
【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験・公認会計士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!
福岡大学准教授・山本健人
みなさん、こんにちは。福岡大学の山本です。
前回は、日本の監査市場の変化という観点から「監査事務所の再編」について考えました。今回は、このような再編が監査現場や監査市場にどのような影響をもたらすのかについて考えてみたいと思います。特に、近年、大手以外の監査事務所の再編が注目されていることから、それに関する監査研究を紹介します。
合併は監査の効率性や市場競争にどのような影響をもたらす?
監査事務所が合併し、監査を担当できる事務所の数が減ると、「市場競争が弱まるのではないか」と考える方がいるかもしれません。しかし、大手以外の監査事務所が手を組み、大手に対抗できる存在となれば、かえって市場競争が活発になる可能性もあります。また、合併によって監査の効率性が高まるかもしれません。
マサチューセッツ大学アマースト校のキットー氏による米国の中小監査事務所の合併を分析した研究では、合併が「監査の効率化」と「市場競争の促進」の双方につながる可能性を示しています(Kitto 2024)。
第一に、監査の効率性への影響です。地域ごとに監査市場が形成されている米国ならではの着眼点として、この研究では、合併する監査事務所が同じ地域に地方事務所を構えている場合(in-market merger)と、そうでない場合(out-of-market merger)を区別し、合併の影響を分析しています。
分析の結果、前者では監査品質を低下させることなく、監査時間が減少したことが確認されました。一方、後者では同様の結果は確認されませんでした。
このことは、監査品質を維持しつつ効率化につながったことを示唆しています。
第二に、監査市場の競争への影響です。分析の結果、いずれの合併でも、合併後の監査事務所は従来よりも規模が大きく複雑な監査クライアントを獲得するようになりました。さらに、中小監査事務所の合併が活発な地域では、Big 4の比較的小規模な監査クライアントに対する監査業務の収益性が低下する傾向も確認されました。
この結果は、監査事務所の合併が、中小監査事務所の競争力を高める可能性を示しています。
合併は監査品質を高めるとは限らない?
一方、合併が必ずしも良い結果につながるわけではないことを示す研究もあります。それがブリガム・ヤング大学のクリステンセン氏らが行った研究です(Christensen et al. 2023)。この研究では、2004~2016年に一度だけ合併を行った、米国の小規模な監査事務所を分析しています。分析の結果、合併後に米国における監査監督機関であるPCAOBの検査で不備が指摘される割合が高まるなど、監査品質の低下を示唆する結果が得られました。
この研究からは、合併によって監査資源が増えたとしても、それが必ずしも監査品質の向上につながるとは限らないことがうかがえます。もちろん、キットー氏の研究とは分析対象や方法が異なるため、単純な比較はできませんが、合併の効果は一様ではないようです。
合併の成否を左右する要因とは?
では、合併の成否を左右する要因とは何でしょうか。その手がかりとなるものとして、中国における監査事務所の合併を分析した西南財経大学のリュウ氏らの研究を紹介しておきましょう(Liu et al. 2026)。
この研究では、合併によって急成長を遂げたものの、その後衰退した瑞華会計師事務所と、安定した成長を遂げた信永中和会計師事務所という対照的な2つの監査事務所を取り上げ、成否を分けた要因は何だったのか分析しています。
分析の結果、瑞華では、合併前の監査事務所に由来するチームが独立して監査業務を続け、人材や監査クライアントのリスクに応じた管理が十分に行われていなかったことがわかりました。他方、信永中和では、リスクを踏まえた監査担当者の見直しや、合併前には別々の監査事務所に所属していた監査人同士の共同での監査、リスクの高い監査クライアントの契約見直しが行われていたことがわかりました。
合併後の人材や業務の統合が、再編の成否を左右する重要な要因であることが、リュウ氏らの研究からはうかがえます。
おわりに
今回は、監査事務所の再編の「その先」について、監査研究を紹介しながら考えました。ただし、このコラムで紹介した研究は、監査事務所の再編に関する研究の一部にすぎません。また、米国や中国で得られた研究成果が、そのまま日本にも当てはまるとは限りません。
それでも、これらの研究は、監査事務所の再編を考えるうえで重要な視点を提供してくれます。合併や経営統合の相手となる監査事務所の人材や監査クライアントのリスクをどう評価するか。合併後に知識を共有し、品質管理をどう浸透させるか。再編の「その先」を左右するのは、単なる規模の拡大ではなく、こうした具体的な取り組みなのかもしれません。
【参考文献】
Christensen, B., K. W. Smith, D. Wang, and D Williams. 2023. The audit quality effects of small audit firm mergers in the United States. AUDITING: A Journal of Practice & Theory 42 (2): 75–99.
Kitto, A. R. 2024. The effects of non-Big 4 mergers on audit efficiency and audit market competition. Journal of Accounting and Economics 77 (1): 101618.
Liu, L., Y. Sun, C. Zhang, and H. Ning. 2026. Does the merger of audit firms necessarily improve audit quality? Accounting & Finance 66 (1): 223-237.
【執筆者紹介】
山本健人(やまもと・けんと)
福岡大学商学部経営学科准教授。2018年、神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。熊本学園大学商学部特任助教、同大学大学院会計専門職研究科専任講師、准教授を経て、2026年4月より現職。専門は監査論。監査、コーポレート・ガバナンスに関する実証研究に取り組む。











