【税理士試験】17回目の簿記論受験で合格! 成功に導いた「個別問題」やり直し学習法


田中晃広(税理士)

【編集部より】
税理士試験の必須科目である簿記論と財務諸表論。特に簿記論は多くの受験生にとって初めて受ける科目でもあり、なるべく早く合格したい科目とも言えるでしょう。しかし、その一方で手ごわい相手であるのも事実。ラスト1科目が簿記論でとても苦労したという合格者も少なくありません。
そこで、前回の記事「なぜ、17回目の簿記論受験で合格できたのか?」で反響の大きかった田中先生(税理士)に、簿記論合格に大きく舵を切るきっかけとなった‟個別問題の学習法”についてさらに詳しく教えていただきました。ぜひ参考にしてみてください!

合格ボーダーに達しても本番がうまくいかない

私は今でこそ税理士として独立開業していますが、ここに至るまでの道のりは紆余曲折ばかりでした。税理士になるまで足掛け18年を費やしたのですが、そのうち17年間は簿記論を受験しています。

大学を卒業したものの就職の内定を蹴って税理士を目指し始めたので、同級生が社会人として働き始めた一方で私は無職。午前中のバイト代だけで学費を捻出していたためお金は無く、とにかく最短で結果を出さねばと焦って空回りした結果、最初の2年は本試験のプレッシャーに押し潰されて文字通り頭の中が真っ白になり、問題文が全く頭に入って来ずほぼ白紙での不合格。

恥ずかしながら、記念受験からのスタートとなりました。とはいえ、決して不真面目な受験生ではなく、予備校内の講義はサボらず宿題もきちんとこなし、本試験で途中退出したこともありません。外部の有志の勉強会にも通い、何年か経ってそれなりに合格ボーダーまで達するようになっても本番だけうまくいかないという状況が何年も続き、講師や合格した人のアドバイスを信じて勉強し続けても、結果は不合格ばかり。

税理士試験の入門科目とも言える簿記論に合格できず、ついには講師にも「受け続ければそのうち受かりますから…」と匙を投げられ、自分は税理士の素質が無いのではと諦めかけたことは数知れません。

振り出しに戻って取り組んだ「個別問題」

不合格通知を重ねる中で「努力のしかたが間違っている」と度々言われましたが、正しい努力のしかたは誰も教えてくれません。同じ受験生や税理士試験を知らない人からも「いい加減やめれば?」、「向いてないよ」、「また落ちたの?」などと心無い言葉を幾度も浴びるうちに自分の実力はもちろん、他人の成功体験も信じられなくなり、一旦振り出しに戻ろうと取り組んだのが「個別問題」です。

思い返せば、初受験の年に一度も校内のランキングに載ったことが無い人が一発合格していて、その秘訣を聞いたら個別問題しかやっていなかったと言っていました。その頃は「あいつは運が良かっただけだ」と聞き流しましたが、彼の真似をしていたらもっと早く合格できていたかもしれません。

簿記論の勉強法は「とにかく総合問題を解く」がセオリーですが、そのやり方で合格できないのなら他に何があるのだろうかと藁にもすがる思いでした。

理解していた「つもり」を放置しないことが転機になった

どうせやるなら自分が通っている予備校とは別の問題集をやってみようと考え、通っている学校や他の有名予備校とは違う出版社の物を選んだのですが、これが功を奏し、見慣れない言い回しの問題に触れることでいかにこれまでの自分が理解していた「つもり」だったのかを思い知りました。

たかだか個別問題で間違いを連発し、ほとんどが一発正答できなかったのです。理解不足ももちろんありましたがそれ以上にケアレスミスが異常に多かったことが分かりました。一言でケアレスミスと済ませてしまいがちですが、その中身は電卓の打ち間違いや転記間違い、更には理解していた「つもり」で放置していたせいで、いつの間にか知識が薄れていた…など様々あります。

以前は単に「間違い」とひとくくりにしていただけでしたので、この発見が不合格を断ち切る大きな転機だったと言えます。

焦らないくらいのクオリティまで高める

個別問題にもそれぞれ制限時間が設けられているので本試験対策という意味も含めて時間を計って緊張感を持って臨むのですが、「時間内に解かねば」という焦りがケアレスミスを誘発します。ということは、焦らないくらいのクオリティまで高められたらケアレスミスなんかしないはずです。1+1=2をケアレスミスする人はいないでしょう。

手痛い失点にもかかわらず、単なるケアレスミスで「次は解けるから大丈夫」と油断して復習を疎かにし反省もしない。そこに私の失点ポイント、つまり弱点があったと気付かされました。

解けるまで解き直す

個別問題との向き合い方ですが、私が実際にやってみて成長を実感できた方法は「解けるまで解き直す」です。その解き直しは翌日以降にやる。

間違えたその日に再び解いても記憶が新しいので意味がありません。1日2日経って、記憶が薄れてきても解けたらOKとします。手順としては、昨日間違えた所を今日解き直し、その後で今日の分を始める。今日間違えた所は明日そこからリスタートする。そうして最後まで解き切ったらまた振り出しに戻る。この時、問題集の目次や手帳に解いた日を記し、ケアレスミスをした場合は”CM”(careless mistakeの略)と記しておきました。

目次への書き込みを再現

こうしておくことで次の周回でまた同じ問題を解く時に前回からどれくらい経っていたのか分かるので知識の定着度が把握できます。前回ケアレスミスをしていたのなら次解く時は細心の注意を払うようにしようと心構えができます。

このような方法で6周ほど回しました。正答できていた問題で6回解いているので、ミスした所はもっと解いています(私は頭から順番に解き進めていましたが、全問手を付ければどこから解いても良いでしょう)。

1マス分のチェック欄で6回分を記録できる

時間差を設けて解けなくなっていたらそこはまだ完成度が低いか苦手としているということですが、個別問題を網羅することで総合問題しかやらないことによる取りこぼし論点も生じません。時間を計って解くことで制限時間内に解かなければならない本試験の対策にもなります。

簿記論で停滞しているなら「個別>総合」問題

もしも令和4年の税理士試験で残念ながら不合格になってしまった人は、この年明けから個別問題を最初の簿記一巡から解いてみることをおすすめします。「そんな基本中の基本、間違えるわけないし本試験にも出題されないよ。」と油断していると足元をすくわれます。

合格するためには苦手を作らないこと以上にケアレスミスをしないことが大切です。苦手な論点は運が良ければ出題されないこともありますが、ケアレスミスは単に自身の落ち度です。1点や2点の差で合格をつかみ損ねないように苦手を克服して、もう5点10点を上乗せできるようになるために、根本的に鍛えてくれるのが実は個別問題なのです。とはいえ総合問題を全くやらなくて良いというわけでもなく、割合としては6:4から7:3くらいで「個別>総合」といった具合です。

私がこの方法を編み出したのは15回目の受験からでしたが、このやり方を取り入れてからは直前答練の点数も安定してトップクラスに居続けられるようになり、本試験でもパニックになってペンが止まることもなくなりました。手応えを感じて試験を終えることができ、17度目の正直でやっと合格することができました。

個別問題なら、なかなか時間が取れない日であっても1〜2問は解けるでしょう。総合問題のように2時間を確保できたらかなりの数が解けます。計画も立てやすい上に網羅性もあって実力の底上げにもなるので、私のように簿記論で停滞してしまっている人にぜひ試して頂きたいと思います。

【執筆者紹介】

田中晃広(たなか あきひろ)
税理士
1979年静岡県生まれ静岡県育ち。大学4年生の頃ダブルスクールで税理士受験をしていた友人に感化され就職の内定を蹴って税理士を志すが日商簿記3級に4回不合格。大学卒業後2年を費やして日商簿記2級に合格し、会計事務所に勤務しながら税理士試験の勉強を続け17回目の正直で簿記論に合格。
2020年に税理士登録し「ひとり税理士」として独立開業。
雇われない・雇わないスタイルで長過ぎた受験生活で失ったものを取り戻すべく自由を謳歌している他、税理士になるまでに18年を費やした経験を生かして税理士受験生の支援にも注力している。
趣味はゴルフ、ソロキャンプ、カフェ巡り等。
事務所ホームページ 


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