タイで働くNFSQさんに聞く! 海外監査法人の日本人デスクってどんな仕事?


NFSQ

【編集部より】
海外の監査法人で働く場合、どのような仕事があるのでしょうか。また、どのような役割を期待されるのでしょうか。
そこで、在タイ大手監査法人の日本人デスクで働くNFSQさんに、業務内容や期待される役割、得られる経験などについてご紹介いただきます。将来、グローバルに活動したいと考える学生や受験生、若手の方はもちろん、まだ具体的には考えていないけど選択肢を広げておきたいという人にもオススメです!

海外勤務に関心がある人へ

はじめまして、NFSQと申します。
日本の大手監査法人での勤務を経て、現在はバンコクの監査法人で働いています。日本では主にIT監査を担当していましたが、現在は、IT統制やITガバナンスのご支援も担当しながら、主には日本人デスク(日系企業支援事業部)で日系企業の相談窓口のような役割を担当しています。

本記事では、日本人デスクの業務内容やそこで得られる経験を紹介します。
監査法人に勤務されている方の中には海外勤務に関心をお持ちの方もいらっしゃるかと思いますので、そうした方の参考になれば幸いです。

なお、本記事に記載の内容は筆者の個人的見解であり、過去または現在の所属組織の見解とは無関係です。

日本人デスクの役割

皆さんは「日本人デスク」にどんなイメージを持っているでしょうか。

監査法人の日本人デスクを一言で表現するなら、よろず相談窓口だと思います。受け付けている相談の範囲は非常に広く、監査業務をはじめとして、現地への新規進出もしくは撤退支援、現地法定監査およびグループ監査、税務アドバイザリーや税務調査対応支援、現地の法律・規制への対応支援、M&Aや事業再編、新規システムの導入支援、内部統制構築支援、内部監査支援、不正調査対応、ビジネス戦略見直しの支援など多岐にわたります。

サービスの内容は様々ですが、監査法人の日本人デスクに期待される主な役割は、(国や地域、法人ごとに差はあるかと思いますが)大きく2つ挙げられます。

1つは日系企業へのマーケティング活動、もう1つは在外日系企業の日本人担当者と監査法人のローカルスタッフのコミュニケーションサポートです。

一方で、プロジェクトの中に深く入り込んでチームマネージャーやチームメンバーとして手を動かしていく機会はあまり多くないのではないかと思います。そうした役割は基本的にローカルスタッフが担当し、日本人には「日本人にしかできないこと」が求められるようです。

1つ目の「マーケティング活動」についてはイメージしやすいのではないでしょうか。

在外日本人向けのセミナーを開催したり、定期的にクライアントと連絡を取って最新のトピックをお伝えしたりと、関係性の構築・維持が求められます。また、日本人相談窓口として、クライアントからの相談事項を承ってそれを法人内の適切な担当者に繋ぐことも重要な役割の1つです。

上述のような幅広いサービスのそれぞれついて概要を把握し、相談事項に合ったサービスを提示できるように備えておくことが必要になります。

2つ目の「コミュニケーションサポート」は、言語的サポートと文化的サポートに大別されます。

言語的サポートは端的に言えば通訳です。クライアントが日本語でのディスカッションを希望している際や、英語ベースの会議の中で特に複雑な内容を誤解なく伝える必要がある際などに、日本語でクライアントと認識を合わせ、その内容をローカルスタッフに英語で伝えることが求められます。

文化的サポートの役割は、ビジネス文化のギャップを埋めることにあります。例えば、相談をいただいてから見積を用意するまでのタイムラインやプロジェクトの進捗状況の共有の仕方など、クライアントから暗黙に期待される日本人的感覚をローカルスタッフに共有することで、クライアントが安心してサービスを利用できるように土台を整えることなどが挙げられます。

日本人デスクでの学び

ここまで読んでくださった方の中には、「果たしてこうした役割が監査人としてのキャリアにどう役に立つのか」と疑問に感じている方もいるかもしれません。

確かに、海外赴任から帰国後に監査チームに復帰してから、最新の論点にキャッチアップできておらず大変な思いをしたという話も耳にします。アメリカ赴任でPCAOB対応の修業を積んだというような例外的ケースを除けば、最新論点への対応が遅れたり監査の感覚が鈍ったりしてしまうことはある程度不可避的に生じてしまうでしょう。

しかし一方で、日本人デスクの活動を通じて得られる経験には、監査チームの中にいるだけでは得られない、かつ将来きっと役立つであろうものもありますので、ここでは特に3つを取り上げてご紹介します。

見識を広げる

監査チームないしプロジェクトチームの一員として仕事をすることで得られる経験が知見を深める類のものであるとすれば、日本人デスクでの経験は見識の範囲を広げる類のものであるといえます。

例えば、監査チームの主査としてクライアントから相談を受けるとき、先方の期待はおそらく会計士としての専門的な知見でしょう。一方で、日本人デスクの相談窓口として相談を受けるときは、その時々のトピックに応じた主要な論点の概観や法人としてのサポートの可否の情報が求められます。

トピックの幅は広く、税務の話かもしれませんし、M&Aの話かもしれません。自分の専門領域の話ではなかったとしても、先方の要望・困りごとを理解して論点を特定し、内部の専門家がクライアントの要望に沿った良い提案書を作れるように繋いでいくことが期待されます。

多数の会社から寄せられる経営に関する多種多様な相談事に対応することで、会社がどういうところで専門家のサポートを必要とするのか、どのトピックでどのような情報が求められているのかが見えてくるようになると、あらゆる話題に対して当意即妙な一次回答ができるようになってくるのではないでしょうか。

正式かつより専門的な回答はローカルの専門家から改めてお伝えするとしても、「この人に相談すれば何か返事が返ってくる」という信頼を得ることが日本人デスクの1つの目標だと思います。

クライアントとの信頼関係を深めるうえで、「とりあえず相談してみよう」という相談先として認識してもらえることは非常に重要ですし、監査人の目指すところの1つなのではないかと思います。

そうしたポジションを目指すうえで、日本人デスクでの幅広い領域の経験は帰国後においてもきっと役に立つのではないでしょうか。

短時間で概要と要点を理解する

通常、監査パートナーないしプロジェクトパートナーは重要なマイルストーンごとにチームの報告を受け、必要に応じてクライアントに対してチームメンバーが作成した資料を使って説明をするかと思います。

多くの案件を抱えながら、短期間で各チームからの情報にキャッチアップして重要な論点を押さえていくのがパートナーの役割の1つだとすれば、日本人デスクの経験はその予行演習になるかもしれません。

監査業務の遂行やプロジェクトチームとしての成果物の作成は多くの場合ローカルチームが担当しますが、何か問題があった際のコミュニケーションや最終報告会においては、日本語での対応が求められることがあります。

ローカルチームの代わりに日本語で報告することもあれば、質疑応答のみ日本語で対応するようなケースもあります。

大仰な言い方をすると、自分が作成に直接関与していない資料をチームの代表として説明することになります。したがって、事前に内容をよく確認し、クライアント目線でわかりにくい箇所があれば補足説明をできるように備えることが重要になります。

また、特にクライアントからのリクエストを日本語で受けているようなアドバイザリー業務では、クライアントの期待とローカルチームの理解が乖離してしまうことがあります。チームの作業状況や成果物を見て乖離がないかを定期的にチェックし、必要に応じて軌道修正を促すことも日本人デスクの重要な役割です。

このように、「チームから重要なポイントを正確に聞き取る力」、「少ないタッチポイントでチームの方向性を調整する力」、「重要論点を端的にクライアントに伝える力」を培う場として、日本人デスクは非常に良い場所なのではないでしょうか。

ガバナンスや内部統制の重要性を再認識できる

海外子会社におけるガバナンスや内部統制が本社同様に整備されていることは多くありません。一方で、グループ監査全体で見れば重要性が乏しいと判断されるような場合も、取引先からのキックバックや資産の横領といった不正のリスクは日本の本社よりも相対的に高いのが実情です。

「限られたリソースの中で最低限導入すべきガバナンス・内部統制は何か」、「特にリスクが高い領域はどこか」を経営者の方と議論する経験は、きれいに整った内部統制を監査するだけでは得られない気づきを与えてくれるのではないでしょうか。

日本人デスクのすすめ

Covid19以降、リモート会議の環境が多くの会社で整備され、国内にいながら海外の方と働くことが一段と容易になってきました。

実際、日本から世界各地の構成会社の監査人と協業されているグループ監査人の方も多いのではないでしょうか。グローバルな経験を積むという意味では、必ずしも国外に出なくてもよい時代になってきているのかもしれません。

それでも、日本人デスクでの経験は、視野を広げてクライアントの幅広い相談事に寄り添う良きアドバイザーとしての見識を得るうえで得難い経験値となると思います。キャリアアップの1つの選択肢に加えてみてはいかがでしょうか。

<執筆者紹介>
NFSQ
監査法人でIT監査やITリスク・ITガバナンスに係るアドバイザリー業務を担当後、バンコクの日本人デスクに転籍。稀にX(旧Twitter)とnoteで情報を発信する匿名アカウントです。
※すべての媒体での発信は個人の見解であり、過去または現在の所属組織の見解とは無関係です。
・Xアカウント(@NF_SQ_08


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