TAC人気講師・宮内先生×平林先生のアドバイス!「企業法」論文式対策のコツは?~法律科目の暗記法(前編)


【編集部より】
来年の論文式受験に向けた学習を意識する人やリスタートを切る人が増えるこの時期。論文式ならではの対策をどう進めるべきか、どんな壁が待ち受けているのか気になるところです。
そこで本企画では、TAC企業法担当の宮内先生と成績・学習相談担当の平林先生による対談をお届けします。受験生からよく相談されるリアルな悩みを取り上げ、学習のヒントを探ります!

第一関門をおさえる

平林 論文式試験対策では特に企業法の学習で悩む受験生が多く、「ゴールがわからない」、「どこまで覚えればよいのか」、「問題文を見ても何を書けばよいのかわからない」といった声をよく聞きます。

学習にあたって、まず最初に意識すべきポイントはありますか。

宮内 いつもよく言うのは、「第一関門の条文を押さえる」ということです。つまり、その問題にとって一番大事な条文や制度をTACでは「第一関門」と呼んでいるのですが、「第一関門」を間違えずに指摘できるようにしましょうと強調しています。本試験では、「第一関門」の次に、その問題で中心的に訊きたい制度や論点が問われることが多いのですが、それは「第二関門」なのです。

たとえば、第一関門の頻出No.1が会社法423条1項の「任務懈怠責任」です。「取締役のAさんが甲株式会社に対して損害賠償責任を負うか」と問われれば、まずは423条1項の成否が問題になるんだと「第一関門」をしっかり指摘して、次に423条1項の成立要件を書いていく。最近の本試験は、これで素点で3点から5点くらい部分点がもらえます。

でも、その問題で問われている中心論点は、任務懈怠責任の任務懈怠すなわち法令または定款違反の法令違反であることが多いです。ただし、そこはあくまで「第二関門」なのです。「第一関門」である423条1項を書かずにこの「第二関門」についていくら頑張って書いても、0点となるというのが最近の傾向です。その問題の中心論点である「第二関門」を書いているだから、少しは点をくれてもいいじゃないかと私は思うのですが、「第一関門」を書いていないと、最近は0点を付けられます。

逆に、「第一関門」である423条1項の任務懈怠責任さえ書いていれば、あとは白紙でも素点で3点程度付けてくれて、問題の難易度にもよりますが、調整後得点では20点くらいになることもあって、これだけで足切りを回避できることがあるのです。

平林 いくら丁寧にあてはめをしていても、入口でシャットアウトされてしまうということですか。

宮内 そうです。入るべき部屋には入ったものの、「あなたは正面玄関ではなく、勝手口から入ったんじゃないの」という感じでして、入口を間違えるとダメなのですよ。

ある意味で公正な採点と考えることもできるのですが、とにかく「第一関門の条文を押さえる」という認識は大切ですね。

つまり、第一関門を書けていないと、いくら他の正しいことを書いても点数につながらないわけです。

平林 そうすると、まずは第一関門に気付けるように、学習の際には、重要条文の趣旨やどのような状況に当てはまるかという「理解」を先に進めるとよさそうですね。

宮内 そのとおりですね。条文の趣旨や要件を理解しておかないと、それが第一関門か第二関門かがわからないので。暗記は後からで構いません。

まずは理解を深めていくことが大切で、深まった頃には覚えているのではないかと思います。論文リスタートの受験生だったら、例えば会社法423条1項の内容や要件は大体の人が知っていますよね。

平林 そうですね。理解した上で繰り返し復習しているうちに、条文に載っていない要件なども覚えやすくなるはずです。

宮内 講義でもよく話すのですが、大好きな人の名前を「田中花子さん、田中花子さん」と一生懸命に唱えないでしょう。接していたら自然と覚えますよね。

試験では、「普通、それを書けなかったら点数がつかないよ。よほど、あなたは勉強していないのでしょ」と思われますからね。

会社法は確かに大好きな人ではないので、少し努力は必要ですけど、最終的には大事な条文番号をパッと見つけられないと、探し出すのにとにかく時間がかかって仕方がありません。

平林 まずは条文自体の理解を進めること。例えば、3月末頃までは答練のカリキュラムを目安に出題範囲の条文を理解して、探せるようにしていくところまでが最初の一歩になりそうですね。

宮内 そうですね。そのうちに条文に載っていない要件などは自然と覚えられると思いますよ。

論証暗記のコツ

平林 第一関門である条文を見つけた後、規範定立など論証を使うパートが出てきますが、この論証暗記で苦しむ論文受験生も多いですね。何か良い方法はないかとよくご相談いただきます。

宮内 これは難しいですよね。「論証例は覚えるんですか」という質問は昔から本当によく聞かれて、平林さんもよく聞かれると思いますが、僕もなかなか答えにくいところなのです。

時代によっても、答えが変わってきていて、今はどう答えているかというと、「キーワードを捉えよう」と伝えています。

平林 まずは一言で表せるように、ということでしょうか。

宮内 そうです。例えば、会社法369条2項の「特別利害関係取締役は議決に加われない」の趣旨を一言で表せば、「“決議の公正を確保するため”ということだよね」と、条文の趣旨をまず一言で表現できるかをやってみるとよいと思います。

僕も、受験生が覚えやすいように、テキストを作成する際にはキーワードをできるだけ短くまとめるようにいつも気をつけています。できるだけ漢字で集めて、多少「な」とか「の」とかは入りますが、その一言でパッと言えて、あとは結論に結びつけていくことができれば、まずはよいのではないかと、最近は伝えています。

平林 そうですね、まずは端的にパッと説明できるところから、ハードルを下げて取り組むのがよさそうですね。宮内先生は司法試験の受験生時代、どのように暗記に取り組まれていましたか?

宮内 僕は、六畳一間のアパートの中をひたすら動き回りながら、最初から最後まで言えるかどうか声に出して、途中一回でも間違えたら、もう一回論証を見てよく思い出して目をつむって、またブツ、ブツ、ブツ…と、延々とただ繰り返していました。

あまり創造性のないやり方ですが、勉強を教えてくれていた兄には子供の頃、「暗記は大事だ。暗記している過程で間違えた部分は理解が不十分だからだ」と言われて、確かに、詰まったところを見直して、もう一回言い直したらどんどん理解が深まっていくので、それを信じて続けていましたね。自分にも合っていたのだと思います。

平林 声に出して説明するのは効きますよね。会計士受験生の場合は、短期間のうちに計算科目も含めて仕上げる必要があるので、まずは要点を押さえた覚え方が必要になりますね。繰り返し復習した結果として本試験前には全部覚えたということはあるかもしれませんが、最初から完璧を目指すと答練が受けられなくなってしまうので、ある程度最初は割り切って、メリハリをつけるとよさそうです。

宮内 そうですね。僕みたいに「覚えないと気が済まない人」も、少ないながら会計士受験生にもいるようです。でも基本的にそういう勉強法は苦行のようになって、最後はすごく恐怖感に襲われて苦しくなってしまうのですよね。

平林 わかります。私も5月くらいまではお経のように完全暗記に走ってしまったタイプです。あまり理解せずに論証例をガチ暗記してしまって、暗記に時間を使い過ぎてしまった分、他の科目も含めてテキストの読み込みが浅くなってしまいました。

その結果、出だしが思い出せないとキーワードも出てこない状態で、忘れる恐怖感が強くて、テキストの読み込みが浅いページの論点を問われると、「そんなの確かにあった気がするけど・・・条文を探せない、何も書けない」ということがありました。1回目の全国模試で大問1つ派手に失敗してしまってから修正して、状況をイメージして条文の趣旨や問題の所在に納得感を持つことで、きちんと条文を使って現場で考えるベースを作り直しました。

今思うと、私の場合は危険な勉強をしていたなと感じるので、理解をした上で、必要なところは受験だから覚えるというメリハリが重要ですね。

よくセミナーや相談で「理解」「暗記」「試験中の行動」という3つを伸ばそうという話をしていますが、条文の理解、論証の(要点をおさえた)暗記を少しずつ進めた上で、答練中に試験中に条文を使って現場で検討する練習を積んでいってほしいと思います。

論文リスタート生の場合、暗記が比較的強い一方で、第一関門を外したり論点ズレしがちです。答練の度に質問コーナーなどで答案のフィードバックを受けて、修正行動を積み重ねることを強くおすすめします。

後編では、どこまで覚えるか?や宮内先生の受験生時代のお話など伺えればと思います。

後編へつづく)

【対談者のプロフィール】

宮内 康浩(みやうち・やすひろ)

1962年、徳島県南部の小さな漁村で出生。大学入学で上京し、1986年、司法試験合格。翌1987年に一橋大学法学部を卒業した後、2年間の司法修習を終了。1989年4月に弁護士登録をして現在に至る。20年以上前から弁護士業務を休業し、資格の学校TACで講師を務める(現在は公認会計士講座企業法・民法を担当)。犬(クララ)と猫(レモン)を飼育中。

平林 黎(ひらばやし・れい)
平林
TAC会計士講座講師(財務会計論-理論、個別成績/学習方法相談、質問対応、オンラインセミナー担当)。
1986年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。体調を崩し、会計士受験を一度撤退。2014年独学で保育士資格取得後、会計士を再度志す。2016年論文式試験に合格し、現職。2020年以降、オンラインでの相談対応・セミナーを開始。下記SNSで主に受験生・合格者に向けた情報発信を行っている。
・Xアカウント(@hirabayashi_tac
・Instagram(hirabayashi_tac

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