社労士事務所のAI活用ガイド~第7回:知っておきたい生成AIの選択肢――汎用AI・業務特化・RAGの違い


【編集部より】
生成AIの発達が目まぐるしい現在。社労士事務所ではどう活用できる?本連載では、『社労士事務所のDXマニュアル』(中央経済社)著者で、デジタル士業®×資格ソムリエ®の林雄次先生にやさしく教えていただきます。

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はじめに

前回は、社労士事務所の生成AI選びを「性能比較」から始めるとうまくいきにくいことを確認しました。

大切なのは、まず用途を決め、扱う情報の性質を見極め、事務所としての運用体制を考えることでした。

では、その前提を踏まえたときに、社労士事務所は具体的にどのような生成AIや関連ツールを選択肢として見ればよいのでしょうか。

今回は、その全体像を整理しながら、汎用的なチャット型AI、業務特化型のサービス、RAGと呼ばれるナレッジ活用の仕組み、さらに周辺の連携領域までを、社労士実務に沿って見ていきます。

まずは「何を選ぶ話なのか」を整理する

生成AIの話になると、つい一つの万能ツールを探したくなります。

しかし実際には、社労士事務所が向き合うのは単一の製品ではなく、いくつかの役割を持つ仕組みの組み合わせです。

文章の下書きや要約に強いものもあれば、特定業務に最適化されたものもあり、さらに所内ナレッジを検索して活用する仕組みや、既存の業務フローとつなぐための周辺ツールもあります。

全体地図が見えていないまま「とりあえずAIを入れよう」とすると、必要以上に重い(=高い)仕組みを入れてしまったり、逆に業務に必要な要素が抜け落ちたりします。

ですから、まずは「何を選ぶ話なのか」を整理することが重要です。

汎用的なチャット型の生成AI

もっとも基本になるのは、汎用的なチャット型の生成AIです。

これは、いわば文章作成と情報整理の入口にあたる存在で、社労士事務所にとっても最初の導入先になりやすいものです。

法改正や通達の要点をA4一枚にまとめる、顧問先向けニュースレターのたたき台を作る、研修資料の章立てや説明文の素案を考える、就業規則改定で検討すべき論点を並べる、といった仕事には非常に相性がよいと言えます。

特に、「白紙から書き始める負担」を減らしたい場面では、汎用AIは強力です。すべてを完成品として出してもらうのではなく、下書きや論点整理の役割を担わせるだけでも、社労士の仕事はかなり効率化できます。

ただし、汎用AIは自由度が高い分だけ、使い方によって成果が大きく変わるもの。

指示が曖昧であれば、出力も曖昧になりますし、所内で使っている用語や文体、顧問先向けの説明の癖までは自動では反映されないと心得ておく必要があります。

たとえば、ある事務所では「従業員向け周知文」に求める文体と、別の事務所が使う「管理職向け説明資料」の文体はかなり違うはずです。

汎用AIだけで回そうとすると、その違いを毎回人が修正する必要が出てきます。つまり、汎用AIは最初の一歩としては非常に有効ですが、事務所全体の標準をそのまま再現してくれるものではありません。

汎用AIの穴を埋める業務特化型サービス

そこをどう埋めるかが次の課題になります(汎用的な文章生成中心のAIでも、ChatGPTのGPTsや、GeminiのGemsのように、ある程度のカスタマイズを行う仕組みは存在し、これらを利用するのも一手です)。

そこで次に選択肢に入ってくるのが、業務特化型のサービスです。

これは、人事労務、勤怠、問い合わせ対応、特定の文書作成支援など、特定の用途に最適化された仕組みを持つものです。

汎用AIに比べると自由度は低いかもしれませんが、入力項目や出力の型がある程度決まっているため、現場で迷いにくいという利点があります。

たとえば、特定の帳票作成、労務相談の一次整理、社内問い合わせ対応など、用途が比較的はっきりしている場合には、業務特化型の方が導入しやすいことがあります。
特に、「誰が使っても同じ流れで使えること」を重視するなら、汎用AIに工夫を重ねるより、最初から業務フローに寄せたサービスの方が扱いやすいことも少なくありません。

もっとも、業務特化型だから万能というわけでもありません。

特定の業務には強くても、少し用途がずれると柔軟に対応しにくい(性能が大きく下がる)ことがあります。

また、社労士事務所の仕事は、同じ「労務」でも顧問先ごとの個別事情が大きく、制度の説明、規程の整合、周知の仕方、社内体制の前提などが毎回変わります。そう考えると、業務特化型は「特定の工程を効率化する装置」として見る方が現実的です。

汎用AIか業務特化型か、という二者択一で考えるのではなく、何を自由に考えさせ、何を型にはめたいのかで使い分ける視点が必要です。

RAG

そして、社労士事務所が今後本格的に検討する価値が高いのが、RAGと呼ばれる仕組みです。

これは、生成AIに事務所の知識資産を検索させ、その結果を踏まえて文章を作らせる考え方です。

たとえば、所内で使っている就業規則の標準テンプレート、過去の顧問先向けレター、法改正対応メモ、研修資料、Q&A集などを整理し、それを参照しながら下書きを作れるようにするイメージです。

汎用AIだけでは、毎回もっともらしい一般論を出すことはできても、「その事務所らしい」説明や構成までは再現しにくいものです。

RAGを導入すると、生成AIの出力が所内標準に近づき、修正コストが下がりやすくなります。

このRAGが効きやすいのは、就業規則や各種規程の改定、顧問先ごとの説明資料、所内ナレッジの再利用といった領域です。

たとえば、単なる法改正の要約なら汎用AIでも対応できますが、「当事務所の標準的な説明の仕方で」「この業種の顧問先に合わせて」「過去の案内文と整合的に」書かせたいとなると、所内の過去資産にアクセスできる仕組みがあるかどうかで、出力の質がかなり変わってきます。

もっとも、RAGは便利な言葉だけが先行しやすい領域でもあります。実際には、参照する文書の整理、版管理、権限設定、古い情報が混ざらない工夫といった地味な準備・整備が不可欠です。

したがって、いきなり導入するより、まずは所内で再利用したい知識資産がある程度蓄積してから検討する方が現実的でしょう。

AI以外の各種ツール

さらに忘れてはいけないのが、OCRやRPAなど、AI以外の各種ツールの存在です。

生成AIだけを見ていると、「文章を作る」部分ばかりに意識が向きますが、実務ではその前後の工程も大きな負荷になっています。

PDFの読み取り、資料の転記、定型的な手順の流し込み、既存のストレージや業務システムとの接続など、いわば“つなぐ・流す”領域が整っていないと、生成AIで一部だけ速くなっても、全体としては思ったほど楽になりません。

おわりに~安心して運用できるものを選ぶことが大事

社労士事務所にとってAI活用とは、単に文章をうまく作ることではなく、業務の前後を含めて、どこにボトルネックがあるかを見つけて整えることでもあります。

では、こうした選択肢の中から何を選ぶかを判断するとき、どこを見ればよいのでしょうか。

ここで重要なのは、「一番賢そうなもの」を選ぶのではなく、「安心して運用できるもの」を選ぶことです。

特に社労士事務所では、入力データがどう扱われるか、管理者が利用状況を見られるか、出典を付けやすいか、日本語の品質が安定しているか、既存システムとつなげやすいか、コストが継続可能か、といった観点が重要になります。

文章の流暢さだけで選んでしまうと、後から「情報管理が怖くて結局使えない」「便利だが所内統制が取れない」といったことが起こりがちです。

つまり、社労士事務所にとっての生成AI選びは、単なる製品比較ではありません。

汎用AIはどこまでで、業務特化型は何に向き、RAGはいつ必要になり、周辺の連携領域をどう考えるか。その全体地図を持った上で、自事務所の仕事の流れにどの仕組みをどこまで組み込むかを考える必要があります。最初からすべてを揃える必要はありませんが、「どの領域を、なぜ、どの順番で整えるのか」が見えていると、導入後の戸惑いや後悔は大きく減ります。

次回は、この全体像を踏まえて、社労士事務所が迷ったときにどう始めるべきかを考えます。汎用AIだけで始める小規模スタート、管理機能を加えて所内利用を標準化する方法、RAGまで含めて知識資産を活用する方法という三つの導入パターンに分けながら、失敗しにくい進め方を具体的に見ていきます。


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