、当時の私は公認会計士の行う監査業務が理解できず、超難関資格という程度しかわかっていませんでした。
そのため、「公認会計士は自分のような商業高校出身者が取れるような資格ではない「高嶺の花」だ」と決めつけ、興味がありませんでした。

税理士受験を志し、大学進学を目指す

税理士になることを志した高校2年生当時、税理士試験の受験資格には「大学3年以上」または「日商簿記1級を保有していること」とあり、学生受験生の大半が「大学3年以上」の受験資格によって受けていることを知りました。(現在は、税理士試験の受験資格が見直され、会計科目(簿記論・財務諸表論)に受験資格はありません。)

そこで、私も「大学へ進学したい」と思いましたが、商業高校生にとって大学受験は大きな挑戦であり、2つの課題があることに気付きました。

その課題とは、
①商業高校のカリキュラムや進路の指導方針では、大学受験を目標としていないため、一般入試で受験するには極めて不利な環境にあること(ちなみに、高校3年次まで「偏差値」という言葉を知りませんでした。)
②親も、「卒業したら就職するもの」と考えていたため、進路変更に対する親からの理解と協力(特に資金面)を得ること、でした。

まず、①の課題についていろいろと調べたところ、大学によっては「商業高校生専用の推薦入試」があることを知りました。
商業高校生同士の試験であれば平等な入試であると感じ、この推薦入試に絞った勉強をすることにしました。

また、②の課題については、当時、親からは「お前は卒業したら就職だ」と何度も言われていましたが、大学進学を志望していることを勇気を振り絞って告げ、話し合いをしたところ、承諾してもらうことができました。

しかし、高校3年生の夏、父に癌が見つかります。「やはり就職すべきではないか…」と悩みました。その時でも、父は「俺が死んでも保険があるから大学に行ってこい」と背中を押してくれたのです。
これは推測ですが、私が「税理士になりたい」という目標を持ち、学校の成績も伸ばしていたことを評価してくれていたからだと思っています。

このように、私にとって「大学受験」は特別で貴重な機会でした。そして、私は、日本大学が実施していた商業高校生専用の専願推薦入試に合格し、商学部会計学科に入学することができました。

日商簿記1級で「難関資格試験に合格できる学習方法」に気づく

大学受験を始めた当時、推薦入試を有利にするため、日商簿記1級を取ろうと考え、高校2年の冬頃から勉強を始めました。
意外に思われるかもしれませんが、当時、学校では日商簿記1級を教えられる先生がいませんでした。今のようにオンライン講座もなかった時代、教材選びからすべて自分で行い、独学で進めました。

その後、高校3年の春に日商簿記1級を受験したところ、40点で不合格でした。しかし、原価計算は簡単な1問目しか正解していないのに、なぜか25点満点中10点がついていました。この時に、私は難関の資格試験特有の「傾斜配点」制度を知りました。

難関資格試験の場合、落とす試験であることから難しい問題が多く出題されますが、最終的には合格者を「上位数%」とするために受験生の正答状況を見て、点数配分の調整が行われているそうです。
これが傾斜配点制度を生じさせる原因と考えられます。

これまで受けてきた学校のテストや検定試験は、簡単な問題は1問2点、難しい問題は1問4点と、難易度に応じた配点でしたが、難関資格試験の配点基準は複雑で、易しい問題も難しい問題も同じ配点となっている可能性があります。

場合によっては、易しい問題に予想外の高得点が配点されていることもあります。つまり、本試験の現場では、正解しているかわからない難問に時間をかけるより、難問の中に混ざり込んだ「基本問題」をきちんと拾っていくことが合格への近道であることを理解しました。

この時の経験から、「基本問題を落とさないこと」を意識した勉強をするようになり、その後の難関資格試験にも合格できる学習方法が身につきました。

大学2年生で税理士試験簿・財に独学合格し、公認会計士試験に挑む

大学進学後、日商簿記1級の独学を再開したところ、大学1年生の春に合格できました。日商簿記1級の合格により、税理士試験の受験資格を得たため、大学2年生の時に簿記論と財務諸表論を独学で勉強して受験したところ、2科目とも合格できました。

税理士試験簿・財に科目合格した時、「公認会計士試験も合格できるのでは」と思い、挑戦することにしました。ただ、公認会計士試験に独学は流石に厳しいと感じ、アルバイトをして専門学校の学費を工面しながら勉強しました。

会計士受験においても、「正答率が高い問題を落とさない」ように心がけて学習しました。そのおかげで専門学校の模試の成績が良好だったこともあり、最終的には学費免除者になることができ、公認会計士試験にも無事に合格することができました。

その後、司法試験にも挑戦することになりますが、大量の文献や判例を試験範囲としているにもかかわらず、仕事と家庭を持つ非法学部出身者である私が合格できたのは、重箱の隅をつつくような勉強はせず、基本論点を中心とした勉強を続けていたことが功を奏したものと感じています。

商業高校に入った私にとって、簿記と出会ったこと、簿記の勉強を通じて得られた目標や学習方法が、大きな影響を与えたといえます。

<執筆者紹介>

菅沼 匠(すがぬま・たくみ)

公認会計士・弁護士
リンクパートナーズ法律事務所 創業者・パートナー
1999年に長野県飯田長姫高等学校の商業科を卒業し、2002年に公認会計士二次試験に合格。その後、監査法人トーマツ、証券取引所の勤務を経て、ベンチャー企業に転職。ベンチャー企業ではマザーズ市場への上場や東証一部への市場変更を達成。その傍ら、司法試験も社会人合格。現在では、リンクパートナーズ法律事務所を創立し、弁護士業務を行いつつ、上場企業を含む多数の会社の社外役員も務める。


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