
林雄次
【編集部より】
デジタル士業®×資格ソムリエ®の林雄次先生が、公益社団法人全国経理教育協会主催の「中小企業BANTO認定試験®」を受験されたと聞き、受験体験記をご執筆いただきました! 新しく資格試験を受けたいと思っている方はぜひ、本記事をきっかけに挑戦してみてはいかがでしょうか。
「中小企業BANTO認定試験」という資格をご存じですか?
BANTOと聞くと、昔の商家で主人を支えていた「番頭さん」を思い浮かべる方もいるでしょう。実際、この資格が目指しているのも、経営者のそばで会社全体を見渡し、経営を支えられる人材です。
私はこれまで、社会保険労務士、中小企業診断士、行政書士、情報処理安全確保支援士をはじめ、700を超える資格・検定を取得してきました。その中でも中小企業BANTO認定試験は、特定分野の専門知識だけを証明する資格というより、中小企業経営に必要な知識を横断的につなぐ資格という印象があります。
今回は、実際に受験して感じたこと、この資格がどのような人に向いているのか、さらに他の資格とどのように組み合わせられるのかを紹介します。
(※試験情報は2026年7月時点のものです。)
中小企業BANTO認定試験とは?
中小企業BANTO認定試験は、公益社団法人全国経理教育協会が主催し、中小企業庁が後援する認定試験です。
BANTOは「BUSINESS ACCOUNTING AND TOTAL OFFICER」の略称。洒落だけではなく、ちゃんと意味が通っているんですね(笑)。
ちなみに会計だけでなく、経営全体を見渡し、社長を支える「経営参謀」に必要な知識や判断力を学ぶことを目的としています。 試験範囲は次の6分野です。
- 経営計画と事業承継
- ヒト・モノ
- ガバナンス(経営法務)
- 情報
- カネ(会計)
- 税金
実際の内容として、経営理念や経営計画、事業承継、人材育成、労務管理、コンプライアンス、契約、会社法、DX・AI、資金繰り、財務分析、税務など、中小企業経営に関係する幅広いテーマが扱われます。 2025年9月1日より試験内容がリニューアルされ、知識を知っているかどうかだけでなく、実際の経営課題に対してどのように考えるかという、課題解決力や現場対応力を重視する試験へと変更されました。公式テキストも、架空の中小企業で発生する問題をストーリー形式で学べる内容になっています。
試験概要は、次のとおりです。
- 受験資格:制限なし
- 試験方式:全国のテストセンターで実施するCBT方式
- 出題形式:四肢択一式44問
- 試験時間:90分
- 合格基準:100点満点中70点以上
- 受験料:6,100円(事務手数料を含む)
- 実施時期:原則として随時
年齢や学歴、職歴を問わず受験できるため、社会人だけでなく、学生やこれから中小企業への就職を考えている人も挑戦できます。
なぜ中小企業BANTOを受験したのか
私がこの資格に興味を持った理由は、資格名の面白さだけではありません。
私は社会保険労務士として「ヒト」、中小企業診断士として「経営」、行政書士として「法務」、情報処理安全確保支援士として「情報・セキュリティ」と、さまざまな立場から中小企業を支援しています。
しかし、中小企業の現場では、問題が一つの分野だけで完結することはほとんどありません。
例えば、会社が新しいシステムを導入しようとするときには、ITの知識だけでなく、導入費用や資金繰り、業務プロセス、人材教育、情報セキュリティ、契約関係なども考える必要があります。
事業承継についても、後継者を決めるだけでは終わりません。株式や税金、組織体制、人材育成、取引先との関係、経営理念の承継など、多くの問題が関係します。
中小企業BANTOは、こうした経営課題を「経営」「人事」「法務」「情報」「会計」「税務」に分断せず、会社全体の問題として捉える資格です。士業をはじめとする専門資格が「縦に深く掘る」資格だとすれば、中小企業BANTOは「専門分野を横につなぐ資格」だといえるでしょう。
700を超える資格を取得してきた私にとっても、この「横につなぐ」という設計は非常に興味深く感じました。
実際に受験して感じたこと
幅広いが、単なる雑学試験ではない
最初に感じたのは、想像以上に出題範囲が広いということです。経営計画を考えていたと思ったら、次は労務管理、契約、情報管理、財務分析、税務へとテーマが切り替わります。
でも、幅広い知識を暗記するだけの雑学試験ではありません。
「この会社では何が問題になっているのか」
「経営者を支える立場なら、何を優先すべきか」
「法律や数字だけでなく、現場で実行できる対応は何か」
このように、知識を実際の経営場面に当てはめて考える姿勢が求められます。
リニューアル前は知識を確認する問題で、結構細かくて難しそうだなと躊躇していました。リニューアル後は、問題文の状況を読み取り、複数の選択肢の中から、より適切な対応を選ぶ力が重要になり、実践的になっていると感じます。
「知っている」と「使える」の違いが分かる
私の場合、労務、法務、経営、ITなど、保有資格と重なる分野も多くありました。それでも、専門資格とは少し違った視点を求められます。専門家として厳密な答えを出すというより、経営者を支える立場として、会社全体を考えながら現実的な選択をする視点です。
個別の知識を持っていても、それぞれが頭の中でバラバラになっていては、経営には活かせません。
中小企業BANTOの学習を通じて、
- 人事施策が経営計画とつながっているか
- IT投資が業務改善や財務にどう影響するか
- 法令順守と現場運営をどう両立させるか
- 売上だけでなく資金繰りまで見られているか
といった、知識と知識のつながりを確認できます。
難関資格とは違う難しさがある
中小企業診断士や社会保険労務士などの国家資格と比較すれば、一つひとつの論点を極めて深く掘り下げる試験ではありません。しかし、「浅い知識だけで簡単に合格できる試験」と考えるのも適切ではないでしょう。
範囲が広いため、自分の得意分野だけでは対応できません。会計が得意な人も労務や法務、ITを学ぶ必要があります。人事に詳しい人も、資金繰りや財務分析を避けて通ることはできません。
特定分野の難問を解く力というより、経営全体の基本知識をバランスよく身につけることが、この試験のポイントです。なお、試験が実践的である分だけ各種専門資格と異なる部分があり、国家資格保有者も一度公式テキストを読んでおいたほうが安心です。
(後編・明日掲載予定へつづく)
【プロフィール】
林雄次(はやし・ゆうじ)
はやし総合支援務所代表。IT関連企業に勤務後、「はやし総合支援事務所」開業。中小企業診断士、社労士、行政書士、情報処理安全確保支援士等として企業向け支援を行いつつ、「資格ソムリエⓇ」「デジタル士業Ⓡ」としてさまざまなメディアで活躍中。僧侶の資格も持つ。保有資格・検定は約600を超える。著書に『社労士事務所のDXマニュアル』(中央経済社)、『資格が教えてくれたこと 400の資格をもつ社労士がみつけた学び方・活かし方・選び方』(日本法令)、『かけ合わせとつながりで稼ぐ 資格のかけ算大全』(実務教育出版)など。
【公式テキスト紹介】

中小企業の経営環境の変化に対応するための経営幹部(番頭=BANTO)の養成に資する一冊です。ストーリー形式で、経営、人事・労務、法務、情報、会計、税金等の基本を解説します。











