【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。
ライフステージの変化により行政書士に
皆様こんにちは。
兵庫県宝塚市で行政書士事務所を開業している高井悠子と申します。
金融及び航空業界での勤務、結婚・出産、海外生活を経て、行政書士として独立開業に至った経緯を書かせていただきます。会計士や税理士を志し、勤務や開業をされる道のりとはまた違った形かもしれませんが、お読みいただく方にとって少しでもお役に立てれば幸いです。
社会人としての経験、専業主婦、そして海外へ
大学では人との関わりにおける心の仕組みや行動について深く学びたいと考え、文学部で心理学を専攻しました。
就職活動はエリア総合職採用がある金融業界に絞り、都市銀行関連会社に入社、既存取引先への営業を担当しました。
職場環境は良くやりがいがありましたが、大学時代にサービス業のアルバイトでお客様から直接いただく「ありがとう」の言葉がとても嬉しかったことを思い出し、新卒では検討もしなかった航空業界へ転職しました。
大阪国際空港(伊丹空港)でグランドスタッフとしての勤務は、朝4時起きで出社、悪天候や機材整備により夜遅くまで残業ということも。
体調管理が難しかったですが、老若男女、国籍を問わず様々なお客様と一期一会の出会いがあるこの仕事は本当に楽しかったです。
空港としては国内路線のみですが、国際線乗り継ぎのお客様にはパスポートや査証(ビザ)の確認をして搭乗手続きを行っていました。
結婚を機に東京へ。同会社本社ビルで受付として勤務、妊娠・出産を経て専業主婦として子育てに奮闘する毎日でした。夫の海外赴任が決まり、家族とともにイギリスで約3年の駐在生活を送りました。
こんなはずじゃなかった!? イギリスでの生活
駐在生活は一見華やかですが、最初は苦難の連続でした。
言葉の壁、生活習慣や文化の違い、子供達の幼稚園や小学校、誕生日会など、すべてにおいてルールが分からず何度失敗したか分からないほどです。
家族に割く時間の合間には、チャリティショップでボランティアとして働き、職場の仲間と交流を深めました。
自分自身が外国人として異国で生活して、母国以外での暮らしが想像以上に困難だということを痛感しました。
しかしながら、多くの助けにより少しずつ慣れて、素敵な友人にも恵まれ、最後には帰国したくないほどでした。永住したかったくらい(笑)今でも大好きな国です。
行政書士を目指した理由
帰国後は家族で関西へ戻り双方の実家が近くなったので再び働きたいと思い、国立大学医学部学務課で非常勤職員として社会復帰。准教授の出張等の管理、病院経営研修やセミナー運営を行いました。
その後、新規開業クリニックスタッフとして勤務、日本語でのコミュニケーションが苦手な外国人の患者さんが来院した際には医療通訳をして喜んでいただいたこともあります。
そんな中コロナ禍となりクリニックが未曾有の事態になったことで、立ち止まって考えるきっかけとなりました。
「妻や母としての役割も大切だけど、個として自分の人生を生き、生涯を通じて社会と関わり働きたい」そう考えた時に、身内に公認会計士がいることに気づきました。
士業が身近ながらも自分が資格取得することを一度も考えたことがなかったのですが、それから調べ始めたところ、行政書士の仕事に申請取次業務があり外国人の方をサポートできるということを知りました。
少しでもこれまでの経験を生かすことができ、海外生活で助けてもらった恩返しができると考え一念発起、行政書士資格取得に向けて学習を開始しました。
文学部出身なので法律用語に慣れる大変さはありましたが、同時に新たな世界が広がる面白さがありました。一度目の受験は半年ほど通信講座で学びあと一歩及ばず。
二度目は別の予備校を選び、一度決めたら完遂する性分なので追い込み過ぎて体に変調をきたすほどでしたが、意識的に緩急をつけながら勉強を継続して無事に合格することができました。
開業してから大切にしていること
合格後、実はすぐに開業予定はなかったのですが、ご縁あって大先輩の先生から現在所属する支部の先生を紹介していただき事務所へ伺ったところ「悩んでいるならまずは登録・開業してみたら?」と背中を押していただいたことが決め手となりました。
事務所は自宅ではなく身内の不動産を使用貸借して、事務機器は登録時に必要なものだけを最小限揃え、合格した年の5月に開業しました。
真っ新な状態での開業だったので、開業後は全国どこへでも積極的に赴き、たくさんの方とお会いしました。
そのおかげで様々なご紹介をいただく機会が増え、また業務で困った時に親身になって相談にのってくださる先輩方、そして切磋琢磨する良き同期にも出会えました。
用意周到には程遠い開業でしたが、行動することで確実に道が開けていくと思えた次第です。
仕事をする上で大切にしていることは「心遣い」と「素直さ」です。
お客様の状況に合わせた丁寧且つ迅速な対応、外国人のお客様は国や文化を理解し尊重する、ご紹介者がいらっしゃる場合にはその方へ進捗等のこまめなご連絡や紹介していただいた御礼、何か不手際があった際には誠心誠意すぐに謝る、これらを心掛けています。当たり前のことのように思われるかもしれませんが、簡単には築けない「信頼」を形にする上でとても重要なことだと思っています。
ちなみに、行政書士として最初の仕事はイギリス人のお客様のパスポート認証でした。これにはとても驚き、過去の経験が不思議なご縁で今に繋がっていると感じた瞬間です。
現在、そしてこれから
現在は、外国人の在留資格申請取次や帰化申請業務を主軸に、関西圏の事業者様の許認可業務をしています。
また、行政書士試験でお世話になった予備校で、受講生へ学習方法、悩みや不安、実務について相談を承るカウンセリング講師、模試やスクーリング等の運営サポートを行っています。
どちらも行政書士になったからこそ携わることができる仕事。大変なこともありますが、それ以上に新たな場所で必要としていただけることへの喜びを感じています。
行政書士業務でお客様からいただく「ありがとう」の言葉はとても嬉しく、日々の励みになっています。これからも、ひとつひとつのご縁を大切にしながら邁進してまいります。
<プロフィール>
高井 悠子(たかい ゆうこ)
特定行政書士・申請取次行政書士。
2022年5月行政書士登録、同月に兵庫県宝塚市で行政書士事務所を開業。
外国人の在留資格申請取次・帰化申請など国際業務を主軸に事務所を運営。
休日の過ごし方は、森林や海岸での乗馬、ゴルフ(初心者なので練習中)。
事務所ホームページ:https://www.sumireoffice.com/
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