藤原靖也(和歌山大学経済学部准教授)
【編集部より】
会計人コースWebの読者アンケート結果によると、税理士試験簿記論・財務諸表論受験生には「独学」の人が一定数おり、その多くが情報の少なさから、勉強方法に対する不安を持っているようです。
そこで、本連載では、独学で税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験に合格したご経験があり、現在は大学教員として研究・教育の世界に身を置かれる藤原靖也先生(和歌山大学准教授)に、毎月、その時々に合わせた学習アドバイスをしていただきます(毎月15日・全11回掲載予定)。
ぜひ本連載をペースメーカーに本試験に向けて正しい勉強法を続けていきましょう!
今月はこんな質問から始めましょう。
「今年の本試験問題をパッと見て、あなたはどう感じますか?」
・第73回税理士試験 簿記論 試験問題(国税庁HP)
・第73回税理士試験 財務諸表論 試験問題(国税庁HP)
ぜひ過去問をみた直感と「この問題が講評ではどう説明されているか」を照らし合わせてみて下さい。講評だけならば「会計人コースWeb」でも予備校等のそれ以外のウエブサイトでも無料で公開されています。
<参考>
・【税理士試験】今年の簿記論はどうだった?(渡邉 圭(千葉商科大学准教授))
・【税理士試験】今年の財務諸表論はどうだった?(加茂川悠介(税理士))
きっと、直感と講評との間のギャップがどこかにあると思います。
例えば全く分からないという感覚を持ったなら基礎から学習していきましょう。ある程度は大丈夫という感覚を持ったならば、今の自分には何が足りないのかを明確にし、盤石な体制で学習に臨みましょう。
皆さんもぜひ「直感と講評のギャップ」を知り、これから試験に向けて埋めていくべき所を確認してみてください。
<今月のポイント>
・基礎論点を固めるべき今こそ、「×(バツ)のリストアップ」をしよう! 漫然とした学習を防ぐことができ、重点的につぶすべき論点を積み上げられる。
・今から個別問題と総合問題を行き来し、インプットでは「ここが知識として足りない」、アウトプットでは「こういう箇所は間違えやすい」と把握する癖をつける。
基礎期の「×」は、絶対に見逃さない
そのうえで特にこの時期にアドバイスしたいことは「基礎期の間違い箇所は絶対に見逃さない」です。基礎期の「×」は合否に直結するからです。
もちろん「〇」を積み重ねることも自信をもって進めるためには大事です。一方で、必ず弱点・理解不足のトピックが遅かれ早かれ「×」の形で現れるはずです。
特に基礎論点のうち「×」が付いた箇所は要注意です。基礎の理解に抜けがある証拠だからです。
基礎の取りこぼしを放っておくと致命傷になりかねません。その都度、テキストまで戻り、周辺知識も含めて確認する癖を付けましょう。
厳しく言えば、基礎論点の間違いが許されるのは、練習の時だけです。「基礎期の『×』は有難い」。これくらいのマインドで臨みましょう。
また、間違えた箇所は絶対にリストアップしておくことをお勧めします。
これは、今後本試験までに重点的に克服すべき論点を書き出していることに他ならないからです。
間違えやすい箇所は、ある程度学習が進めば特定の論点に集中してくるはずです。苦手論点も把握でき、今後の学習にとって強い味方になってくれます。
(私は原価率の逆算推定、デリバティブ、退職給付会計に明らかに集中していったことを思い出します。)
基礎期から個別問題と総合問題とをセットで行うべき理由
また、基礎期では1つ1つの論点のインプットや個別問題をこなすことも大事だとはいえそれだけに終始しない、ということも大事です。
確かに個別問題を解くことは学習した知識そのものを定着させるために大切です。個別問題を疎かにすべきとは考えません。
これは英単語や英語のルールを全く習得していないのに英語の長文が読めるはずがないことと同じです。
ただし、総合問題もセットで行わないと本試験で試される力は養えません。せっかく培った知識を使いこなす力が付かないからです。
これは、英単語を覚えていることと、英語で書かれた長文の内容を的確に把握・要約できる力とは違うことと同じです。しかも、試験となると時間制限がある中で・・・。
税理士試験 簿・財も日商簿記1級も会計士試験もそうですが、総合問題の問題文は長く、問題を読み取り解答を導き出すためにはそのための別の力が必要です。
個別問題で養える力と総合問題を通じて育まれる力とは違うのです。
「個別問題では解けていたのに、総合問題では取りこぼしてしまった・・・」。これは遅かれ早かれ誰もが経験することですが、根本的な原因は上述の点にあります。
個別問題と総合問題とで「×」の意味は違う
うち個別問題の×は、ほぼインプットした論点の理解不足です。ですから、対策は比較的容易です。知識として抜けている点を補う・復習するというサイクルを繰り返すことで徐々に安定します。
しかしながら、総合問題の×は意味が違います。
その論点を学んでいない場合はもちろんですが、その他にもいくつもの理由があります。
例をいくつか挙げてみます。「そんなことあるもんか!」と思われるかもしれませんが、きっと誰もが一度は経験します。
例えば、見慣れない出題形式でどこから解けば良いか分からず、うまく得点できないこともそうです。
また、問題文の読み間違いもそうです。ここには内容自体のほか会計期間・金額の単位・端数処理の方法などの読み間違いも入ります。
問題文では「切り捨てよ」と書いてあるのに思い込みで「四捨五入」をしてしまった、といったことです。
さらに言えば、「焦り」から来るミスもそうです。「量が多すぎる!」「こんな問題、見たことがない!どうしよう」と気が動転してしまう場合などは特に×が付きやすいです。
これらを防ぐ力は一朝一夕には身に付きません。ケアレスミスも立派なミスです。総合問題で「〇を増やす」ためには知識を増やすだけでなく、長い時間をかけて解答力を磨くことが必要なのです。
基礎期から重視してほしいこと
私は個別問題に終始している方に「個別問題の殻に閉じこもらないようにしましょう」とアドバイスしています。
前回にも少し触れましたが、特に基礎期では基礎論点を得点できるようになっておく事が何よりも重要だからです。
そのためにも問題数自体は少なめでも税理士試験向けの問題でなくても良いので、個別問題と並行して基礎期からご自身の水準にあった総合問題にチャレンジし、慣れていきましょう。
とくに簿・財で必ず出題される総合問題で間違える原因は知識不足のみではないことを実感してみてください。
そして、インプットを通して「ここが知識として足りない」、アウトプットでは「こういう箇所は間違えやすい」を把握し、それぞれを別建てでリストアップする癖を付けることをおすすめします。それが本試験への対応力を押し上げてくれるはずです。
最後に:本試験への対応力を高めるために
「練習は本番のように」という言葉は、受験勉強を行ううえでよく使われます。
それは、漫然と学習しない、もっといえばテキストや問題集の内容を順番に学習することが目的ではないということです。あくまでテキストや問題集は合格のための手段です。
目的は、本試験に合格すること。これを常に意識しましょう。
「基礎期の『×』を見逃さず、間違いはリストアップする」事で、自身の苦手論点やミスしやすい箇所を把握できます。その蓄積が今後の学習に必ず活きてきます。
また、インプットとアウトプットとの行き来を繰り返すことでしか本試験への対応力は身につきません。
今後の学習では「この論点が分からない」と落ち込んだり、点数が伸び悩んだりすることも絶対にあります。その時にも、基礎力が付いているかどうかがモチベーションを切らせないためにも重要になってきます。
漫然とテキストや問題集をこなすという学習ではなく、どう得点すればよいか、自分は何が苦手なのかを把握しつつ、今は基礎力を付ける期間だという意識をもって学習を継続させましょう。
〈執筆者紹介〉
藤原 靖也(ふじわら・のぶや)
和歌山大学経済学部准教授、博士(経営学)
日商簿記検定試験1級、税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験論文式試験に合格。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了後、尾道市立大学経済情報学部講師を経て現職。教育・研究活動を行いつつ、受験経験を活かした資格取得に関する指導にも力を入れている。
<本連載バックナンバー>
第1回(9月掲載):会計の学習は‟積み上げ式”を意識しよう!
第2回(10月掲載):何をどこまで学習すればよいか、「到達目標」を確認しよう!
第3回(11月掲載):基礎期の「間違った箇所」は、絶対に見逃さないように!
第4回(12月掲載):モチベーションを維持するために心掛けてほしいこと
第5回(1月掲載):過去問を有効活用し、合格に向けて着実に進もう!
第6回(2月掲載):長い問題文の中で「どこがA論点なのか」を見抜く力を養おう
第7回(3月掲載):「どの問題に、どれくらい時間配分するか」判断力を養おう
第8回(4月掲載):自分なりの解答アプローチを身に付けるために試行錯誤しよう!
第9回(5月掲載):本試験に対する「不安」とうまく向き合うには
第10回(6月掲載):直前期の学習スタンスとして心がけたいこと
第11回(7月掲載):「今は自信をつける時期」という意識で学習を続けよう!