morningstar(公認会計士・公認内部監査人)
【編集部より】
多方面で活動する公認会計士が増え、キャリアの幅が広い資格であるという情報もよく目にするようになりました。一方で、自分がどんなキャリアを選ぶかということについては、正解がないだけに悩んでいる人も多いのではないでしょうか。
そこで、Xのフォロワー2万超えのmorningstarさんに、「キャリアチェンジの時に考えていたこと」についてご執筆いただきました(全2回)。経験豊富なキャリアの中で、どのようなターニングポイントがあり、今に至るのか…。今後のキャリアについて悩んでいる人にとっても、きっとヒントが得られるはずです!
前編:なぜ、銀行員を辞めて「公認会計士」を目指したのか?
後編:なぜ、監査法人の次に「内部監査」の道を選んだのか?
監査法人時代
前回、銀行を辞めて公認会計士を目指したころのお話をしました。
公認会計士試験に合格後は大手監査法人に勤務しましたが、所属していた部署が官庁系などの業務をメインに担うところであったこともあり、連結決算導入コンサルや独立行政法人の初度監査などを担当し、上場企業の監査業務がほとんどないという、かなり変わった経験を積みました。
その後、海外派遣、官庁への出向を経て監査法人に帰任し、マネジャー時代に退職を決意します。そのころの心情はnoteの「監査法人を辞めたころのこと」に書きましたので、ここでは重複を避けます。
なぜ、内部監査を選んだのか?
銀行を辞めて監査法人に入ったときは、他の新人と同じ新卒採用(といっても当時、学生合格者は2割もいなかったと思うので大半は既卒ですが)だったので、これが初めての転職活動です。
いくつかのエージェントに登録して最初のころは色々案件があると言われて、すぐにでも決まるかと楽観していましたが、当時は大手監査法人がリストラ真っ盛りだったこともあり、競争相手も多かったのか、そう簡単には決まりません。
何社かお祈りされた後で、外資系メーカーA社の内部監査の求人が来ました。それまで内部監査は全く志望先として想定していなかったのですが、Job Descriptionを見ると何だか面白そうです。
要求事項には、
- 監査を通じて会社に価値を与えるという熱意
- 事実に基づいて知識、直感、創造性を活用し、リスクと機会を評価し、事業部門が抱える問題に対する解決策を生み出す優れたビジネス感覚
といった内容が書かれており、非常に興味をそそられました。
官庁出向時代には、国の予算の使われ方を検証し問題提起を行うような仕事をしていたこと、外資系で英語が必要なので海外経験が生きることなども考えると、「この会社のこの仕事は自分の能力を活かせそうだ」と感じ、特に気合を入れて面接の準備をしました。その時の工夫についてはnoteの「面接する人、される人 転職・採用活動のヒント」に詳しく書きました。
最終の、海外のAudit Managerとの電話面接は、音声も悪く相手の英語がイマイチ聴き取れなかったりで苦戦しましたが、なんとか内定をもらい、転職することになりました。
新しい仕事を始めて
監査法人時代に非監査業務もそれなりにやっていたとはいえ、内部監査は初めてです。監査法人からの転職の難しいところの一つは、事業会社への転職の場合、通常は未経験業種・職種になってしまうことです。
しかも私の初仕事は、シンガポールにある工場の監査にメンバーとして加わることでした。メンバーは工場側も日本人なんかもちろん一人もいません。まだ会社の用語もろくにわからないまま、なんとか監査プログラムをもとに作業はしましたが、私が発見できた指摘事項はゼロという体たらく、シンガポール流の英語も耳慣れず、散々なデビュー戦でした。
その後は日本法人の監査をメインに、2年目からは日本の責任者ポジションを任されて、営業、製造、管理部門とあらゆる領域の内部監査の経験を積んでいきました。幸い、コンプライアンス意識の高い会社であり、指摘事項に対して激しい拒否をされることもなく、日本法人の社長やCFOなどのマネジメントとも良好な関係を築き、気持ちよく仕事をすることができました。
特に印象深かったのは、業績が芳しくないある事業部の監査を行った際に、営業サイドで色々と苦し紛れに行われていた望ましくない事象を検出し、修正を依頼したときのことです。現場からはもちろん反発もありましたが、事業部長や役員から支援してもらいながら改善をお願いしました。
すると、翌年以降、結果として当該事業部の業績がかなり回復しました。苦しいときに数字を作るために安易な値引やキャンペーンを打ったり、取引先のワガママを過剰に聞いたりすると、その瞬間の数字は作れても、翌期以降の首を絞めることになるわけですが、そこに監査の立場からストップをかけ、結果としてビジネスの回復に多少なりとも寄与できたことは大きな自信になりましたし、内部監査という仕事をこの先も続けていこうという動機付けにもなりました。
なお、良いことばかり書きましたが、当時の私の上司は海外にいるアジア太平洋地域の監査マネジャーで、良い人もいましたが、責任をこちらにすぐになすり付けようとしてくるインド人とか、英語が苦手なのか何回説明しても後からひっくり返して文句を言ってくる中国人のような困った人もいて、ずいぶん悩まされたこともあります。
おわりに
A社では楽しく仕事をしていたのですが、在任が長くなってきたかなという時に、日本の内部監査部門を廃止してアジアに統合するという決定がグローバルでなされ、私はポジションがなくなることになりました。
そこで、引き続き日本法人でFP&Aの仕事をすることになり、2年ほど働きましたが、自分がバリューを出せている感じもなく、内部監査の仕事のほうが専門性を活かせると考えたことと、親会社の意向が圧倒的に強く業務を左右する外資系の仕事に嫌気がさしてきたことから、日系の上場企業の内部監査部門に転職しました。
その後、会社が変わったり独立したりという変化はありましたが、一貫して内部監査の仕事をしています。
この仕事を始めたのは転職活動による偶然ではありましたが、非常に良い仕事かもという直感と、その後の実務で良い経験を積むことができたことが、今でもこの仕事を続けている背景にあります。
銀行を辞めて会計士を目指した時と、監査法人を辞めて内部監査の道に入った時のいずれも、私にはキャリアプランと呼べるような立派なものはありませんでした。この変化の激しい社会の中で、将来を予測して職業を選ぶことはほとんど不可能でしょう。
万全のプランを立ててその通りに人生を歩む人はいません。目の前に目標があるならまずはそれに向かって頑張り、どうしようもない状況に追い込まれたら周りを見回して何とかなりそうな方に舵を切る、くらいのスタンスも時として大事なのではと思っています。
(おわり)
<執筆者紹介>
morningstar(公認会計士・公認内部監査人)
外資・日系企業4社で内部監査の責任者・管理職の経験があります。監査法人、事業会社勤務を経て2023年9月に独立し、企業の内部監査のサポートや、内部監査に従事する人へのお役立ち情報を発信しています。
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