令和3年度税理士試験 簿記論・財務諸表論 受験指導のプロ・並木秀明先生はこう見た!


2021年8月17日、令和3年度(第71回)税理士試験の簿記論・財務諸表論が実施されました。

ここでは、大手専門学校や大学などで多くの受験生を指導されてきた、会計人コースWebでもおなじみの並木 秀明先生に、今年の簿記論・財務諸表論を振り返っていただきました。

「難易度は?」「トル問・捨て問はどれ?」
簿記論・財務諸表論のツボがわかる“並木流”の講評は、受験された方はもちろん、来年受験される方も必見です!


並木秀明
(千葉経済大学短期大学部教授)

はじめに、この講評は、個人的な見解である。また、すでに終わった試験には不要な「タラレバ」な内容があることも断っておく。「タラレバ」とは、こうしたらよかった、ああすればよかった、という意味である。すなわち緊張した状況では不可能な判断である。ただし、この講評が次のステップで役立つことを期待して記しておく。

【簿記論】例年どおり「取捨選択」が必須 なかには懐かしい問題も

簿記論は、毎年のように2時間では解ききれないボリュームであった。取捨選択をしなければ最後までたどり着けない。この点については、受験生は理解しているものの、実践では相当に難しい判断を要する。「ボーダーラインは何点?」とよく聞かれるが、傾斜配点で60点である(財務諸表論も同様)。実質的な合格ラインは40~45点と予想される。

第一問(計4ページ)

問1と問2で8~10点を拾うことができれば最高の出来といえる。

問1 個人商店の簿記一巡(推定を含む)

まず、驚いたのは「個人商店」「複式簿記を採用していない」という指示である。特に「複式簿記を採用していない」という点で混乱したかもしれない。現在の会計ソフトでは、現金出納帳の収入欄に記帳すれば自動的に仕訳帳(仕訳日記帳)に記録され「複式簿記」となる。

本問は、仕訳(複式簿記)で計算用紙を使用すれば解答できる問題であった。しかしながら、その点に気がついても、単純に第一問を30分とすると、本問には15分程度しかかけられない。よって、“完答を諦める勇気”を要する問題でもあった。普通なら3か所程度の正解で合格点といえる。

昭和の時代の簿記論が懐かしい。すなわち、このような問題に慣れている受験生は少ない。落ち込む必要はない。

問2 車両の売買における販売側・購入側の処理

利息の計算が得点となる問題である。利息区分法による車両の売買は、昔の日商簿記1級で出題された。いずれにしても、利息が計算できれば5~6点は拾える問題であろう。

第二問(計4ページ)

問1と問2で10~12点を拾うことができれば最高の出来といえる。

問1 固定資産の自家建設・交換・総合償却

本問も昔の日商簿記1級を彷彿とさせる懐かしい問題である。会計基準関係の会計処理を一生懸命勉強した受験生には気の毒な問題といえる。本問は、取得原価の決定と総合償却の平均耐用年数(単純平均を四捨五入でも可)が正解できれば合格点であろう。

問2 連結仕訳

連結仕訳とは、もともと仕訳帳ではなく精算表における組替仕訳である。税理士試験には「不似合い」の問題であった。すなわち、本問は、日商簿記1級まで学習した受験生には有利な問題であり、そうでない受験生には不利な問題である。通常の受験生は、S社資産・負債の時価評価と投資・資本の相殺仕訳のみ正解できれば十分である。出題者の傾斜配点を願うこととしよう。

第三問(計11ページ)

本問は、39ある解答箇所のうち最高で12~13箇所、得点にして20点程度が合格ラインと予想される。

本問の目玉(捨てる箇所)は、在外支店である。時間がたっぷりあれば解ける受験生は多数いるはずだ。しかし、第三問にたどり着いたときには残り時間が45分程度だったと予想される。その時間内で拾える決算整理事項を見つける作業となる。現金・当座預金・有価証券・為替予約・賞与引当金など、幸運にも正解できれば最高の出来であろう。

【財務諸表論】第三問の見極めがカギ 『会計法規集』を伴った勉強がベスト

財務諸表論の第一問、第二問の一部は、『会計法規集』がなければ受験勉強ができない問題である。日本版「財務会計の概念フレームワーク」は、私も出題を予想できなかった。減損会計は、企業会計審議会が公表した「係る会計基準」のため、企業会計基準委員会のホームページでも閲覧できない会計基準である。解答例作成者でさえ検討を要する問題が多く出題された。第三問は、得点できる箇所とできない箇所がはっきりしており、試験官の「ハイ始め」の合図と同時に問題を全部めくった受験生が有利だったと感じる。実質的なボーダーラインは、50~55点と予想される。

第一問(計4ページ)

第二問にもいえるが、問題文を読むだけで時間を要する。すなわち、時間配分が難しい。『会計法規集』を読んでいる受験生であれば、問3「引当金」と問4「減損会計」は記述しやすかったのではないかと思われる。理論の採点は難しいが10点程度が合格点であろう。

第二問(計4ページ)

損益会計と為替予約(理論?)が出題された。損益会計は、昭和の時代を彷彿とさせる問題であった。「当期業績主義」「費用収益対応の原則」「時間(発生)基準」など懐かしい単語が解答となった。為替予約は、計算の結果が記述につながる問題である。ただし、計算をする時間はないであろう。答案上で「一致(合致)の原則」(会計の前提原則)が説明できていれば得点になるはずである。甘く採点して12点程度が合格点であろう。

第三問(計11ページ)

貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書ならびに重要な会計方針の注記が出題された。貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書は、私も予想していたが、得点源は「重要な会計方針の注記」である。時間(60分)があれば、30~35点は得点可能な問題である。

【今後の課題】適切な時間配分に沿った学習を!

税理士試験全般にいえるが、ボリュームがあり、120分では解答不可能である。日ごろから時間配分を念頭に入れた受験勉強が重要である。

講評では詳しく触れなかったが、別解のある問題があった。その別解に気がついた受験生は、そこに時間をかけてしまっただろう。ただし、指示不足による別解は、両方とも正解となる。そんな点も考慮して、試験中は時間を無駄使いしないようにしよう。

<執筆者紹介>
並木 秀明
(なみき・ひであき)
千葉経済大学短期大学部教授
中央大学商学部会計学科卒業。千葉経済大学短期大学部教授。LEC東京リーガルマインド講師。企業研修講師((株)伊勢丹、(株)JTB、経済産業省など)。青山学院大学専門職大学院会計プロフェッション研究科元助手。主な著書に『はじめての会計基準〈第2版〉』『日商簿記3級をゆっくりていねいに学ぶ本〈第2版〉』『簿記論の集中講義30』『財務諸表論の集中講義30』(いずれも中央経済社)、『世界一わかりやすい財務諸表の授業』(サンマーク出版) などがある。


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中央経済社編
定価:2,640円(税込)
発行日:2021/07/20
A5判 / 1474頁
ISBN:978-4-502-39301-3
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