連載 『会計士・税理士・簿記検定 財務会計のセンスが身につくプチドリル』(第150回)ー 準備金の減少①‐⑥の復習


長島 正浩(茨城キリスト教大学教授)

*連載のねらいはこちら!

Q1(空欄補充)
資本剰余金の各項目は,利益剰余金の各項目と(  ①  )してはならない。したがって,資本剰余金の利益剰余金への(  ②  )は原則として認められない。

A
① 混同
② 振替
*自己株式会計基準19項
『真水(資本剰余金)と海水(利益剰余金)は一応区別しておきましょうよ!』(桜井23版,253頁)

Q2(空欄補充)
資本金及び(  ①  )の額の減少によって生ずる剰余金は,減少の(  ② )が発生したとき(会社法(平成17 年法律第86号)第447条から第449条)に,(  ③  )に計上する。(  ④  )の額の減少によって生ずる剰余金は,減少の(  ②  )が発生したとき(会社法第448条及び第449条)に,(  ⑤  )(繰越利益剰余金)に計上する。

A
① 資本準備金
② 法的効力
③ その他資本剰余金
④ 利益準備金
⑤ その他利益剰余金
※まとめ
・資本金及び資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金 ⇒ その他資本剰余金
・利益準備金の額の減少によって生ずる剰余金 ⇒ その他利益剰余金
・その他資本剰余金の額を減少させて準備金の増加 ⇒ 資本準備金
・その他利益剰余金の額を減少させて準備金の増加 ⇒ 利益準備金
*自己株式会計基準20項,21項
『株主から純粋に払い込まれたお金(真水)と企業が汗水たらして稼いだお金(海水)は同じお金(水)でも違うみたい!』

Q3 会社法では,資本金や準備金の額を減少させるのにどのような手続が必要か,2つ挙げなさい。

A
(1) 株主総会の決議
(2) 債権者保護手続
*会社法447条,448条,449条
『資本制度において会社法が守るべきなのは“債権者”と“少数株主”だ!』

Q4 なぜ資本剰余金と利益剰余金を混同してはならないか?

A
従来,資本性の剰余金と利益性の剰余金は,払込資本と払込資本を利用して得られた成果を区分する考えから,原則的に混同しないようにされてきたが,会社法においては,資本金及び資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金は分配可能額に含まれることとなる。ここで,資本金及び資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金を利益性の剰余金へ振り替えることを無制限に認めると,払込資本と払込資本を利用して得られた成果を区分することが困難になり,また,資本金及び資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金をその他資本剰余金に区分する意味がなくなるから。
*自己株式会計基準60項
『純粋できれいな真水と泥にまみれた塩分含む海水は混ぜたくないよ!』

Q5 利益剰余金がマイナスのときにその他資本剰余金での補てんは混同にあたらないか?

A
利益剰余金が負の残高のときにその他資本剰余金で補てんするのは,資本剰余金と利益剰余金の混同にはあたらないと考えられる。もともと払込資本と留保利益の区分が問題になったのは,同じ時点で両者が正の値であるときに,両者の間で残高の一部又は全部を振り替えたり,一方に負担させるべき分を他方に負担させるようなケースであった。負の残高になった利益剰余金を,将来の利益を待たずにその他資本剰余金で補うのは,払込資本に生じている毀損を事実として認識するものであり,払込資本と留保利益の区分の問題にはあたらないと考えられる。
*自己株式会計基準61項
『海水の入っていた空っぽの容器に真水を注いでも両者が混ざったことにはならないよね』

Q6 剰余金の計数の変更で注意しなければならないのは?

A
会社法では,株主総会の決議により,剰余金の処分として,剰余金の計数の変更ができることとされたが,会計上,その他資本剰余金による補てんの対象となる利益剰余金は,年度決算時の負の残高に限られる。
*自己株式会計基準61項
『期中でその都度資本剰余金で補てんすると利益剰余金と混じってしまう!』

◎復習しましょう!
1.CF計算書
2.一株当たり当期純利益
3₋1.金融商品会計①‐⑦
3₋2.金融商品会計⑧‐⑭
3‐3.金融商品会計⑮‐⑳
4-1.棚卸資産会計①‐⑥
4-2. 棚卸資産会計⑦‐⑫
5‐1.収益認識会計①‐⑦
5₋2.収益認識会計⑧-⑫
6.リース会計①‐⑥
7.固定資産の減損①‐⑩
8.ソフトウェア会計①‐⑥
9.研究開発費会計①‐⑦
10.繰延資産①‐⑦
11.退職給付会計①‐⑥
12.資産除去債務①‐⑥
13.税効果会計①‐⑥
14.ストック・オプション会計と役員賞与(報酬)会計①‐⑧
15.自己株式①‐⑦

〈執筆者紹介〉
長島 正浩
(ながしま・まさひろ)
茨城キリスト教大学経営学部教授
東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。簿記学校講師,会計事務所(監査法人),証券会社勤務を経て,専門学校,短大,大学,大学院において非常勤講師として簿記会計や企業法を担当。その後,松本大学松商短期大学部准教授を経て,現在に至る。この間35年以上にわたり,簿記検定・税理士試験・公認会計士試験の受験指導に関わっている。

*本連載は,『会計人コース』2020年1月号付録『まいにち1問ポケット財表理論』に加筆修正したものです。


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