【連載】簿・財「独学」合格者の大学教員が月イチアドバイス~何をどこまで学習すればよいか、「到達目標」を確認しよう!


藤原靖也(和歌山大学経済学部准教授)

【編集部より】
会計人コースWebの読者アンケート結果によると、税理士試験簿記論・財務諸表論受験生には「独学」の人が一定数おり、その多くが情報の少なさから、勉強方法に対する不安を持っているようです。
そこで、本連載では、独学で税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験に合格したご経験があり、現在は大学教員として研究・教育の世界に身を置かれる藤原靖也先生(和歌山大学准教授)に、毎月、その時々に合わせた学習アドバイスをしていただきます(毎月15日・全11回掲載予定)。
ぜひ本連載をペースメーカーに本試験に向けて正しい勉強法を続けていきましょう!

9月から始まった本連載ですが、少しでもお役に立てているでしょうか。(連載第1回はコチラ

今回は、税理士試験の簿・財では何が重点的に試されるか、それに対応するためにどのような学習方針をもとにスケジュールを組み立てればよいかを、簿・財の違いに着目しつつ深堀りして考えてみましょう。

長い受験生活の中で「息切れ」を起こさないようにするためにも、到達目標を確認したうえで着実に合格に向けて学習することが極めて重要です。

<今月のポイント>
・本格的な学習が始まる前の「今」の時点で到達点や出題傾向を確認しておくことは、今後のスケジューリングや教材選び、またモチベーションの維持のためにとても大切!
・「出口」が見えなければ、そこに至るプロセスも決めることができず、焦りを生む要因にもなりうる。
・とくに簿・財の出題傾向は違うので、到達点や出題傾向の違いを踏まえ、「今後、何をどのように学習すればよいか」を考えてみよう。

簿記論と財務諸表論とで「問われること」を知るためのヒント

言うまでもなく出題範囲は税理士試験の受験案内に記載のとおりです。しかし、それだけでは具体的にどんな方針で試験問題が出題されるのかは分からないと思います。

それを読み解くために、とりわけ独学の方にとって貴重なヒントとなるのが、国税庁が毎年公表している「税理士試験 出題のポイント」です。

税理士試験 簿・財を考えたとき、同じ会計科目でも出題傾向の違いが良く表れているのは第三問の記述です。

簿記論・財務諸表論ともに、第三問は計算問題が総合問題形式で出題されています。配点も50点と同じです。

しかし、簿・財の「出題のポイント」を比べてみると、重点的に問いたいことが明らかに違うことが分かります。

そしてここから読み取れる出題傾向は、スケジューリングを含めた学習の重要な指針となってくれるはずです。

2023年度税理士試験 簿記論 第三問「出題のポイント」(国税庁HPへリンク)

2023年度税理士試験 財務諸表論 第三問「出題のポイント」(国税庁HPへリンク)

簿・財の「出題傾向」を読み解く

簿記論の出題傾向

簿記論では迅速性・的確性を問うとともに実務的に重要な論点を織り交ぜ、計算技術の完成度を試すことが強調されています。この傾向は少なくとも十数年変わっていません。

中でも「迅速性・的確性」がキーワードです。この場合の的確性とは、どう会計処理をすればよいかをその場で導けるかという実地での判断力のことです。

簿記論の第三問では問題の設定が毎年違い、まず自社の状況を実地で読み解く必要があります。問題量も多く、問題文中でどの勘定科目の金額がどれだけ動くかも蓋を開けてみなければ分かりません。

「同僚へのお土産代」の処理や「レンタル固定資産」(第70回本試験)など、実務的な問題や見たことのないような問題も頻繁に出題されます。

問題文から自社の置かれている状況やどんな会計処理を行っているのかを素早く読み取り、迅速に実地で判断・処理できる計算技術が重点的に問われる傾向にあるのが簿記論です。

財務諸表論の出題傾向

一方、財務諸表論は簿記論とは毛色が違います。正確性・網羅性を問うとともに会計基準に則った会計処理及び開示方法を問うことが強調されています。この傾向も簿記論と同様、少なくとも十数年変わっていません。

中でも「正確性・網羅性」がキーワードです。正確性とは、財務諸表の作成にあたり必要な原理・原則および理論を正確に理解しているか否かです。

財務諸表論の第三問では「現金及び預金」から順に、1つ1つの表示科目に関わる論点が順序立てて網羅的に出題されています。

貸借対照表の形式に沿えば、ほぼ「流動資産→固定資産→投資その他の資産→繰延資産→流動負債→固定負債→純資産」の表示科目に関わる論点・・・、と表示区分に合わせ問題文が区切られているのが特徴的です(その後に、諸税金の処理が問われていることがほとんどです)。

スピードよりも会計基準等の理解をもとにした正確な会計処理と表示方法を理解しているかが重点的に問われる傾向にあるのが財務諸表論です。

簿・財では「何をどのように」学習すればよいか

では、これらの出題傾向の違いを踏まえ、簿・財ではどのように学習すればよいかを考えてみましょう。

簿記論の学習方針

簿記論では基礎的な論点からある程度の応用的な論点までをインプットしつつ、同時に、日商簿記検定1級 商・会までの典型論点を迅速かつ的確に得点できるようにアウトプットし、解答の精度とスピードを上げる練習をすることが重要です。

簿記論における応用論点とは、日商簿記1級までで学ぶ典型論点を超える、難解な論点のことです。

受験期間に関しては例えば大きく基礎期・応用期・直前期と3つに区切り、順を追って以下のことを重視できるようシフトしていきたいです。

基礎期:基礎的な論点を固め、インプットで終わらず得点できるようになっておくこと

応用期:応用的な論点があったとしても、ひるまずに実地で戦い抜ける力をつけること

直前期:初見の問題で解答しやすい出題箇所を見抜き、取り切れるようになること

簿記論の問題はとにかく分量が多いです。ゆえに合否はあくまでも基本的な論点を取り切れたかどうかで決まるという意識が重要です。アウトプットの際は、取れるはずの解答箇所が取れているかを毎回確認する癖を付けましょう。

財務諸表論の学習方針

一方、財務諸表論では、計算のインプット・アウトプットを終えると同時に、1つ1つの取引についてなぜその会計処理を行うのかを応用期までに「説明できるようにする」ことを意識して学習を進めることが重要です。

とりわけ計算については一通りの論点を学びながら、なぜそのような会計処理をするのかが理解できているかを基礎期から1つ1つ確認する癖を付けておくことをおすすめします。

また、財務諸表論の50点は理論問題です。
理論に初めて触れる方や慣れていない方も多いと思いますが、基礎期から慣れていきましょう。

とはいえ、例えばいきなり「討議資料 財務会計の概念フレームワーク」(第73回本試験で出題)を読んだとしても今はその意味は分からないかもしれません。

理論に関しては、苦手意識を抱かないようにするためにもステップを踏み理解度を上げることを意識しましょう。暗記も必要ですが、まずは財務諸表論の全体像をイメージできるようになることが重要です。そののちに各論に入るとよいでしょう。

また、特に重要な会計用語は何度も出てきます。最初はおぼろげでも良いので、徐々に会計用語に慣れ定着させていく意識が重要です。

最後に:時間は必要、しかし到達点を見据え、割り切る大切さも重要

言うまでもないかもしれませんが、税理士試験は甘い試験ではありません。合格するためには相当程度の学習時間と覚悟は絶対に必要です。

特に簿記論は個別会計の計算に限れば、分量の多さによる時間的な制約や論点の多さ等から考えても簿記・会計の資格試験の中で最高峰の試験だと感じます。また、簿・財の本試験問題を2時間で完答することはまず不可能です。

ただし、あくまで簿・財は100点を取れなければ合格できない試験ではなく「60点を合格基準点とした相対評価の試験」です。

いつまでに、何をどこまで学習すれば良いのかを絞れなければ「あれも、これもやらなければ」という気持ちになってしまいます。

それは後々焦りを生む要因となり、悪手です。とくに出口が見えなければ、出口に至るプロセスを決めることもできません。上手に割り切る必要があります。

合格点を取るために何をどこまで学習すれば良いのかを、ほかでもない「今」イメージ出来ているかが教材選びや各月の学習方針などを具体的に決めるために何よりも重要です。

そのためにも、到達点を確認したうえで着実に合格に向けて学習しましょう。

〈執筆者紹介〉
藤原 靖也(ふじわら・のぶや)

和歌山大学経済学部准教授、博士(経営学)
日商簿記検定試験1級、税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験論文式試験に合格。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了後、尾道市立大学経済情報学部講師を経て現職。教育・研究活動を行いつつ、受験経験を活かした資格取得に関する指導にも力を入れている。

<本連載バックナンバー>
第1回(9月掲載):会計の学習は‟積み上げ式”を意識しよう!
第2回(10月掲載):何をどこまで学習すればよいか、「到達目標」を確認しよう!
第3回(11月掲載):基礎期の「間違った箇所」は、絶対に見逃さないように!
第4回(12月掲載):モチベーションを維持するために心掛けてほしいこと
第5回(1月掲載):過去問を有効活用し、合格に向けて着実に進もう!
第6回(2月掲載):長い問題文の中で「どこがA論点なのか」を見抜く力を養おう


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