なぜ公認会計士が「未来の居場所づくり」をするのか~先端技術とコミュニティ


星野宇潮(ほしの・うしお)

【編集部より】
行政や企業などが、リアルだけではなく、バーチャルにおいてもコミュニティづくりに力を入れ始めています。さらにはAI技術の発展・浸透により、「コミュニティ」のイメージも一昔前とは比べ物にならないほど変わっているようです。 そこで、このコミュニティづくり(=未来の居場所づくり)を主な事業として活動している星野先生に公認会計士としての関わり方などについてお聞きしました。

はじめに

「会計士なのに、なぜコミュニティなんですか」

この質問を、もう何十回も受けました。そのたびに、その場しのぎの答えしかできませんでした。

私はいま、企業や自治体、大学のオンラインコミュニティを構想から運用まで引き受ける会社を経営しています。在京キー局や大手鉄道会社などとご一緒し、延べ数万人規模のバーチャルイベントを企画・運営してきました。公認会計士としての登録も、会計事務所も続けています。それでも名刺を2枚出すと、たいてい怪訝な顔をされます。

会計とコミュニティは遠い。
私自身、長いあいだそう思っていました。

今回、編集部から「なぜ会計士がそれをやるのか」というテーマをいただいて、初めて腰を据えて考えました。書きながら分かったことを、そのまま書きます。

器が変わりはじめている

会計士の仕事を一言でいえば、組織を数字で見ることだと思います。

監査は、会社という組織の実体が財務諸表に正しく写っているかを確かめる仕事です。監査法人を出たあとに立ち上げたIPO支援も、突き詰めれば、会社という器に人と資本を集められる状態に整える仕事でした。どちらも、会社という器を扱っている点では同じです。

その器が、変わりはじめている。そう感じたのは、DAO(分散型自律組織)に関わったときでした。

DAOは、必ずしも株式会社の形をとらなくても、人と資金が集まれる仕組みです。私はその制度づくりに関与しましたが、面白さはむしろ手前にありました。人が集まる単位が、必ずしも「会社」ではなくなってきている。 社員でも株主でもない人たちが、何かの旗のもとに集まり、実際にお金と時間を動かしている。会社になる前の、あるいは会社にならないまま続いていく集まりです。

それを事業として引き受けているのが、いまの会社です。ただ、もともとはメタバースのワールドやアバターの制作受託から始まった会社でした。転換は、いくつかのことがほぼ同時に起きて訪れます。

受注そのものが減りはじめ、同じ頃、納品した場に人が来ていないことに気づきました。きれいなワールドを引き渡し、それきり誰も入っていない。納品は完了していますが、成果と呼べるものが残っていない。

一方で、相談の中身が変わってきました。 「こういう空間を作ってほしい」ではなく、「人を集めて、続けてほしい」。市場のほうが先に、答えを教えてくれていました。

箱を作ることと、そこに人がいることは、まったく別の仕事だった。 社内で議論して、舵を切りました。

コミュニティが続かない理由は、熱量ではありません

ここからが、会計士の話です。

コミュニティの立ち上げは、たいてい成功します。人は集まる。難しいのは2年目です。

続かなくなる理由を、多くの方は「熱量が切れたから」と説明します。私はそうは思いません。続かないコミュニティには、ほぼ例外なく、お金の設計がありません。

具体的には、3つが決まっていません。
誰が払うのか。
何に対して払うのか。
誰が責任を負うのか。

3つとも、崩れる形を実際に見てきました。

1つめ。担当者が代わって、消えたコミュニティ。 立ち上げた方が熱心で、参加者にもよく慕われていました。その方が担当を離れてしばらくして、場は静かに畳まれます。理由は明快で、運営費がどの部門の、どの費目に帰属するのかが決まっていなかったからです。会費収入なのか、協賛なのか、本業のマーケティング費用なのか。実質的な裏付けは、個人の熱意でした。人が動けば、熱意も一緒に動きます。

2つめ。会費の対価をめぐって揉めた場。 集金までは進んだのですが、参加者が何に対して払っているのかが定義されていませんでした。 運営は「場を維持する実費」のつもりで、払う側の一部は「対価としてのサービス」を期待していた。金額の多寡ではなく、対価の定義が無かったことが原因です。

3つめ。責任者が明示されていなくて荒れた場。 ルールは掲示されていたのに、それを誰が運用し、誰が判断するのかが書かれていなかった。 トラブルが起きても誰も裁定できず、声の大きい人の解釈が通る。そこから人が抜けていきました。

3つとも、盛り上げ方の失敗ではありません。帰属と対価と責任の設計が無かっただけです。会計士が毎日やっていることそのものです。

私が会計士としてこの仕事に貢献できているのは、企画力でも発信力でもなく、この一点だと思っています。場に流れるお金を、誰の、何のためのお金として説明できる形に組み立てること。 それができると、コミュニティは担当者が代わっても続きます。

監査法人で学んだのは、正しさを保証する技術以上に、署名という制度が、なぜそこに置かれているのかでした。居場所をつくる仕事も同じです。そこで起きたことを引き受ける人を決めるところから始まります。

先端技術は、目的ではなく手段のほうにある

「先端技術とコミュニティ」というテーマをいただきましたが、私にとって技術は目的ではありません。

数千人が参加する場を、少人数で運営し続けるのは、単純に重い。そこで、AIエージェントを自作してコミュニティの中に置き、人間に混ぜて動かす実験を続けてきました。技術の話に聞こえますが、実質は場を維持するコスト構造の話です。運営コストが下がらなければ、居場所は続きません。

そしてこの技術が、思わぬ形で会計に戻ってきました。コミュニティのために作ったエージェントを、自分の会計事務所の業務に転用してみたのです。何が起きたかは、次の記事に書きます。

資格は、狭めるものではない

私が伝えたいのは、1つです。

会計士のスキルは、監査法人や税理士事務所の中だけで効くものではありません。むしろ、まだ制度になっていない集まりほど、よく効きます。 そこには帳簿も規程も引き受け手もなく、それを設計できる人がいないからです。

「未来の居場所づくり」という言葉を、私はずっと掲げてきました。長いあいだ、これは会計士の仕事とは無関係な、個人的な旗だと思っていました。いまは違います。人が集まる場所を続けるには、お金と責任の設計が要る。 それは会計士がいちばん得意なことです。

受験生の方に、1つだけ。合格したあとに何をするかを、いま決めきらなくて大丈夫です。ただ、「会計士だから」で説明できることの外側に、もう1つ何かを持ってください。 私にとって、それがコミュニティでした。

【プロフィール】

星野宇潮(ほしの・うしお)

公認会計士・税理士
株式会社インベーダーズ創業者・取締役CFO
立教大学在学中に公認会計士試験に合格し、有限責任監査法人トーマツへ。金融部門を経て、税理士資格を取得して独立し、IPO支援に特化したコンサルティングファームを創業。多数の上場に携わる。次世代の組織のかたちであるDAOに着目。企業・自治体・教育機関のオンラインコミュニティを構想から運用まで支える「コミュニティ伴走支援」を主力に展開。在京キー局や大手鉄道会社と連携し、延べ数万人規模のバーチャルイベントを手がけてきた。監査支援AI「右筆」など、会計・監査の実務で使うAIエージェントを自ら開発している。一貫して掲げるのは「未来の居場所づくり」
公式プロフィール:https://invaders.co.jp/members/hoshino-ushio.html


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