【編集部より】
本を読むのにぴったりな季節。「何かオススメはないかな~」と探している人もいるのではないでしょうか。
そこで、本企画では、実務家などの読書愛好家から、会計人コースWeb読者の皆さんにオススメする「読書の秋の課題図書」をご紹介いただきました(1日お一人の記事を順不同で掲載・不定期)。
受験勉強はもちろん、仕事や人生において新しい気づきを与えてくれる書籍がたくさんラインナップされています。ぜひこの機会にお手にとってみてください!
今回の記事では、 宮崎裕子先生(弁護士)に課題図書をお薦めいただきました!
オススメ書籍①『理論とケースで学ぶ 企業倫理入門』(高浦康有・藤野真也 編著、白桃書房)
最近、企業の不祥事が日々報じられています。特に「粉飾決算」や「不正会計」に関するニュースは、会計人コースの読者にとって非常に関心が高い話題でしょう。実務に入ると企業不祥事や会計不正に至らない場合でも、難しい判断を迫られる場面が増えてきます。
この本は、ビジネスの現場で役立つ「良い企業とは何か」「良い事業活動とは」「良い仕事とは」といった倫理的な判断力を鍛えるための入門書です。
本書の第Ⅰ部では、倫理学の基礎である功利主義や正義論を紹介し、第II部では倫理的な企業システムの構築やガバナンスについて深掘りしています。第III部とIV部では、具体的な事業活動や職場づくりの中での倫理的課題が解説されています。国内外の事例も多数取り上げられ、また、企業倫理が重視される背景も理論的に説明されています。
本書の特徴的な点は、各章に「討論のための問い」が設けられていることです。これらの問いを通じて、読者は企業不祥事に接した際、その背景や望ましい対応について自分自身で考えるトレーニングを受けられます。このような思考法は、実務においても大変重要です。
会計・税務の世界に飛び込む皆さんには、ぜひこの1冊を手に取ってほしいと思います。
オススメ書籍②『わかる!使える!うまくいく! 内部監査 現場の教科書』(浦田信之、中央経済社)
この本の著者は、私の前職の同僚です。執筆中から彼の話を聞いていたので、出版されたら必ず読もうと決めていました。そして、実際に本が届いたその夜、一気に読み切ってしまいました。
内容は、タイトル通り、内部監査業務に関する基礎から具体的な実務に至るまで、非常にわかりやすくまとめられています。私は約20年前、法律事務所の弁護士から社内弁護士に転職した際、監査について理解するために何冊か本を読みましたが、満足のいく「入門書」に出会えず、理解が進まないままでした。しかし、この本は三様監査の役割をイメージ図で示しており、私の曖昧な理解を明確にしてくれました。もし20年前にこの本に出会っていれば、内部監査の全体像をもっと早く把握できたことでしょう。
内部監査は企業においてますます重要な役割を果たしています。この理解を深めるために、幅広い部門の方々に読んでいただきたい1冊ですが、特に公認会計士や税理士を目指す皆さんにも一読をお勧めします。実務に入る前に内部監査の基本を押さえておくことは、今後のキャリアに大いに役立つでしょう。
オススメ書籍③『プリズン・サークル』(坂上香、岩波書店)
この本は、参加している朝活の講師から薦められた本で、島根県浜田市にある更生施設を舞台にしたドキュメンタリーです。
この施設は、受刑者の更生を支援するために先進的なプログラムを導入しており、本書では窃盗や詐欺で服役中の若者たちがTC(回復共同体)プログラムを通じて新たな価値観を見出す様子が描かれています。
特に印象的なのは、彼らが自己を見つめ直すための問いかけです。「イライラした時、身体にどんな変化が起きるか?」といった質問への回答を通じて、自己反省や課題解決の能力を育んでいきます。これらの問いかけは、自己認識を深めるための重要なスキルであると思いました。
受刑者たちが「語ること」を通じて自分の過去や感情に向き合う姿は、大いに参考になります。信頼関係を築き、誠実にコミュニケーションをとる能力は、業務の質を向上させる要素です。
著者が指摘するように、「塀の外でも本心を語り合う場は少ない」という現実は、周囲との対話を重視することの重要性を教えてくれます。受刑者たちの物語を通じて「語ること」の重要性を学ぶことで、相手との関係をより良いものにできるとも感じています。
ぜひ手に取って、成長のヒントを得てください。
<執筆者紹介>
宮崎 裕子(みやざき ひろこ)
日本およびニューヨーク州弁護士
GIT法律事務所カウンセル
慶應義塾大学法学部卒業。ワシントン大学法科大学院 知的財産法・政策学コース修了。
法律事務所や外資系企業の法務部を経てスリーエムジャパン株式会社代表取締役を務めた後、現職。現在、2社にて社外役員を務める。