連結会計の仕訳に強くなる超基礎トレーニング【第12回】 資本連結:開始仕訳②株主資本等変動計算書の勘定科目


関口高弘
(公認会計士)

今回のポイントー資本連結:開始仕訳②株主資本等変動計算書の勘定科目

今回のテーマについて、以下のポイントを確認して仕訳問題を解いてください。

Point.株主資本等変動計算書作成する場合の連結修正仕訳の勘定科目

前回までの連結修正仕訳では、株主資本等変動計算書を作成しない前提で、過年度の収益・費用項目、純資産項目は、貸借対照表(資本金、資本剰余金、利益剰余金)の金額を修正していました。しかし、株主資本等変動計算書を作成する場合には、株主資本等変動計算書の計上額を修正するため、純資産項目について、以下のように勘定科目が変更されます。

 開始仕訳当期の連結修正仕訳
資本金資本金当期首残高
資本剰余金資本剰余金当期首残高
利益剰余金利益剰余金当期首残高剰余金の配当
非支配株主持分非支配株主持分当期首残高非支配株主持分当期変動額

以上を踏まえ、株主資本等変動計算書を作成する前提で株主資本等変動計算書上の勘定科目を用いて資本連結に関する開始仕訳を行うと、以下の問題のようになります。

問題(全3問)

下記の各取引について仕訳しなさい。なお、勘定科目は、設問ごとに最も適当と思われるものを選ぶこと。
(なお、スマホでご覧の方は「画面をヨコ」にすると仕訳や表が見切れないのでオススメです。)

問1

×3年度末に、東京商事株式会社は、大阪商事株式会社の発行済株式数の100%を¥8,000で取得して支配を獲得した。×3年度末の大阪商事株式会社の資本金は¥3,000、資本剰余金は¥800、利益剰余金は¥2,200であった。なお、大阪商事株式会社は×4年度中に利益剰余金からの配当¥200を実施し、同年度において¥400の当期純利益を計上している。また、のれんは発生年度の翌年から20年にわたり定額法により償却する。×5年度末の連結財務諸表作成上、必要な開始仕訳を答えなさい。

 〔勘定科目〕

資本剰余金当期首残高資本金当期首残高非支配株主持分当期首残高のれん
利益剰余金当期首残高子会社株式のれん償却負ののれん発生益

解答

・開始仕訳(×5年度) 

(借)資本金当期首残高3,000 (貸)子会社株式8,000 
 資本剰余金当期首残高800     
 利益剰余金当期首残高2,300*1    
 のれん1,900*2    

*1 (2)2,200+(3)①100+②200-③200=2,300
*2 (2)2,000-(3)①100=1,900

解答の仕訳は、下記(1)と(2)の仕訳の合計となる。

(1) 支配獲得時(×3年度末)

(借)資本金当期首残高3,000*1(貸)子会社株式8,000*2
 資本剰余金当期首残高800*1    
 利益剰余金当期首残高2,200*1    
 のれん2,000*3    

*1 ×3年度末の資本金3,000、資本剰余金800及び利益剰余金2,200
*2 株式の取得原価8,000
*3 貸借差額

※純資産項目である「資本金」、「利益剰余金」に係る金額は、開始仕訳作成時の×5年度からは過年度(×3年度末)の純資産項目を修正していることになるため、各勘定科目に「当期首残高」を付けることになる。

(2)×4年度分

① のれん償却

(借)利益剰余金当期首残高100 (貸)のれん100 

のれん2,000÷20年=100

※借方は、償却年度の×4年度では「のれん償却」となるが、開始仕訳の作成時の×5年度からは過年度(×4年度)の損益修正をしていることになるため、勘定科目は「利益剰余金当期首残高」を使用することになる。

② 剰余金の配当

a.親会社持分

(借)利益剰余金当期首残高200 (貸)利益剰余金当期首残高200 

配当金200×親会社持分比率100%=200

※借方は、剰余金の配当の修正時の×4年度では「受取配当金」となるが、開始仕訳作成時の×5年度からは過年度(×4年度)の損益修正を意味していることになるため、勘定科目は「利益剰余金当期首残高」を使用することになる。

※貸方は、剰余金の配当の修正時の×4年度では「利益剰余金(剰余金の配当金)」となるが、開始仕訳作成時の×5年度からは過年度(×4年度)の利益剰余金の修正をしていることになるため、勘定科目は「利益剰余金当期首残高」を使用することになる。

問2

×3年度末に、東京商事株式会社は、大阪商事株式会社の発行済株式数の70%を¥4,000で取得して支配を獲得した。×3年度末の大阪商事株式会社の資本金は¥3,000、資本剰余金は¥400、利益剰余金は¥1,200であった。なお、大阪商事株式会社は×4年度中に利益剰余金からの配当¥500を実施し、同年度において¥750の当期純利益を計上している。また、のれんは発生年度の翌年から5年にわたり定額法により償却する。×5年度末の連結財務諸表作成上、必要な開始仕訳を答えなさい。

 〔勘定科目〕

資本剰余金当期首残高資本金当期首残高非支配株主持分当期首残高のれん
利益剰余金当期首残高子会社株式のれん償却負ののれん発生益

解答

・開始仕訳(×5年度) 

(借)資本金当期首残高3,000 (貸)子会社株式4,000 
 資本剰余金当期首残高400  非支配株主持分当期首残高1,455*3
 利益剰余金当期首残高1,431*1    
 のれん624*2    

*1 (2)1,200+(3)①156+(3)②225+③350-③350-③150=1,431
*2 (2)780-(3)①156=624
*3 (2)1,380+(3)②225-③150=1,455

解答の仕訳は、下記(1)と(2)の仕訳の合計となる。

(1) 支配獲得時(×3年度末)

(借)資本金当期首残高3,000*1(貸)子会社株式4,000*2
 資本剰余金当期首残高400*1 非支配株主持分当期首残高1,380*3
 利益剰余金当期首残高1,200*1    
 のれん780*4    

*1 ×3年度末の資本金3,000、資本剰余金400及び利益剰余金1,200
*2 株式の取得原価4,000
*3 (資本金3,000+資本剰余金400+利益剰余金1,200)×非支配株主持分比率30%=1,380
*4 貸借差額

※純資産項目である「資本金」、「利益剰余金」、「非支配株主持分」に係る金額は、開始仕訳作成時の×5年度からは過年度(×3年度末)の純資産項目を修正していることになるため、各勘定科目に「当期首残高」を付けることになる。

(2)×4年度分

① のれん償却

(借)利益剰余金当期首残高156 (貸)のれん156 

のれん780÷5年=156

※借方は、償却年度の×4年度では「のれん償却」となるが、開始仕訳の作成時の×5年度からは過年度(×4年度)の損益修正をしていることになるため、勘定科目は「利益剰余金当期首残高」を使用することになる。

② 当期純利益の按分

(借)利益剰余金当期首残高225 (貸)非支配株主持分当期首残高225 

当期純利益750×非支配株主持分比率30%=225

※借方は、当期純利益按分時の×4年度では「非支配株主に帰属する当期純損益」となるが、開始仕訳作成時の×5年度からは過年度(×4年度)の損益修正をしていることになるため、勘定科目は「利益剰余金当期首残高」を使用することになる。

※貸方は、当期純利益按分時の×4年度では「非支配株主持分当期変動額」となるが、開始仕訳作成時の×5年度からは過年度(×4年度)の非支配株主持分の修正をしていることになるため、勘定科目は「当期首残高」を付けることになる。

③ 剰余金の配当

a.親会社持分

(借)利益剰余金当期首残高350 (貸)利益剰余金当期首残高350 

配当金500×親会社持分比率70%=350

※借方は、剰余金の配当の修正時の×4年度では「受取配当金」となるが、開始仕訳作成時の×5年度からは過年度(×4年度)の損益修正を意味していることになるため、勘定科目は「利益剰余金当期首残高」を使用することになる。

※貸方は、剰余金の配当の修正時の×4年度では「利益剰余金(剰余金の配当金)」となるが、開始仕訳作成時の×5年度からは過年度(×4年度)の利益剰余金の修正をしていることになるため、勘定科目は「利益剰余金当期首残高」を使用することになる。

b.非支配株主持分

(借)非支配株主持分当期首残高150 (貸)利益剰余金当期首残高150 

配当金500×非支配株主持分比率30%=150

※借方は、剰余金の配当の修正時の×4年度では「非支配株主持分当期変動額」となるが、開始仕訳作成時の×5年度からは過年度(×4年度)の非支配株主持分の修正をしていることになるため、勘定科目は「当期首残高」を付けることになる。

※貸方は、剰余金の配当の修正時の×4年度では「利益剰余金(剰余金の配当金)」となるが、開始仕訳作成時の×5年度からは過年度(×4年度)の利益剰余金の修正をしていることになるため、勘定科目は「利益剰余金当期首残高」を使用することになる。

問3

×3年度末に、東京商事株式会社は、大阪商事株式会社の発行済株式数の90%を¥7,000で取得して支配を獲得した。×3年度末の大阪商事株式会社の資本金は¥5,000、資本剰余金は¥900、利益剰余金は¥2,100であった。なお、大阪商事株式会社は×4年度中において¥500の当期純利益を計上している。なお、大阪商事株式会社は配当を行っていない。また、のれんは発生年度の翌年から10年にわたり定額法により償却する。×5年度末の連結財務諸表作成上、必要な開始仕訳を答えなさい。

 〔勘定科目〕

資本剰余金当期首残高資本金当期首残高非支配株主持分当期首残高のれん
利益剰余金当期首残高子会社株式のれん償却負ののれん発生益

解答

・開始仕訳(×5年度) 

(借)資本金当期首残高5,000 (貸)子会社株式7,000 
 資本剰余金当期首残高900  非支配株主持分当期首残高850*2
 利益剰余金当期首残高1,950*1    

*1 (2)2,100-200+(3)①50=1,950
*2 (2)800+(3)①50=850

解答の仕訳は、下記(1)と(2)の仕訳の合計となる。

(1) 支配獲得時(×3年度末)

(借)資本金当期首残高5,000*1(貸)子会社株式7,000*2
 資本剰余金当期首残高900*1 非支配株主持分当期首残高800*3
 利益剰余金当期首残高2,100*1 利益剰余金当期首残高200*4

*1 ×3年度末の資本金5,000、資本剰余金900及び利益剰余金2,100
*2 株式の取得原価7,000
*3 (資本金5,000+資本剰余金900+利益剰余金2,100)×非支配株主持分比率10%=800
*4 貸借差額(負ののれん発生益)

(注) 純資産項目である「資本金」、「利益剰余金」、「非支配株主持分」に係る金額は、開始仕訳作成時の×5年度からは過年度(×3年度末)の純資産項目を修正していることになるため、各勘定科目に「当期首残高」を付けることになる。また、「負ののれん発生益」は開始仕訳の作成時の×5年度からは過年度(×3年度)の損益修正をしていることになるため、勘定科目は「利益剰余金当期首残高」を使用することになる。

(2)×4年度分

① 当期純利益の按分

(借)利益剰余金当期首残高50 (貸)非支配株主持分当期首残高50 

当期純利益500×非支配株主持分比率10%=50

(注1) 借方は、当期純利益按分時の×4年度では「非支配株主に帰属する当期純損益」となるが、開始仕訳作成時の×5年度からは過年度(×4年度)の損益修正をしていることになるため、勘定科目は「利益剰余金当期首残高」を使用することになる。

(注2) 貸方は、当期純利益按分時の×4年度では「非支配株主持分当期変動額」となるが、開始仕訳作成時の×5年度からは過年度(×4年度)の非支配株主持分の修正をしていることになるため、勘定科目は「当期首残高」を付けることになる。

今回のトレーニングは以上です!
次回は7月14日(金)に公開予定です。それまでにしっかり今回の復習をしておきましょう!

【執筆者紹介】
関口 高弘(せきぐち・たかひろ)
1976年5月神奈川県生まれ。1998年10月公認会計士試験合格。1999年3月中央大学商学部会計学科卒業、2001年3月中央大学大学院商学研究科博士前期課程修了。公認会計士試験合格後、大手監査法人で上場企業を中心とした会計監査に従事。2002年4月公認会計士登録。日商簿記検定試験(商業簿記・会計学)、税理士試験(簿記論・財務諸表論)、公認会計士試験(財務会計論)の受験指導歴17年。現在は、中央大学経理研究所専任講師、中央大学商学部客員講師、朝日大学経営学部非常勤講師、高崎商科大学商学部特命講師他を務める。

<連載バックナンバー>
【第2回】資本連結:支配獲得日の会計処理①
【第3回】資本連結:支配獲得日の会計処理②
【第4回】資本連結:支配獲得後の会計処理①
【第5回】資本連結:支配獲得後の会計処理②
【第6回】成果連結:債権債務の相殺消去(資金取引)、期末貸倒引当金の調整
【第7回】成果連結:債権債務の相殺消去(ダウン・ストリーム)、期末貸倒引当金の調整
【第8回】 成果連結:期末未実現損益の消去(ダウン・ストリーム)
【第9回】成果連結:債権債務の相殺消去(アップ・ストリーム)、期末貸倒引当金の調整
【第10回】 成果連結:期末未実現損益の消去(アップ・ストリーム)
【第11回】 資本連結:開始仕訳①
【第12回】 資本連結:開始仕訳②株主資本等変動計算書の勘定科目
【第13回】成果連結:前期末貸倒引当金の調整(ダウン・ストリーム)
【第14回】成果連結:前期末未実現損益の消去・実現(ダウン・ストリーム)
【第15回】成果連結:前期末貸倒引当金の調整(アップ・ストリーム)
【第16回】成果連結:前期末未実現損益の消去・実現(アップ・ストリーム)
【第17回】成果連結:応用論点(仕入未達取引)
【第18回・完】成果連結:応用論点(連結会社振出の手形の割引・裏書)

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